エピローグ
「はー、なんでかなー」
ヒビキが怪異を倒して一週間が経った。
怪異に影響を受けた人は特に異常がなく葵を含め全員即日退院だったのに、アズマだけ骨が何か所もおれていたので一週間ほど入院するらしい。
一週間で済むのかと思う方もいると思うが、改造人間トランスセクシャル・バスターズが一週間も入院するのはかなり大事である。
「あーあ、今回俺頑張ったんだけどなー」
「そうね、あなたはよく頑張ったわ」
ヒビキがお見舞いに来た。
「お、ヒビキじゃん」
「見ての通りよ」
学校帰りなのか、ヒビキは制服を着ていた。手には林檎を持っていて今剥くからねと言ってナイフも持った。
「なあ、ヒビキ」
「何?」
ヒビキは視線を変えずに、適当に答える。
「自分で言うのもあれだけどさ、俺、結構辛い人生を歩んできたんだ」
「うん」
「だからこの前みたいに価値観の違いとか出るかもしんねえけどよ、そこら辺はお互いに認め合っていこうぜ」
ヒビキは少し天井を見て、くすっと笑った。
「そうね、それがいいわ」
「俺は俺が正しいと思う。けど、お前のことも正しいと思う。答えが二つ出た時、迷わないようにするんだ」
「ええ」
ヒビキは切り終わった林檎をフォークで刺し、アズマの口に入れる。
そして色んな話をした。本部からベッドが届くとか、あの怪異はもしかしたら親子だったかもとか、アズマはそれに頷くだけだったが、
「ねえ」
林檎を食べながらヒビキに言う。
「何?」
「ご褒美ちょうだい」
「え?」
林檎を飲み込んだアズマはさっきよりはっきりした声で言う。
「ご褒美ちょうだい」
「……りんごあげたじゃん」
「足りん」
「なんてやつだ」
本当になんてやつだ。良い話ムードが台無しである。
「もっとくれ」
「何が欲しいのさ」
ヒビキがそう言うと、アズマは目を瞑り下唇をつき出した。
「カモン!」
「……キスしろと?」
「そうだよ」
アズマはきょとんとした顔をしている。何か間違っていることを言ってますか? と言いたげな顔だ。
「なんで?」
「知らないの? トランスセクシャル・バスターズで粘膜の接触をすると体の中にあるホルモンが活性化して怪我の治りが速くなるんだよ」
ちなみに、嘘である。
「そ、そうなの……?」
ヒビキは簡単に騙され、赤くなった。
簡単に騙されるヒビキに笑いそうになりながら続ける。
「うん、だからキスカモン」
「わ、わかった。じゃあ目を閉じててね」
ヒビキはアズマに顔を近づける――
「おいいいいいいっす! お見舞いに来たよ!」
「あおちゃんうるさいよ、アズマ、俺も来たよ」
空気を読まない二人が病室の扉を開けてしまった。
「「「「あ」」」」
四人の声が重なった。四部合唱出来そうな声のバランスだ。
それはもう、とんでもなく気まずい。
「私見てないからねー!」
「ご、ごめんね」
二人は謝罪を述べて去っていった。
ウワーヤッチマッタ! ヒビキの顔がみるみる内に赤くなる。こんな時でも冷静そうなのはアズマ位か、そっとアズマの方を向いてみる。
「いやいや、そういうのじゃないから! 俺嘘とか、つっ、ついてないから! たまたっるれろ! 噛んじゃった! たまたまだから! 従兄妹間でチュー位アメリカ邪常識なんやで! あれ、まだしてないの? 子供だなあ二人はって、いねえええええ!」
めちゃくちゃ慌てていた。
恥ずかしいところを見られてしまったが、珍しく慌ててるアズマを見れたのでまあいいかと思ったヒビキであった。
トランスセクシャル・バスターズ 夜橋拳 @yoruhasikobusi0824
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます