戦国時代の名もなき農民に転生した

マキシム

第1話

俺の名は五平。天文9年(1540年)にこの戦国の世に生まれた。今は尾張国に住む一農民として生を受けた。父は俺が15歳の時に戦で戦死し、母は翌年に病で亡くなった。大変だったけど、村の仲間の支えがあって、何とか生きている。現在、尾張国は織田信長が家督を継ぎ、尾張統一している最中である。正直言って、なんで農民に転生したんだよと言いたくなるように神を怨んだ。同じ農民から天下人となった豊臣秀吉とは違い、俺は何の取り柄もない平凡な男である。平凡な男であるが戦国時代に転生したなら、戦場で手柄を立てて出世したいと思ったが、現実はそう甘くなかった。俺は生まれて初めて戦場の恐ろしさを知った。俺は雑兵(雇い兵)として戦に参加したが、敵味方問わず血走った眼で相手を殺しにくる。刀や槍や投石、そして鉄砲等が戦場に響いた。特に恐ろしいのは弓矢である。遠くから攻撃ができ、しかも雨のように降り注ぐ。味方である雑兵たちがバタバタと倒れ、俺自身は死にはしなかったが矢傷を負った。戦場での死因の第1位は弓矢と言われる理由がよく分かる


「ヒイイイイイ!来るな!来るな!」


俺は矢傷を受けつつ、泣きべそをかきながら、必死で戦場を走り回った。そんなこんなで戦は終わり、俺は何とか生き残った。いつの間にか俺は脱糞していて、雑兵仲間から笑われたのが恥ずかしかった。別件だが三方ヶ原の戦で徳川家康は脱糞しており、「これは腰につけた焼き味噌だ!」だと言って誤魔化していたけど、俺にはそれを言う度胸がなかった


「うう、気持ちわりい・・・」


ちなみに俺は弓矢で受けた傷に馬糞を塗りつけられた。戦国時代の傷の治療は馬糞と尿を塗ったり飲んだりしていた。俺は別の意味で戦場の恐ろしさを痛感したのである。また戦場での恐ろしさは他にもあった


「男は殺せ!女は犯せ!穀物は奪い取れええええええ!」


野武士である。元は武装した農民が近隣の村々を襲い、食糧の他に女子供を略奪する集団である。俺たちは武器を取り、野武士の集団に立ち向かった


「野武士を皆殺しにしろ!」


「「「「「おおおおおおお!」」」」」


俺たちは農業の傍ら、村を守るために訓練しており、野武士相手なら戦える自衛力はある。俺も槍と礫を手に取り、戦った。元野球部のピッチャーを舐めるなよ!


「これでも食らえ!」


「ぐあ!」


俺の投げた礫が馬に乗った野武士に直撃し、そのまま落馬した


「死にやがれ!」


「ぎゃああああ!」


そこへ村の仲間たちが槍でぶっ指した。俺は引き続き、礫を投げて、野武士たちを攻撃した


「キャアアアアア!」


どこからか悲鳴が聞こえ、振り向くと、村長の娘で幼馴染のお咲が野武士に連れていかれそうになった。俺は迷わずに礫を野武士の頭に当てた


「ぐえ!」


怯んだ野武士に、俺は槍を持って、野武士の脇腹に突き刺した


「ぐああああ!」


野武士はうめき声をあげたが、抵抗し、刀で槍の柄つかを切り裂いた。その拍子に俺は尻もちをついた。野武士は鬼の形相で俺を睨み付け、近づいてきたが、村の仲間たちが駆けつけ、そのまま野武士を槍で刺し殺した


「く、くそったれ・・・・」


そのまま野武士は倒れ、息絶えた。野武士の集団は全員殺したが、こちらも死者は3名、重軽傷者10名という被害を出し、辛くも勝利したような形だった


「五平さん、大丈夫!」


「ああ、お咲も無事か。」


「ええ、五平さんのおかげで助かったわ。」


俺は死んだ村の仲間たちの墓を作り、手厚く供養した。その後、俺は幼馴染のお咲と祝言を挙げた。どうやら俺の勇姿に惚れたらしく、父である村長を説得し、そのまま結婚することになった。この時、俺は20歳、お咲は14歳だった


