指令2 ちびオレ改造計画発動!
「クソォ! これ以上、馬鹿にされてたまるか! みんな、消えちまえェ!」
カクオの渾身の叫びが、部屋の中をこだまする。
しかし、カクオの願いむなしく、カクオの分身たちは消えることはなかった。
そう、彼らは、すでにそれぞれの自我を持ってしまった。
カクオの意志で、彼らを消すことは・・・もうできない。
それから、しばらくたったある日のこと・・・。
再び、カクヨム作家『ヨムカクオ』の一室は、異様な雰囲気に包まれていた。
赤タイツを着たカクオとブルーが、せっせと何かのフレームのようなものを組み立てている。フレームが微妙に歪んでいるのか、組みつけが、思い通りにいかず、カクオの罵声が何度もあがる。
ブラックとフーリンは、そのそばで、裁縫をしている。
ブラックは、青い生地に赤い生地を縫い付け、フーリンは、白い生地にボタンを取り付けている。
ブラックは、その手を止めると、フーリンに手話で、ニヤニヤしながら話しかけ、フーリンはフーリンで、いやらしい目つきでブラックのことを見つめ、「じゃじゅ
じぇ」と妙な言葉を発している。
ちびオレは、みんなの周りを、いつも通り、ラップのリズムで盆踊りをしつつも、尻文字で【ミ・ン・ナ・ガ・ン・バ・レ・カ・ク・オ・シ・ネ】と鼓舞している。
そして・・・部屋の片隅には、開梱された箱が転がっていた。
その箱には、『猫型ロボットになろう!』という文字と青い猫型ロボットが、こちらに向かって右手を上げ、かわいく笑っているイラストが描かれている。
なぜ・・・このような状況が展開されているのか?
少し時間を巻き戻そう・・・カクオの自宅に、ある荷物が届いたところまで。
・・・・
カクオは、届いた荷物を前にして、悩んでいた。
こんな荷物を発注した覚えはない。
宅配便の伝票の品名欄には、『猫型ロボット製作キット』とある。
外箱を開梱すると、出てきたのは、一メートル四方の箱。
箱には、『猫型ロボットになろう! 対象年齢;二才~三才』と書いてある。
これは・・・いったい・・・なんだ?
すると、ブルーが嬉しそうな顔をして、カクオに話しかけてきた。
「ああ、ようやく、届いたっスね。
レッド、これ・・・ブラックが、未来から購入してくれたっス。」
「えっ 未来・・・?」
「そう、未来っス! これで、ちびオレをパワーアップさせるっス!」
「いや、ちょっと待て。いったい何の話だ?
さっぱり、わからん。ちゃんと説明してくれないか? ブルー。」
「アイアイ。レッド、猫型ロボットは知っていますよね。あの、不思議なポッケから
未来の小道具を取り出すブルーキャットっス。
これをちびオレに着せて、ブルーキャットにするっスよ!
そして、未来の小道具の力を借りて、PVをゲットするっス!」
「しかし、ブルー。オレには、これは・・・着ぐるみにしか見えないぞ。
それに、さっき、未来から買ったとか言ったよな?」
カクオは、PCを起動し、メールを確認した。
確かに、通販サイトのあるショップから、商品発送メールが届いている。
そのショップ名は・・・ミライ堂・・・確かに『未来』だが。
価格は・・・五万円だって・・・しかもカード払いで一括。
クソッ・・・ブラックめ! 何の相談もなしに、勝手に買いやがって。
カクオは、嫉妬・・・じゃなくて怒りの炎で満ちた目つきで、ブラックを睨みつけたが、髪の毛よりも細い目であるがゆえ、とてもじゃないが、睨んでいるようには見えなかった。
ブラックは、両肩をあげ、両手を広げる仕草をし、首を左右に振った。
さらにため息のような放屁をする。
「ブラック! すかしっ屁でため息をつくな! それに、人の金を勝手に使うな!」
「フッ・・・お前の金は・・・オレの金・・・オレの金は・・・オレの金だ。」
ブラックは、ニヒルな笑みを浮かべると、右手の親指を立ててグッと突き出す。
「クソッ! 馬鹿にしやがって・・・まったく、なんで俺は、あんな奴を・・・。」
「アイアイ。レッド、まあ、落ち着くっス・・・五万円でPVを買ったと思えば、安
い買い物っス。」
「そうか? オレには、そうは思えないが・・・。まあいい、話を続けよう。
ブルーよ。オレには、これはどう見ても着ぐるみにしか見えん。着ぐるみを着ただ
けで、ブルーキャットになれるとは思えないのだが・・・。」
ブルーの笑顔が、突然消えた。ブルーの顔が、無表情になり、右手でメガネのつるをつまむと、十六連射のように上げ下げを始める。
きっと、この小説が漫画であったならば、ブルーの背後に「ゴゴゴゴゴッ」という書き文字が描かれたはずである。
「アイアイ。レッド・・・オレッちのこと・・・馬鹿にしてるっスね?
