第9話

 一週間前の記憶を頼りに、三年ぶりに自転車に乗って魔法屋を目指していた。

 これで最悪なのは、消えているというパターンだ。こういった魔法屋は、主人公になにか渡した後消えてしまうパターンが多い。

 コトリは幼い頃見た小説でこういった例を何回も見てきた。消える前に、もう一度聞いておかねばならない。

 信号機を右に曲がると、そこにはまだあの『魔法どう?』の寂れた看板があった。 コトリは自転車を生い茂った雑草の中に止めると、先週のようにゆっくりとドアを開けて入っていった。

 先週となんら店の中身は変わっていない。悲しいことに商品棚の変化も、心なし先週と変わっていないようにも見受けられた。

 変わっていたのは、あの男の子が店の中にいるという点だけだった。

 男の子はコトリを見ると店主の男を呼びに行ったのか、レジの後ろ側の住居スペースらしき場所に入っていった。きっと店主の男を呼びに行ったのだろう。

 そして、いつ見てもみすぼらしい店主が出てきた。

「あぁ、先週の嬢ちゃんか。ニュース見たぞ。かっこよかったじゃないか」

 店主はどうやらコトリのことを覚えていたみたいだ。ありがとうございます、とコトリが告げると、住居スペースの方に戻っていってしまいそうになっていた。

 今日の彼は非番かもしれないが、それでもこれだけは聞かなきゃいけない。

 そう思ったコトリはいきなり本題を切り出した。

「魔法が出ないんです。店主さんの言う通り、三日待った上で色んなことを試してみました。店主さんがやっていたように手から花を出そうとしたり、いっぱいいっぱいイメージして見たり、図書室で色んなファンタジー小説とか魔法の本とかみてみたりしたんですけど、やっぱり魔法が出せなくって。だからまた、ここに来ました」

 あの後悪い意味で警察にお世話になった上に、あの騒動がニュースになったせいで、学校では変な噂で流れてしまった。その結果、『変な行動力のあるやつ』『紙飛行機マイスター』などのレッテルを貼られてしまった。

 あの時、カッコいい魔法が出せていれば一躍有名人だったのに。何で私は紙飛行機なんて子供っぽい手段を取ってしまったのだろう。

 コトリが話している最中店主の男はつまらなそうにしていた。寧ろ男の子のほうが当事者のように真面目に聞いていたようにさえ思える。

 その店主の態度に耐えられるほど、コトリは大人ではなかった。

「魔法をちゃんと出す方法を教えて下さい! もしくは追加購入することができたらそれでも構いません」

「え? 嬢ちゃん、自分で自分の買った魔法に気づいてないのか? 綺麗にアレ、飛んでただろうに」

 その言葉の真意が、コトリにはわからなかった。いや、予想は着いていたが分かりたくなかった。

「アレって、ニュースの、アレですか? その、紙飛行機………」

「おう。だって嬢ちゃんが選んだ魔法って『紙飛行機がめちゃくちゃ上手く飛ばせる』ってやつだぞ」

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