第10話

 コトリは自分でも今自分がどんな声を上げたかわからなかった。少なくとも、素っ頓狂な声を上げていたのはわかった。驚いている様子のコトリに、店主はこう告げた。

「言っただろ、魔法なんて大したもんじゃないってな。嬢ちゃんが想像しているような魔法が使えんのはエリート中にエリートだけ。塾のCMとかも、上手く行ったやつだけがピックアップされんだろ? お話の中の魔法使いなんて、あれと一緒だよ」

「でも、それでもですよ! なんで言ってくれなかったんですか! 私が魔法を選んだ時!」

「嬢ちゃんが『何でも良い』って言うからよ」

 そんな事、そんな事言った覚えは。

 いや、確かに言った、と思う。あの時魔法に縋っていた自分は、そういうことを言ってもおかしくない。コトリは自分の発言に後悔した。

 あぁ、もう自分の発言に後悔するのも何回目だ? 両手で数え切れないほどあることだけ、コトリは自分で知っていた。そうした中、コトリに一つのアイデアが浮かんでいた。

 ───このクッキーとか、この飴とかを買い直せば新しい魔法を手に入れることができるんじゃないか?

「じゃあここにあるの一つください、新しいのがほしいんですよ」

「そりゃあ無理だな。新しい魔法に書き換える時、一年待つって言っただろ? そんなにその魔法が嫌いかぁ?」

「嫌いですよ、子供っぽいですし。そりゃあ、あのときは便箋があったから良かったけど」

「でも俺は何人もここで魔法使いになっていったやつのこと見てるけど、俺の知ってる魔法使いの中でも一番かっこよかったぞ」

 コトリはそんな言葉を言われて、少し嬉しくなった。

 しかし店主のにやけた笑顔がそのコトリの気持ちを台無しにしたので、結局その店主の言葉はコトリには響かなかった。店主の顔に苛ついた。何かしてやろうか。

「というか、それでなくて良いのか?」

「あ、これ電話じゃないので大丈夫ですよ」

 きっと店主は携帯の通知について言っているのだろう。コトリはそのグループラインの通知をオフにした。

 昨日できた三人ぼっちのグループラインだ。ラインが苦手なコトリだが、そのグループラインだけは他のグループよりは軽い気持ちで入ることが出来た。スマホをしまおうと思っコトリだったが、一つ考えが浮かんだのでスマホをしまう手を止めた。

 ふと、スマホを開いたコトリは気になって調べてみた。裁判沙汰になっていた、というし変わった店とはいえ、ちゃんとした許可や申請を済ませているならきっとこの店も───

 あった。想像通りだ。

「あの、店主さん」

「何だ?」

「レビューって知ってますか?」

 察した店主がコトリのことを止める声を背に、コトリは文房具売り場にあった、試し書きのメモ用紙で紙飛行機を作った。

 そしてそれを、力いっぱいドアの開いた隙間から飛ばしてやったのだ。

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魔法一粒 橙野 唄兎 @utausagi

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