第2話 個性派ぞろい
料理部員は、唯一の二年生にして部長の僕一人、という事態は免れた。しかし、二人だけでも部活は成り立たない。後、一人は入ってくれないと。
「せっかく晃司くん、入部してくれたのに、このまま廃部になったらどうしよう。新入生が入学してからもうすぐ一か月だよ。それなのに、新入部員が晃司くん一人じゃ、これから入ってくれる人がいるかどうか期待薄なんだよなぁ」
僕は受験勉強をしている翔の背中に向かって愚痴を並べたてた。
「そのうち入ってくれる人もいるよ」
と、翔は勉強の手を止めて愚痴る僕を慰めた。
「入ってくれるかなぁ。このまま料理部がなくなっちゃうと、晃司くんにも悪いし、なんとかしないと」
「もしなくなったら、あいつも俺らと一緒に過ごせばいいじゃん」
「うーん・・・。そうだけど、やっぱり僕は、翔と二人で過ごす時間もほしいからさ」
そんな僕を翔は嬉しそうに抱きしめた。
「本当、お前は可愛いこと言ってくれるな」
そう言って、翔は僕の頭をわしゃわしゃなでた。
かといって、このまま手をこまねいているわけにもいかない。ここは部長として人肌脱いでビラでも作り、新入生の教室でも回らないといけないかな、と思いつつ、翌日の放課後部室に向かうと、そこには早々に晃司くんが来ていた。それともう一人、僕の知らない少年が立っていた。
「あ、因幡先輩!」
僕を見かけるなり、晃司くんが僕に駆け寄ってきた。
「料理部に入りたいって。僕の隣のクラスの子なんですけど」
晃司くんに紹介されたその男の子は、こっちを見ながらチョコっと頭を下げた。なんとなんと! これでとうとう三人目じゃないか。ラッキー! これでビラを作って新入生の教室回らなくて済む。
「おー!ありがとう。あ、僕、料理部の因幡一郎です。よろしくね」
「どうもっす。俺、
おいおい、随分チャラそうな新入部員だな。僕はちょっとこういうタイプは苦手だ。でも、ここは先輩として、ちゃんと対応しなきゃ。
「じゃあ、入部届、お願いします」
「ほーい!」
上原くんは、僕にひょいっと入部届を手渡すと、
「俺、一応サッカー部と兼部なんで、毎日は来れないけどいいっすか?」
と聞いた。サッカー部員が料理部との兼部を申し出るなんて驚いた。料理部とは対極にあるような部活に思えたのだが。
「サッカー部⁉ うん、全然いいけど、どうしてサッカー部の上原くんが料理部なんかに?」
「いや、だって因幡先輩が部長ですし」
「え? 僕?」
「はい。一年生の間で有名っすもん。因幡先輩がゲイだって。赤阪先輩と付き合ってるんですよね?」
僕と翔のことが有名⁉ 新入生と知り合いなんて晃司くん以外いないはずなのに、いつの間にそんな噂が広まっていたのだろう。
「あ、うん。まあそうだけど」
僕がそう答えると、上原くんは手を叩いて喜んだ。
「やっぱり噂は本当なんすね! あ、俺、バイなんで。一応、どっちもいけるっていうか」
「え? あ、はい?」
「いや、だから、俺、男も女もどっちもイケるんす。普段は普通の男っぽくしてるんですけど、やっぱり男が好きだなって思うことも多くて。因幡先輩なら、そういう話も普通に聞いてくれそうだし」
なんだなんだ。この部活はどうなっていくんだ? ゲイやバイのための部活ってことになるのか? 主目的たる料理はどうなっていくんだ?
「はぁ・・・。そりゃどうも・・・」
「荒川に聞いたら、荒川もゲイだっていうし。あ、ちょうどいい部活があったなって。ここなら隠し事なしでやれそうですし」
「ちょっと待ってよ。もしかして、上原くんの他にも、僕がゲイだからこの部活に入りたいって生徒いたりするの?」
「さあ、どうなんすかね?そんなにゲイとかバイとかいるんすかね? 荒川、どう思う?」
「うーん。どうだろ。そんなにたくさんいないとは思うんだけど」
晃司くんはそう言って肩をすくめた。
その時ドアのノックの音とともに
「すみません。ちょっといいですか?」
という声が部室の入り口から聞こえて来た。振り向くと、今度は一人の女子生徒がそこに立っていた。もしかしてまた新しい入部希望者か?
僕の予想はビンゴだった。彼女はカバンから入部届を取り出した。今度はゲイでもバイでもない「普通の」女の子って感じの子だ。
「わたし、
木村さんは僕と握手を交わすと、続けてこう言った。
「因幡先輩が男性を好きなように、わたし、女の子が好きなんです。わたし、レズビアンなんです」
こんな新入部員は男だけかと思ったら、女の子の部員までこう来たか! いや、もうこの部活は一体・・・。
「どうしたんですか?」
僕が苦笑するのを見て木村さんが尋ねた。僕は晃司くんや上原くんと顔を見合わせた。僕と同じ感想を抱いているようだ。
「俺、新入部員の上原栄斗っす。俺、一応、バイなんで」
「僕は荒川晃司です。ゲイです」
そういう二人の自己紹介に、今度は木村さんが驚く番だ。木村さんは目を丸くして、
「え、二人とも?」
と尋ねた。二人は頷いた。木村さんは驚いたのか、言葉を失って僕の方を見た。
「なんか、こんな部員ばっかりになっちゃったね」
僕はそう苦笑するしかなかった。
「ですね」
晃司くんが僕に同意する。
「でも、面白そうじゃないっすか。このまま表向きは料理部で、実はセクマイサークルって感じでどうっすか?」
と、上原くん。嶺くんに言われた部活が思わぬ形で実現しようとしていた。
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