「お咲、幸せにな。」


「ありがと、おとっつぁん。」


「娘を頼むぞ。五平。」


「お任せください!」


「五平の奴、羨ましいな、村一番のべっぴんを嫁に迎えるなんて!」


「俺が先に助けたら、俺の嫁っこさ、なってくれたらなあ。」


「羨まし・・・・けしからん。」


村長からの激励と野郎の嫉妬と羨望の視線は肌に感じつつ、俺とお咲と一緒に我が家で初夜を迎えた


「お咲、本当に俺で良かったのか?」


「私を助けてくれたお前さんに惚れたのよ。後悔してないわ。」


「ありがとう、お咲。」


そこから俺とお咲の新婚生活が始まったが、旅人の噂で今川義元が大軍を率いて尾張侵攻に動き出したようだ。そこで俺たちは村長の家に集まり、今後の対策を考えた


「村長、戦が始まったら、田植えができなくなる。」


「それに全ての食糧も持っていくにも時間がかかるよ。」


「うーん、この村も相次ぐ戦火で禁制を出すほどの献上品もない。」


「村長、こうなったら食糧や武器を持って山へ逃げよう。」


「それに負けると分かって雑兵になるのもどうかと思うぜ。」


話し合った末、雑兵は出さないことや山へ避難することで話が決まった。俺自身、織田が勝つことは分かっているが、最前線で死にたくないから、みんなの意見に従った。俺はお咲や女子供や老人たちを山へ先に避難させた


「お咲、気を付けていけよ。」


「お前さんも気を付けて。」


お咲と別れた後、村に織田方の兵士が訪れた。俺たちは雑兵を辞退したが、代わりに賦役を命じられた


「はぁ~、賦役か。やんなっちゃうな。」


「今川の大軍が迫っているってのに、賦役なんて・・・・」


「でも逆らったら俺たちが酷い目に合うぜ。」


「そうだな、言う通りにしよう。」


俺たちは賦役に従事し、砦の整備や兵糧を運ぶ仕事をした。この賦役は報奨が出ない、つまりタダ働きである


「我慢、我慢、これさえ終わればお咲に会える。」


俺は一刻も早く戦場から離れたいこととお咲に会いたい一心で賦役を終えて、逸早く山へ向かい、お咲と合流した


「お前さん、無事だったのね!」


「お咲も無事で良かった!」


俺たちは感動の再会を果たしたと同時に今川が尾張に侵攻した。俺たちの住んでいる村に今川の兵士たちが乗り込んできた!俺たちは既に武器や金品や食糧を持って山へ逃げていた。逃げ遅れた他の村の者は、男は殺され、女は犯された上、奴隷として連れていかれた。子供も同様に奴隷として連れていかれるか、殺されるかのどちらかである。俺たちは現在、山の上で戦況を見ていた


「こりゃあ、織田が負けるんじゃねえか。」


「だな、今川の兵の数が多すぎる。こりゃ、負けるな。」


村のみんなは、織田が負けると思っているが、未来知識のある俺は織田信長が勝つと踏んでいた


「いや、信長様が勝つ!こんなことされて黙っているとは思えね!」


「お前さん!気でも狂ったの!」


「五平、正気か!今川は大軍で攻めてきたんだぞ!勝てっこねえよ。」


「いや、信長様が勝つ、何なら賭けてもいいぞ。」


「ええじゃろう、今川が勝つか、織田が勝つか、賭けようぜ!」


「「「「「そうじゃ、そうじゃ!」」」」


「お前さん!」


俺たちはどちらが勝つかを賭けた。戦場の娯楽は限られている。賭博か、飯を食うか、遊び女を抱くか、ちなみにお咲と一緒になる前、俺も生きている内に遊び女とヤリ続けた


「まさか戦国時代で女とやれるとは・・・・・」


それは置いといて、結果は目に見えていた。桶狭間にて今川義元が織田信長に討たれたのである


「よっしゃあああああ!俺の勝ちだ!」


「「「「「ちくしょおおおおお!」」」」」


「やれやれ、お前さんたら。」


俺は賭けに勝ち、後に米、塩、味噌、雑穀、酒などの分け前を多く受け取ることができた。その後、俺たちは逸早く山を降りて村へ帰った


「さあ、落武者狩りだ!戦利品を奪い取るぞ!」


「「「「「おおおおおおお!」」」」」


「お前さん、気を付けて。」


「おう。」


村長の号令の下、俺たちは刀や槍や鍬や鎌等を持ち、落武者狩りに参加した。破れた今川の兵士たちを襲い、鎧や兜等を奪い取るのである。主に売るだけではなく、村の自衛のために奪い取ることもあるようである。森の中に潜み、国へ逃げ帰る今川の兵士を待ち伏せていた。するとそこへ疲労困憊の今川の兵士たちが通りかかった


「野郎共、こいつらを生きて返すな!」


「「「「「「「ヒャッハー!」」」」」」


仲間たちは世紀末に出てくるヒャッハー集団の如く今川の兵士たちを殺しまくり、鎧兜や刀等を奪い取った。村や田畑を荒らした侵略者への報復である。今川の兵士たちは突然の奇襲にどうすることもできず、討ち取られた


