ハンデュラム
『今日の特集は、今、若い世代を中心に流行中のおもちゃ、ハンデュラム!!』
ある日、ニュースであるおもちゃが取り上げられていた。ハンデュラムという名は、ハンドとペンデュラムを合わせたものらしく、その名の通りピラミッド状の枠組みの中に振り子が入っている手のひらサイズのおもちゃだった。
遊び方はシンプルで、振り子を揺らすだけ、というものだ。掌の上で揺れる球体を眺めるだけ。
そんなものの何が面白いのかと多くの人間が思ったが、たいていは「若い世代がわからん。俺も歳を取ったもんだなあ」とひとり納得した。
自分には面白さが分からなくとも、テレビを始め、芸能人や動画配信者たちがSNSでこぞって面白いと言っているのだから、きっと面白いものではあるのだろう。というロジックもあった。
そのうち揺らし方の技を競う大会なんてものも始まった。それなりの賞金であったために、多くの参加者が集まったそうだ。その大会の様子には多くのコメントが寄せられていて、傍目からは大盛況のように見えた。
ネット上ではハンデュラムの話題を見ないことはなく、確かに流行っているようだった。
ニュースでハンデュラムについての特集が組まれた頃、早くもこの流行りに乗じて儲けようと考えている男がいた。いつも楽な儲け話について考えているような男だった。
彼はハンデュラムを大量に買い占めて、値が吊り上がったところで売り払おうというのだった。
その男にもハンデュラムの面白さは分からなかったが、流行っているのだから売れるだろうと考えていた。
男は端末片手に指先一つで、ペンデュラムを大量注文した。三ヶ月も経てば、俺も小金持ちに違いない。明るい未来予想図に男はニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
三ヶ月が経った。
男は、家を埋め尽くす大量の在庫を前にして、頭を抱えていた。買い占めた商品が、想像以上に売れないのだ。
「ネット上じゃ、いまだに大ブームなのになんでなんだ?」
何度も何度も考えてみたが、答えは出なかった。確かなことは、自分が大損をしたという事実だけだ。いったいこの損失をどうやって埋めたらいいのだろう。
ふと、端末に目をやった男は、ニュースサイトに特集が組まれていることに気がついた。
『今、大流行のお菓子!! 中からドロっとしたジェルが流れ出る、その名も臓物クッキー!!!』
男は思わず手を叩いた。
「これだ。これを買い占めて、損失分を回収しよう」
さっそく指先一つで、臓物クッキーを大量注文するのだった。
短編いろいろ 上杜海 @9cougar2
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