オレッち・・・これでも、真面目に考えてるっス。同僚の佐藤のことを・・・。
あっ、あっ、イケね、違うっス・・・オレッちの理論によれば。」
「いや、馬鹿になんかしてないさ。ただな、着ぐるみ・・・。」
「ただの着ぐるみじゃないっス! これは、サイオニックスーツっス!」
「サイオニック? なんだ・・・それ?」
「アイアイ。潜在能力を引き出すスーツっス。ちびオレには凄い潜在能力が秘められ
ているっス。漫画やアニメに出てくる赤子を見ればわかるっス。
だから、これを着せれば、ちびオレの潜在能力が覚醒し、ブルーキャットのように
不思議なポッケから、未来の小道具を取り出すことが・・・きっと・・・出来るは
ずっス!」
「わかった、ブルー。お前が、そこまで言うんだ。きっと、間違いないだろう。
よし、早速、組み立ててみるか。まずは、説明書を確認しよう。」
カクオは、説明書と内容物を確認した。
着ぐるみを支えるフレーム、型紙、青、赤、白の生地、黒糸、黒いボタン、赤いリボン、鈴、そしてサクランボの食玩が入っている。
フレームを組み立て、それに生地をかぶせて、小物をつければ完成か。
しかし、このサクランボはなんだ? なになに、コレ・・・しっぽかよ。
青い生地には、赤と白の生地から切り出したパーツを縫いつけるのか。
ひげとかは、刺繍する感じと・・・。
確か、フーリンは、裁縫が得意だったはず。ここは、フーリンの出番だな。
カクオは、フーリンに電話をかけた。
「あっ・・・フーリン? 急に電話かけてごめん。今・・・大丈夫かい?
えっ? おけけの処理してる・・・アソコの・・・あぅ、ごめんごめん。
ん・・・そう、来て欲しいんだ・・・ちょっと、手伝って欲しいことがあるんだ。
ん・・・えっ、い、いいよ。それは、今度で・・・いい。
えっ? ああ、普通の格好でいいよ。だめだって、あれは刺激的すぎるよ。
普通の格好でいいって、アマゾネスの格好なんかしなくていいから。
ん・・・じゃあ、待ってる・・・えっ・・・ツルツル・・・いや、だからさ、この
小説、そういう小説じゃないんだってば・・・うん、じゃあ、後でね。」
そして、今に至るのであった。
・・・・
ついに、着ぐるみ・・・じゃなかった、サイオニックスーツが完成した。
出来上がったサイオニックスーツは、『猫型ロボットになろう!』の箱のイラストとはかけ離れたものになっていた。
その右の黒目は、上を向き、左の黒目は下を向いている。まさにアホのような目つきだ。鼻とひげは問題なかったが、口に問題があった。
箱のイラストでは、半月のように大きく口を開け、かわいらしく笑っているように見えるのだが、サイオニックスーツの口は、唇の端を歪ませている。
いまにも「ウケケケッ」と、悪意のこもった笑い声を発しそうな雰囲気なのだ。
「なんか、箱のイラストと感じが違うが・・・問題ないよな? ブルー。」
カクオは、おびえていた。
この薄気味悪いサイオニックスーツに・・・たかが、着ぐるみなのに。
しかし、これを見ていると、背筋に寒いものが走るのだ。このスーツが発する
「アイアイ。レッド。見た目は・・・問題ないっス・・・た・・・たぶん。」
「ブルー。お前も怖いのか・・・?」
「アイアイ・・・ちょっと、怖いっス。きっと、誰かの邪念が、
「邪念って・・・誰のだよ? まさか、ブラックとフーリンか?」
それを聞いたブラックは、両肩を上げ、両手を広げる仕草をする。
フーリンが、その黄色味がかった顔を紅潮させ、チリンチリン声で答えた。
「ふーちゃんが邪念を籠めたって言うの? ふーちゃん、そんなこと・・・。」
フーリンが、両手で顔を覆い、肩を震わせている。
泣いているような、笑っているような声を上げながら・・・。
「あ、ゴメン。フーリン。おいっ、ブルー・・・謝れよ!」
「アイアイ。申し訳ないッス! フーリン。」
カクオとブルーは、申し訳なさそうな顔をしながら、フーリンに謝った。
フーリンの泣き声らしき笑い声が止まり・・・。
「しましたぁッ! ふーちゃん、いっぱい、いぃっぱぁい、邪念、籠めたよぉ!
