第31話 暴かれた真実
「あ・・・あ・・・あの・・・その・・・ちょっと考えさせ・・・」
僕は声を振り絞り、「考えさせてほしい」とこの場を何とか切り抜けようとした。しかし、そんな僕に周囲から一気にブーイングが起こる。
「女の子から告白させておいてそれはないだろ」
「因幡、笹原のこと好きだったんじゃねぇの?」
「早くOK出せよ!」
僕が華ちゃんのことが好き。そうだ。僕はずっとそうやってクラスメートに話して来たのだ。僕がゲイだとバレないように、「好き」だと設定した相手。だけど、絶対華ちゃんが僕に興味をもつことなんてないと、僕は思っていた。華ちゃんと仲良くなったのも、僕はただのいい友達になったつもりでいたんだ。それなのに、それなのに・・・。
僕が今まで築いて来たものが全て音を立てて崩れて行くようだった。僕は震えながら、
「で・・・で・・・で・・・でき、ない」
と声を絞り出した。「え?」という表情で華ちゃんが僕の方を見る。
「できない・・・。ごめん・・・。僕、華ちゃんとは・・・華ちゃんとは付き合えない」
僕は声にならない声で答えた。だが、あまりにも小さな声に、華にも周囲にも聞こえない。
「おい、聞こえねえぞ!」
「はっきり言えよ!」
と周囲からヤジが飛ぶ。
「ごめんなさい! 僕、華ちゃんとは付き合えません!」
僕はそう叫ぶなり、僕らを取り囲む輪になる生徒をかきわけ、一目散に逃げだした。
もう、おしまいだ。僕の視界は涙で霞んだ。ずっと今まで積み上げて来た高校生活も、もうここでおしまいだ。何もかも・・・。
僕は脇目もふらず、校門を飛び出し、ひたすら駆け続けた。
気が付くと、僕は翔のアパートの前に立っていた。インターホンを何度も鳴らすも、誰もいない。まだ、帰ってないんだ。僕は力なくその場に座り込んだ。僕は、携帯を取り出し、震える手で翔に電話をかけた。何度も何度も僕は携帯を持つ手が震え、電話をかけるのに失敗しながらやっとのことで発信ボタンを押す。
「一郎、どうした?」
いつもの翔の声だ。僕は切羽詰まって矢継ぎ早に
「翔、今どこ? いつ帰るの? 早く帰って来て!」
と叫んだ。
「ちょっと、落ち着けよ。俺、今帰ってるところだから、後五分もしたら帰る。お前、俺んちの前にいるのか?」
「うん・・・。早く、会いたい・・・」
「わかったよ。俺も急ぐから」
そう言って、翔は電話を切った。僕は震えながら今か今かと翔の帰りを待った。たったの五分が何時間にも感じた。
どれだけ待っただろうか。階段を駆け上がる音がやっと聞こえ、僕は顔を上げた。翔が息を切らせながら走って来た。僕は翔に抱き着いた。翔も僕を抱きしめてくれた。いつもの温かい翔の胸の中だ。一気に安心感に包まれた僕は泣き出した。
「おいおい、いきなり泣くなよ。どうしたんだ? とりあえず、家、入ろ。な?」
翔に優しく促され、僕は泣きながら頷くと、しゃくりあげながら、翔の部屋に通された。僕は翔のベッドの上に座り、しくしく静かに泣いた。そんな僕に、翔はいつか、僕を助けてくれたあの日のように、そう、僕らが再会したあの日のように僕にお茶を淹れてくれた。僕は僕のしょっぱい涙と混ざり合い、よく味のわからなくなったお茶を口にする。味はわからなくても、温かさが身体中に染みわたる。あの時のように僕はひたすら泣いた。
翔は僕が泣き止むまで、そばであの時のように背中をさすってくれた。僕は翔の膝の上に顔を埋めて泣き続けた。一通り泣くと、僕は一言つぶやいた。
「翔、ごめん。僕、もう隠し通せないかもしれない・・・」
「・・・どういうこと?」
翔は僕が言わんとすることを察知したようで、今までの温和な表情が一転、険しい表情になった。僕は唇をぎゅっと噛みしめた。
「あの子に、華ちゃんに、今日、告白されたんだ。皆の前で・・・」
「・・・おい・・・」
翔は言葉を失った。
「・・・で、どうしたんだよ?」
翔はかすれた声で僕にそう聞いた。
「ちゃんと断ったよ。僕には翔がいるから」
僕は再び涙をぽたぽたこぼした。翔は全てを察してくれたようだった。翔は黙ったまま、僕をそっと抱きしめた。
「翔には迷惑がかからないようにするね。僕は誰と付き合ってるかって話はしないつもり。バレるのは僕だけでいい」
僕はぎゅっと固く結んだ自分の拳を握りしめた。すると、
「そんなことさせるかよ」
そう翔がつぶやいた。
「え?」
僕は翔を見た。翔は決意を固めた表情をしていた。
「もし、お前がこの問題を一人で抱え込むつもりなら、俺も一緒に抱える。お前一人で苦しませることはしない。俺がそばにいてやる。いいよ。俺が彼氏だって言え」
「そんな、翔だってそんなことしたら・・・」
「わかってるよ。去っていくやつはいるだろうな。俺の学校での立場もなくなるかもしれない。でも、それならそれでいい。俺は、一郎と付き合えてずっと幸せだった。このお前との関係のせいで、俺と縁を切りたいというやつがいるのなら、切ればいい。そんなやつらとの絆より、俺にとって、お前との絆の方が百倍、千倍、いや、何億倍も大切なんだ。
いいか、一郎。俺を信じろ。俺だけは絶対にお前を裏切らない。俺はお前のことを誰よりも、この世界で誰よりも愛しているから」
僕は翔に抱き着いて声を上げて泣き出した。
「僕もだよ。翔のこと、誰よりも、他の誰よりも大好きだよ」
僕は泣きながらそう叫んだ。
そうだ、僕には翔がいる。
どんな時でも味方になってくれる、この強い強い味方が。
中学の時とは違う。
僕は、もうあの時みたいに孤独じゃない。
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