第21話 ファッションリーダー




 孤児院にアンジェラが住み着いてからというもの、子供達の間にはファッションブームが訪れていた。

今まで汗と泥が最高のオシャレだった子供達が彼女の毒牙にかかり目覚めたのだ。


「アニーさん、見てくださいこの羽! 可愛いでしょう? ポイントはこの先っぽなんです!」


訓練の合間に一人の女の子が、アニーに背中の羽を自慢する。

羽の先っぽは若干丸みを帯びていたが、アニーからすれば他と対して変わらないように思えた。


「えっと。う、うん、可愛いね。その先端とか特に?」


彼女には羽の魅力は伝わっていなかったが、多くの子供達は訓練の休憩中にわざわざ羽を装備するのだ。


「アニーさんの羽も見たいです! 絶対似合いますよ!」


ケインやレインと比べて背が低いアニーは、子供扱いされることが嫌いだった。

子供達と同じように羽をつけてしまうと絶対に笑われてしまうため、彼女は断固拒否した。


「いらない! 私は羽持ってないし、ほしいとも思ってないから!」


「またまたー、強がりはよくないですよ。アニーさんっ」


年下の子供に子供扱いされる始末である。

しかし、アニーは怒ったりはしない。

そこが子供達に人気の理由だろうか。


「アニーさんが羽つけるの!? みたいみたい!」


「お! よっ、アニーさん! 天使天使!」


わらわらと子供達が集まってくる。


そんな子供達に混ざって彼女に近づく大きな影はアンジェラだ。

今日の羽はひときわ大きく、もはや翼である。


「アニーちゃん、貴女も羽がほしいの? いいわよ。ちょっとまっててね」


「あっ、違います! いりませんから!」


だが、アンジェラはいそいそと部屋へ戻っていってしまった。

子供達は逃がすまいとアニーを囲み込んではニヤニヤと笑った。




「まったく、ひどい目に遭ったぁ。ケイン! あんたも羽つけなよ!」


すっかり気力を消耗したアニーは、レインの部屋に来ていた。


「イヤだよ! だいたいなんだよ羽って、ダサすぎだろ」


ちらちらとレインを見ながらケインはカッコつける。

本当は彼女の天使姿が見たくて仕方ないケインである


「羽ってなんですか?」


「え?」


アニーとケインの声が重なる。

何週間も前から羽の話題がでているのに、まさかの知らない発言であった。


「あれですよ! アンジェラ様の背中の!」


「あー、あれですか。何の魔導具なんですか?」


もはやレインの頭の中は脳筋のそれである。

アニーとケインは頷き合い、そっと話題を逸らすことにした。


「そういえば、アンジェラ様の姿が見えませんね。いつもウロチョロと歩き回ってるのに」


「彼女なら今、城下町の方へ向かっています。見張、ではなく護衛は三名つけました」


「なら半日は平和ってことだなぁ」


ケインも何かとアンジェラの標的になっているので、一安心である。

アンジェラと同じ金髪だったことも気に入られる理由だろうか。


「大げさですね。彼女には何の力もありませんよ。いてもいなくても平和です」


「違うよ、そういうことじゃないんだよぉ。レインさんは被害に遭ってないからそんなことが言えるんです!」


アニー達の苦労を知らないレインはどこ吹く風であった。




 そして、翌日

城下町から帰ってきたアンジェラのファッションは進化を遂げていた。


「大変だ! アンジェラ様の頭が!」


アニーの部屋の扉をケインはドンドンと叩きながら必死に呼びかける。


「もう、いま魔導具の整備で忙しいんだけど」


「そんなこと言ってる場合じゃない! こっちきて!」


ケインは彼女の手を引っ張って庭へ急ぐと、そこには子供達に囲まれた天使がいた。


翼に加えて、頭に輪っかを装着したアンジェラである。

どうやって輪っかが浮いているのかわからないが、とにかく二人の心は一つになった。


(アンジェラ様、歳を考えて下さい!)


ムーランより年上の三十路本気コスプレである。

無駄に似合っているのは気のせいだろうか。


「あら、アニーちゃん。ふふ、貴女の羽と輪も用意してますわよ」


「僕もほしい!」


子供達は大盛り上がりだが、アニーは大盛り下がりだ。


「絶対いりません! 絶対に!」


「羽......輪っか......天使......レイン......」


ケインは絶賛妄想中だ。


「ほらほら、皆さん。アニーちゃんを捕まえてください。そしたら、ちゃんと差し上げますから」


「やったー! まてー!」


こうしてアニーと子供達の鬼ごっこが幕を開けたのだった。




§




 一方、影が薄くなったムーランは良い枕型魔導具が手に入ったので、たまにはアンジェラへプレゼントしようと考えていた。


「ひひ、こんな感じですかね」


枕に適当にリボンを巻いて、アンジェラの部屋へ向かう

こっそり部屋に置いてサプライズプレゼントにしようと思ったのだ。


アンジェラが子供達と遊んでいるのは魔水晶で確認済みだったため、ノックすることもなく扉を開け放つ。


そしてムーランの思考は停止した。


「キャッ、あっ、違うんです。これは、どんな魔導具か確認しようと思、って......」


そこには銀髪の天使が降臨なされていたのだった。



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