第5話 ホムンクルスと生中継(後編)

「わぉ。随分派手な玩具ですね。黄泉よみさん」


「はぁ?軽口たたいてる余裕あんのか?にゃんにゃん?」


ダイダラボッチが、拳を突き出してくる。タマはその腕に飛び乗り駆け上がっていく。


(じゅぼりっ。)  「しまった......」


上腕部分で、タマの体は泥に飲まれてしまった。もがけばもがくほど、体は沈んでいく。


「おい、純!!!タマ大丈夫なのか?」


「あれは、キツいですよ。あの馬鹿。カッコつけるから。だから嫌なんですよ。オトコは....」


大袈裟なジェスチャーで、椅子にもたれて悪態をついている。


「いや、そうじゃなくてさ、アイツ死んじゃうぞ?」


「うるさいオトコがここにもいますね」


「チェックメイトですよ。ほら、モニター見てください」


俺は、純の指先を追った。そこにはビルの屋上でバイクに乗った八千代さんがいた。


「ヒーロー見参!!!!いっくぞぉーーーーー!!!!!」


轟音と共に垂直にビルの壁面を走るドゥカティ。

一直線に落下してくる。地面まであと10メートル。


「転送!!」  ズゥヅゥン!!!


俺達の装甲車に衝撃が走った。天井のハッチを開けると荷台にカッチコチに冷凍されたドゥカティが煙をあげていた。


「そーれい!!」


ダイダラボッチの頭部分に、八千代さんが鉄パイプを振りかざした。


(ぐちゅぶちゅちゅちゅちゅちゅっっっ!!!!)


カラン。カラン。カラン。


「お待たせ。うちのタマちゃんがお邪魔してる?」


頭頂部から、真っ二つになったダイダラボッチが大きな音をたてて崩れていく。泥だらけになったタマが歩道橋にもたれている。息は荒いが死んでは無いようだ 


「八千代、久しぶりだなぁ。逢いたかったぜ」


「黄泉、お前まだそんな擬体からだ使ってんのか?幼女趣味は相変わらずか」


「チッ。お前の球体関節人形ホムンクルスだって、悪趣味だろが」


黄泉は、ぐったりしているタマに手を伸ばした。

「触んな。ボケ」


あまりの速さに、俺は戸惑った。八千代さんは黄泉の背後から鉄パイプで首を絞めていた。


両腕を挙げて、黄泉はおどけた。


「冗談だよ。ほら、こーさん。」


「何がしたいんだか知らないが、さっさと帰れよ。私も暇じゃ無いんだよ」


「邪険にするなよ。ワシだって呼ばれて来てるんだからさ」


「は?誰に?」


「トージョーだよ。東條。今朝な、伝書鳩が飛んで来た」


「喰わされたか。あのやろうめ....」


─コンコン。俺達の車にパトカーが横付けしてきた。


「やあ、純ちゃん。お疲れ様」


「あ、東條さん。お疲れ様です」


両手が義手だ。それもかなり旧式。制服は着ていないけどパトカーに乗ってきたのだから警察関係者だろうか。俺の顔を見て驚いた様子だった。


「門脇?」


「ああ、息子さんです」


「アイツこんなにデカイ子供いたのか。親父さんは元気か?」


「先日、他界しました」


「そうか、ご冥福を。どおりで騒がしくなったはずだ」


「八千代、聞こえるか?」


「あ、東條。お前わたしを騙したな。ちょっとそこにいろよ」


「すまんすまん。でも攻撃しろなんて俺は言ってないぞ黄泉。」


「いやぁ。ちょっと遊んだだけだよぉ」


「まあいい。二人とも元気そうだな。今から帝都タワーに向かってくれ。そこで話をする」


「ったく、勝手だよな。わかったよ。純ちゃん迎えに来てくれ」


「ワシも乗せてけ」


「お前、泥人形で行けよ」


─ダイダラボッチは、ただの泥山になっていた。










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オプティミスト 楓トリュフ @truffle000

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