国王ごときが聖女に逆らうとは何様だ?

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身の程を知れ!

このバーン王国は代々聖女によって繁栄を約束されていた。他国では魔物の襲撃に多額の防衛資金を廻しているが、バーン王国はその資金を内政へと廻せるので街道が他国より整備されており、商人の移動も活発であった。


そんなバーン王国で、今まさに国が崩壊する事態が起ころうとしていた。


愚王が聖女を追放しようと画策したのだ。

普段は辺境の大聖堂にいる聖女を王都の王城へと呼び出した。


『クククッ、我が国は100年以上も平和なのだ。聖女など民衆の不満を逸らすための肩書きに過ぎん。さっさと追放して、聖女の為の基金を我が物としてやるのだ』


聖女を、今か今かと待ってようやく聖女がやってきた。


「失礼致します。当代の聖女シオンが国王にお目通し致します」


白いローブに金色の糸で刺繍を施した美しい服装に、長い金色の髪を靡かせた16歳ほどの少女と言っても過言ではない聖女が入ってきた。


『ほう?こんなにも美しい少女だっただろうか?』


数年前に1度、聖女の引き継ぎの儀式の時にあった女の子とは印象が違っていた。しかし面影は確かにあった。国王は少し見とれたが、聖女シオンの質問に我に返った。


「国王よ。この謁見の間にいる多くの貴族達はなんなのでしょうか?」


謁見の間には、国王の命令で登城していた各貴族の当主が多く左右に控えていた。


「ここにいる者達は本件の賛同者達である!」


国王が見渡すと貴族達は頷いた。


「そうですか。それで御用件とはなんでしょうか?」


国王は少し間を置いて声を出した。


「我が王国は100年もの間、平和である。そこで今回、聖女の役割を見直す事になったのだ」


流石に年間多くの聖女に支払われる報償金を自分達のものにしたいとは言えず、もっともらしい建前を考えていたのだ。


「へぇ~?それはどのようになさるのでしょうか?」

「今回は多くの貴族達の賛同の元、聖女の『役職』を廃止することが決まった!」


ピクリッと聖女の目が動いた。


「……それで、私はどうすればよろしいのでしょうか?」

「うむ、長年仕えてきた聖女を放り投げては民衆の不満が溜まる。お前は小さな孤児院でシスターでもするがよい。多少の援助はしてやる」


お役御免になった聖女を無下に扱っては王族といえども非難される。故に、慈悲の心を持って聖女に新しい職場を用意して援助もすると言えば、ある程度の非難は避けられると考えた。


聖女の年間報酬が金貨1000枚も支払っているのに対して、孤児院の援助は金貨5枚でも渡せば十分である。


他国では騎士団の数を揃えて、装備品や給料などの出費で年間金貨3000枚以上は出費しているのだ。これから多少貴族にお金をばら蒔いても、500枚以上の自由に使えるお金ができると思えば顔も綻ぶと言うものである。


国王がゲスな笑みを浮かべると、聖女シオンは深いため息をついて、今度は貴族達を見渡した。


「もう1度聞きます。あなた達も国王に賛同したと言うのは本当ですか?」


貴族達は頷いたり、そうだ!と声に出したりと意思表示を示した。


「そうですか………『今回は』失敗のようですね。愚かな………」


シオンは指をパチンッと鳴らすと、国王や貴族達を結界に閉じ込めた。


!?


ドンドンッと結界を叩く国王と貴族達にシオンは冷たい目で見下ろした。


「どうです?あなた達がいらないと言った聖女の結界ですよ?」


「貴様!こんな事をしてただですむと思っているのか!死刑にしてやるぞ!」

「あら?フフフッ、それは怖いですねー?でも、私以外に結界を解除なんて出来ませんわよ?死刑は嫌ですので、餓死するまで閉じ込めましょうか?」


!?


シオンの言葉に国王を初め、貴族達も自分の現状を把握してきて焦りだした。


「こ、こんな結界、宮廷魔導師達が─」

「宮廷魔導師なんて人達なんていませんよ?あなた達が、平和な国で無駄飯喰らいどもが!と言って追い出したではありませんか?」


!?


「そ、そういえば…………」


はぁ、バカ過ぎるわ。どうして私が国の内情に詳しいのかは後から説明するわね。


「本当に愚かな者達ね。聖女の結界すらも疑うなんて」


シオンの言葉に、一部の貴族が謝りだした。


「す、すみませんでした!国王様に命令されて仕方なく………助けて下さい!」

「謝る!だから早く結界を解いてくれ!!!」


シオンはそんな貴族達を無視して右手を天に向けた。


「本当に結界を解いて良いのかしら?」


貴族達は良いに決まっている!と、口煩くわめいた。


ドッカーーーーン!!!!!!!


突然、城の天井が崩れた。


「うわぁぁぁぁぁ!!!!!?」


あれ?

天井の瓦礫はシオンの結界が防いでくれた。

しかし、謁見の間の中央には空から落ちてきた者がいた。


グルルルルルッッッ!!!!!!!!!