だって、これ、肝試し用の着ぐるみでしょ! ブラックさんがそう言ってたよ。」
顔を見合わすカクオとブルー。
ブラックは、声にならない
「おいっ! ブラック、何をやってるんだよ、お前! いい加減にしろよ!」
「オレは・・・ブラック・・・ブラックが・・・ブラックなことをやって・・・
何が・・・悪い? ククク・・・。」
そして、手話でフーリンに何か話しかけ、にやりと笑う。
「な、なんだ・・・フーリン、ブラックはなんて言ったんだ?」
フーリンは、ブラックのことを熱いまなざしで見ながら、「じゃじゅじぇ」と呆けたように声を発し、カクオの問いに答える。
「ブラックさんたら、今度、ふーちゃんのこと、緊縛・・・。」
「フーリン! これは、そういう小説じゃないって、何度言えばわかるんだ!
それにな、ブラック! お前、オレの女に手を・・・手を出すな!」
カクオは、激怒した。そして、悔しさで地団太を踏み、ブラックに詰め寄る。
「フッ・・・お前の女は・・・オレの女・・・オレの女は・・・オレの女だ。」
嫉妬の炎に燃え上がるカクオ。怒りの炎て満ちた目つきで、ブラックを睨みつけたが、やはり、あまりの目の細さゆえ、睨んでいるようには見えなかった。
そんなカクオを横目で見つつ、伸びをするブラック。
そんな二人の静かなる闘争を見かねて、ブルーは、右手でメガネのつるをつまみながら仲裁に入る。
「アイアイ、お二人! そのへんでやめるっス。話が進まないっス!
ちびオレに、早速、サイオニックスーツを着せるっス。
オレッちの理論では、見た目は・・・特に問題ないはずっス。」
「わかったよ。ブルー・・・くそっ、ブラック。覚えてろよ!」
ブラックは、カクオに向かって、右手を上げ、オーケーのサインを送る。
クソッ! ブラックの野郎、消して・・・クソッ、消せなかったんだっけ・・・。
どうすれば、どうすれば、ブラックを消せる・・・?
まあ、いい。今は、やるべきことに集中しろ! 集中しろ!
カクオは、人差し指を立てた状態で両手を組み合わせ、それを額に当て、意識を集中し始めた。
よしッ! 大丈夫、オレは・・・大丈夫だ。
ああ、しかし、フーリン、なぜ、キミは、オレをこんなに苦しめるのだ。
なぜ、あんな奴と・・・ああ、フーリン、愛しい人よ。
だが、いいさ、オレには・・・そうだ、同僚の佐藤がいるじゃあないか。
あいつに
カクオは、ここまで考えると、ちらりとブルーを見た。
ブルーは、カクオと目が合うと、無邪気な顔でにっこりと微笑む。
そんなブルーの姿を見て、カクオは、申し訳ない気持ちになった。
ダメだ。ダメだ。あいつは、ブルーの想い人じゃあないか・・・。
やはり、オレには、そんなことは出来ない。
オレは、ブラックのように、
そうだ、オレは・・・この小説の主人公だ。きっと、ハッピーエンドが待ってる。
だって・・・主人公だもの。よしッ! 今は、前進あるのみだ!
「ブルー! さぁ、始めるぞ。サイオニックスーツをちびオレに着せよう!」
「アイアイ、レッド。」
いちゃつくブラックとフーリンを横目で見つつ、カクオは、意識を作業に集中させた。今は、PVをゲットすることに意識を集中させるんだ。
ちびオレにサイオニックスーツを着せていくカクオとブルー。
ちびオレは、キャッキャツと黄色い声をあげ、喜んでいる。
その小さな体には、想像出来ないくらいの邪気が潜んでいるとはいえ、やはり、まだ子供なのだ。着ぐるみを着るのが、楽しくてしょうがないのだろう。
最後に、サイオニックスーツの頭部を、ちびオレに装着した。
その時、不思議なことが起こった。
空色のように青かったサイオニックスーツが、青と黒のまだら模様になった。
目のボタンがはじけ飛び、赤く光る二つの目が現れた。
ひん曲がった口が、さらにひん曲がり、フシュー、フシューと呼吸を始める。
そして・・・信じられないことに声を発したのだ!
それは、かわいらしい声だった。
「バケラッタ・・・バケラッタ。」
確かに、このスーツは、ちびオレの潜在能力を引き出している・・・カクオはそう思った。
ちびオレは、きっと、このスーツの力を借りて、大人の階段を一段上ったのだ。
「おっ、ちびオレがしゃべったぞ! でも、なんか、キャラが・・・違うよな?」
「バケラッタ、カクオシネ!」
「ちッ! 喋れるようになってもこれかよ。頭の中身は、変わってないようだな!」
「バケラッタ、バケラータ!」
ちびオレが、不思議なポッケを探り、何かを取り出し、高く
それは・・・四個のどらやきだった、
ちびオレは、そのどらやきをブルー、ブラック、フーリン、カクオに渡した。
どらやきには、『PV』の焼き印が押されていた。
だが、『P』のマルの部分がドクロのように見えるのは、気のせいだろうか?
「アイアイ。やったス、レッド。成功っス。早速、小説のPVを確認するっス!」
カクオは、急いで、PCを立ち上げ、カクヨムのワークスペースを開いてみる。
なんと、カクオの小説のPVが、『PV4』になっているではないか!
「ハハッ! やったぞ! ついにやった。PVが増えた・・・あれ?」
なぜか、『PV4』だったのが『PV3』になり、さらに『PV3』だったのが、『PV2』になってしまった。
なぜ・・・PVが減るんだ? なぜ・・・いったい、何が起きた?
その時、背後からブルーの声が聞こえた。
「うまいっス。これ・・・あんこと生地の相性が抜群で、マジ、うまいっス。」
「フッ・・・オレには・・・甘すぎる・・・生地がやや・・・甘いようだ・・・それ
により・・・バランスが・・・微妙に・・・崩れている・・・悪くはないが・・・
満点は・・・あげられん。」
まさか、どらやきを食べたから、PVが減ったのだろうか?
そんな馬鹿なことが・・・あるのだろうか?
「ふーちゃんも食べよっと。」
「あっ・・・ダメ。フーリン、食べちゃダメだ。PVが減っちまう。」
しかし、フーリンは、カクオの言うことを完全に無視し、一口でどらやきを食べてしまった。その瞬間、『PV2』が『PV1』になってしまった。
「あーもう、減っちまったよ。PV。やっぱり、このどらやき・・・。」
カクオが話しながら、後ろを振り向くと、恐るべき光景が広がっていた。
三人が、口から泡を吹き、倒れこんでいるのである。
そして、その周りをちびオレが、狂ったように小躍りしているのだ。
いったい、何が・・・起きたのか?
オレは・・・何も見てない・・・見てないことにするんだ。
狂気から心を守るため、現実逃避をするかのように、PC画面に目を戻すと、なんと応援コメントがついているではないか。
応援コメントを開いてみると、次のようなメッセージが書かれていた。
【食べなくてよかったね。あれは、毒どらやきだったのだ。
食べていたら、主人公死亡で、この小説も打ちきりだったよ。
他のメンバーは大丈夫。私の力でね、この話の終了とともに生き返るから。
次回、また登場できるから、安心したまえ。しかし、キミは死んだらいかん。
キミを死に追いやろうとする者がいるようだからね。気をつけなさいよ。
今後とも、キミたちの活躍を期待しているよ。】
コメントは、ペンネーム『作家さま』という者から送られてきたようだ。
しかし、この『作家さま』とは、いったい何者なのだろうか?
それに、オレを死に追いやる者がいるとは・・・いったい何のことだ?
まあ、いいさ。ついに初PVをゲットしたのだ。
さあ、決めのポーズを・・・と思ったが、カクオとちびオレ以外は、死んでしまっている。しょうがない。一人でポーズを取るしかない。
カクオは、どらやきを徳川の印籠のように持つと、見えないカメラに向かって突き出し、大声で叫ぶ!
「PV1ゲットだぜ!」
ついにPV1をゲットしたもんじゅトリオ。
目標は【PV100】。
・・・果たして、カクオは、無事生き残り、PVをいくつ取得できるのか?
それは、キミたち、読者さまの応援にかかっている・・・とか言いつつも、カクオの小説のPVが伸びるかどうかは、この小説の作家さまの御心次第なのだ。
その事実に、カクオたちは、まだ気づいていない・・・。
「バカラッタ、シネラッタ、ウケケケッ・・・。」
カクオの背後では、ちびオレが、連呼しながら、いまだに踊り狂っている・・・。
(次回につづく)
緊急指令!! PV1をつかみ取れ! @Ak_MoriMori
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