「うう、死にとうない・・・・」


「くたばりやがれ!」


俺の目の前で鎧武者が止めを刺され、息絶えた。鎧武者の無念の形相が俺を見つめていた


「くわばら、くばわら。」


俺は刀を回収し、大八車に乗せ、辺りを散策した。俺はとある洞窟を見つけ、試しに覗くと・・・・


「しまった、見つかった!」


そこには鎧武者たちが潜んでいた。その奥には立派な甲冑を着た十代後半の武士がいた


「殿!」


「うむ。」


鎧武者たちは殺気立ち、今にも斬りかかろうとした


「おーい五平、そっちに何かあったか!」


すると仲間たちの声が聞こえた。仲間たちを呼べば、来るだろうが、その前に俺が殺される


「いや、こっちには誰もいなかった!」


俺は大声を出し、仲間たちに知らせた。鎧武者たちは驚きつつも警戒を続けた。俺は鎧武者たちにお辞儀をしてその場を離れた。鎧武者たちは安堵のため息を吐いた


「殿、どうやら見逃してくれたようですぞ。」


「うむ。」


「殿、闇夜に紛れてこの場を離れましょう。」


「彦右衛門、無事に岡崎に着けるかのう。」


「殿、今川治部大輔(今川義元)亡き今、松平家を再興することができるのは殿しかおりません!」


「そうじゃのう。」


五平が見逃したこの人物は松平蔵人佐元康、後に徳川家康は九死に一生を得たのである。そうとは知らずに五平は村へ帰った


「今日は大量、大量♪」


「今川の野郎のあの顔、最高だったな!」


「好き勝手やってきた報いだ!」


村の仲間たちは意気揚々と戦利品を運びながら今川をコケ下していた。俺はというと当分は尾張は平和になると安心していた


「五平、どうした、しけたツラしやがって!」


「いや、何でもねえ・・・・・今日は宴だ、宴、今川に勝った宴だ!」


「そうだ、宴だ、今川が惨敗したんだ、とことん飲もうぜ!」


俺たちは明日をも知れぬ命を精一杯生きる、ただそれだけだ。今川の兵士から見つからず隠し持っていた酒を飲み続けた。俺は酔いもあってか、裸踊りをした。お咲は赤面し、みんなは、やれやれと盛り上がった


「ほれ~、ほれ~♪」


「もうお前さんたら。」


「いいぞ!いいぞ!」


「今日ほど愉快な日はねえ、ギャハハハハハハ!」


俺たちは朝まで飲んで二日酔いに苦しむが、別に苦ではなかった。桶狭間での勝利の後に、三河に戻っていた松平元康は独立し徳川家康と改名、後に清州同盟が結ばれ、背後の憂いが亡くなったおかげか、束の間の平和がきた。俺たちの住む村も復興し、何とか安定した生活を送れるようになった。俺は前世の記憶を頼りに特産品を作ることにした。俺は「真田紐」をモデルに【尾張紐】を作ることにした。更に保存食として秋田県の「きりたんぽ」や山形県の「沢庵漬け」や「笹巻き」、獣肉で作った「ジャーキー」等も作った。更に味噌や醤油の生産にも尽力した。農業の傍ら【尾張紐】を作成し、完成したのを熱田で売ることにした。【尾張紐】は鎧の組紐として使われ、大儲けすることができた


「お前さんが考えた【尾張紐】高く売れたよ!」


「五平、お前にそんな才能あるとは思わなかったよ!」


「おめえ、天狗の化身じゃねえのか?」


「天狗だったら鼻が長えじゃねえかよ。」


「それもそうだな、ギャハハハハハ!」


尾張が不安定の時はできなかったけど、安定している状態でやっと俺の前世の知識を生かすことができた。おかげで村のみんなから一目置かれるようになり、俺自身もウハウハだった。そんなある日、とんでもない御方がこの村にやってきた


「うぬが五平か?」


「へ、へへええ!」


俺の目の前にあの織田信長が立っていた。俺は平伏叩頭したまま返事をした。どうやら俺が考えた【尾張紐】の評判が織田信長の耳に入り、この村へ来たのである。俺だけではなくお咲や村長やみんなは突然の織田信長の訪問に驚愕し、平伏叩頭で迎えた


「面をあげい。」


「は、ははぁ!」


恐る恐る俺は面を上げ、信長の顔を見た。一言言うと、肖像画として描かれた顔を若くした顔付きだった。俺は歴史的な有名人である織田信長に会うことができたのだ


「五平、ワシに仕えぬか?」


織田信長から仕官の誘いがきた!