「「「…………えっ?」」」


うぎゃぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!!!!



目の前には大型のワイバーンが存在していた。他国ではお馴染みの魔物だが、このバーン王国で魔物を初めて見た者が殆どであった。


ドンッ!!!!

ドンッ!!!!


何度も結界にぶつかるワイバーンに、失神する貴族達がでてきた。


「もう1度聞きますが、結界を解いてもよろしいですか?」


「解くな!!!!絶対に解くな!!!?助けてくれーーーー!!!!!」

「これでわかったでしょう?聖女の結界がどんなものなのか………」


まだ気を失っていない貴族達を何度も首を縦に振って頷いた。


「さて、国王よ。どうされますか?」


国王は失禁しながらも気を失っていなかった。目の前にワイバーンが口を開けてぶつかってくるのに気を失えなかったのだ。


「すまなかった!謝る!だから許してくれ!!!」


「嫌ですわ」


…………えっ?


シオンはまた指を鳴らすとワイバーンを結界で押さえ付けた。


「聞こえなかったのですか?今日、本日を持ってバーン王国は終わりです。まったく、たったの100年ほどで堕落して無能に成り下がるとは残念ですわ」


????


シオンの言葉に国王や貴族達は理解出来なかった。


「まぁ、最後ですし見てみなさい」


そう言うと、シオンの姿が変わった。急激に成長して大人になったと思えば、老婆にもなり、さらに逆行して幼女になったりした。


「そ、その姿は………?」

「この100年間、不老不死である私がずっと聖女を務めていたのよ。周囲に怪しまれないよう、歳を取った風にみせてね」


「「「不老不死!?」」」


国王、及び貴族達は驚愕した。


「せっかく、この先代の初代国王との盟約で結界を張り、聖女の役職を作って国を発展させたのに残念ね。ちなみに、あなた達が支払っていた年間の報酬金貨1000枚は、私が毎年適材適所に振り分けて、国の整備に使っていたから殆ど残ってないわよ?私腹を肥やすことしかしなかったクズどもが街道の整備などしなかったものね?」



「バカな!宰相が仕事していただろう!?」


シオンはバカにした目で見ながらいった。


「本当に無能なクズで能ね。そこは自分の仕事でしょうに………。上が腐っていると下も腐ってね?予算を着服していたのよ。それも巨額の国家予算をね?宰相は他国に亡命しようとしていたから、捕まえて魔物のエサにしたわ。他国に運ぼうとしていた金銀財宝は私が頂いたけどね♪」


国王はようやく宰相がいないことに気付いた。シオンは正確に王城での動きを掴んでいたのだ。国が傾くほどの悪は排除していた。


そして今回も─


「ここでの実験も終わったし、次の国に行くとするわ。おめでとう!あなたが聖女の資金を着服して聖女を害したから、王国の結界が消えたと配下の者に広めさせているから、近隣の諸国には国を滅ぼした『愚王』として名前が刻まれるでしょう」


ドンドンッ!!!!


国王は結界を叩きながら叫んでいたが、シオンはそのまま出て行ってしまった。


そして、その5分後に結界が消えて謁見の間はワイバーンのエサ場になった。シオンはご丁寧に出入りに結界を張り逃げられなくしていたのだ。


しかし、その悲鳴は王国中のあっちこっちで起こっていた。国全体の結界が解かれた為、今まで入ってこれなかった魔物達が大挙して押し寄せてきたのだった。

騎士団達もいることはいたが、貴族の子弟ばかりで錬度が低くあっという間に蹂躙され壊滅した。


「聖女様………いえ、シオン様これから如何致しますか?」


配下の者が声を掛けた。


「なかなか難しいものね。この『世界』を発展させるのは」


「少し怒っておいでですか?」


配下の者はシオンの機嫌が悪い事に気付いた。


「ええ、初代はまともだったのに、世代を重ねる事に腐っていきやがって。せっかく、聖女と政治を分離して、政治に口出ししない代わりに国も聖女の活動に口出ししないシステムを構築したのに………100年を無駄にしたわ。平和になると貴族達が商人気質になって、金儲けのことしか考えなくなることがわかったわ。次は私が王になって直接国を動かした方が良さそうね」


そう言うと聖女シオンの背中に黒い翼が生えた。


「堕天使となって数千年経ったけれど、この世界の神は管理が下手くそね。まったく文明が中世から発展しないわ。やはり、私が人類を導かないと。失敗した国はリセットして、別の離れた国で、いちから初めましょう!」


シオンはあっちこっちで上がる悲鳴を無視して、黒い羽根を羽ばたかせながら、次の場所へ飛んで行くのだった。


「うふふふ、私の愛した人類がより幸せになれるように、かつて用事で足を運んだ『地球』の様に文明を発展させるわよ!今度はどのように裏で国を運営していこうかしら?」


シオンは遥か未来を夢見て眷属達を引き連れて、旅立つのだった。



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