「お、畏れながらお断りいたします!」


俺は断ることにした


「無礼者、殿の命を断るとは何事か!」


傍らの武士が俺に怒鳴ると・・・・


「内蔵助、下がっておれ。」


「いや、しかし。」


「下がれ!!」


「は、ははっ!」


織田信長が大声でその家来を叱りつけるとスゴスゴと下がっていた。すると織田信長は俺の方を向いた


「訳を言え。」


織田信長から発する威圧感がひしひしと伝わってきた。正直、怖い・・・・・


「お、畏れながら、私は戦の才もなく、腕っ節もからっきしで学もありません。私を召し抱えても何の役にも立ちませぬ。」


織田信長は黙って俺の言葉を聞き入っているが、いつ斬りかかるか分からず、俺は今にも小便がチビりそうになっていた


「私は1人の民として御館様に尽くしますので、何卒ご容赦のほどを!」


「・・・・1人の民としてワシに尽くすか。是非もなし!うぬの好きにいたせ。」


「ははぁっ!」


どうやら俺は許されたらしい。正直ホッとした。このまま斬られるか、信長にボロ雑巾になるまで扱き使われるがオチだからな


「うぬに褒美をやる。ハゲネズミ!」


「ははっ!」


そこへやってきたのは、猿顔の小男、もしかしてこいつ豊臣秀吉か!


「おみゃあに、御館様からの褒美だ、有り難く受けとれや。」


褒美として金子と刀剣を賜った。俺は恭しく御礼を述べた


「有り難き幸せにございます!」


「うむ、励め。」


そう言った後、信長は馬に乗り、颯爽と村を後にした。そこへ秀吉が声をかけてきた


「おみゃあも勿体ないことしたな、まあ、おみゃあが決めたことだで、好きにやんな。」


そういい、信長の後を追いかけていった。信長たちが去った後、俺はどっと疲れが出た。そこへお咲と村長、村のみんなが一斉に俺に声をかけてきた


「お前さん、無茶しすぎだよ、こっちもハラハラしたよ。」


「そうだぞ、一つ間違えれば、お前の首が飛んでたかもしれないんだぞ。」


「お前、無鉄砲にもほどがあるぜ。」


「「「「「んだ、んだ。」」」」」


「ははは、我ながら、無茶したよ。ははは。」


その後、金子はみんなで山分けし、刀剣は我が家の家宝として大切に保管した。それから歳月が流れていった。兵農分離が進み、俺たち農民は農業に従事していった。一時は危ない目にあったが、何とかやり遂げた。歴史は変わらずに進み、織田信長が本能寺で死に、信長の仇を討った豊臣秀吉が天下を取った。その後、秀吉が死に、関ヶ原の戦いが起こり、徳川家康が勝利し、江戸に幕府を開いた。俺はというと、お咲との間に子供が生まれ、村長になり、村の発展に従事した。そして1610年(慶長15年)、70歳になった俺も最期を迎えようとしていた


「お咲、みんな、達者に暮らせよ。」


「お前さん・・・・」


「「「「「おっとう!」」」」」


「「「「「じいちゃん!」」」」」


俺は妻と息子と娘、孫に囲まれて畳の上で死ぬことが出来た。もう思い残すこともない。我ながら良き生涯であった・・・・


「ふああ~、よく寝た。ここはどこだ?」


次に目覚めた時、病院の一室にいた。辺りをキョロキョロとしていると、そこへ看護婦が入ってきて、俺と目が合った


「先生!患者さんが目を覚ましました!」


俺はどうやら事故に巻き込まれ、生死の境を彷徨っていたらしい。親や友人たちから心配をかけられつつ、俺は退院することができた。あれは夢だったのかと思った


「我が家に帰るのも久しぶりだな。」


家に帰った後、俺はゆるりと過ごした。それから数週間が経ち、俺は父に連れられ、実家の物置小屋を整理していた。するとそこに桐箱に入ってあった刀剣に目を向けた


「なあ、親父、これは?」


「んん、これは・・・・」


俺と親父は調べてみると、何と織田信長から褒美として賜った刀剣だと発覚した。そして五平という名が刻まれていた


「なあ、親父、この五平っていう人。」


「お前、忘れたのか、俺たちの御先祖様の名前だぞ。」


どうやら俺たちの家系は五平の子孫だったらしい。どうやら俺が夢見ていたのは現実だったのだ


「夢が現実になってしまったな・・・・ははは。」


知ってか知らずか、俺は本当に転生したようだ・・・・・まあ、いいか・・・・


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戦国時代の名もなき農民に転生した マキシム @maxim2020

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