高嶺の花なんて思い込み!

久野真一

釣り合わないと言われてプッツンと来た件

(はあ、学校に忘れ物するなんて、ついてない……)


 心の中でぼやきながら教室への道を急ぐ僕、九重博善ここのえひろよし

 平均的な体格、成績は割と良いを自負している高校一年生だ。

 

「ねえねえ、九重君と三条さんって付き合ってるの?」


 何やら気になる言葉が教室から聞こえてくる。

 忘れ物を取りに来ただけなんだけで参ったな。

 まごまごしつつ、扉から頭だけを覗かせて様子を見る。


「別に付き合ってはいないよー。仲は良いけど」


 気にした様子もなく否定する三条紗季さんじょうさき

 僕が想いを寄せている幼馴染であり、クラスの人気者でもある。

 人気の理由はいくつもあるけど、第一に所作が上品なところ。

 第二にいつもニコニコ笑顔できつさを感じさせない所。

 第三に鍛えられた体躯というか、プロポーションというか、以下略。

 もっと違うところにも魅力があると力説したいけど、それはおいておこう。


 「そっかー。ま、九重君と三条さんは釣り合わないよね」


 机の上に座って聞き捨てならない言葉を言う女子。

 北野きたのさんと言って、葉に衣を着せぬ物言いが特徴だ。


「釣り合わないってどういう意味で?」


 何故か紗季は幾分慌てているようだけど、どうしたんだろう?


「別に悪くはないけど、なんかダサいじゃん。服装もだし髪型もだし」


 こいつ性格悪いな。

 最低限清潔感のある服装は心がけているので勝手にさせて欲しい。

 あ、紗季がこちらを向いている。目があった。

 瞬間、ごめんねのポーズで拝まれてしまう。


「そ、そんなに悪くないと思うよ?」


 咄嗟のフォローありがとう、紗季。


「いやいや、やっぱりダサいよー。幼馴染らしいけど考え直したら?」


 北野さん、友達付き合いにもケチをつけてくるとは。

 紗季がストップと手でサインを送ってくれなかったら殴りかかってるところだ。


「あのね、北野さん」


 いつもの柔和な表情から一変。

 人を射殺すような目つきになったかと思うと、


「ヒロ君を悪く言わないで欲しいんだけど。言っていいことと悪いことがあるよ?」


 ドスの聞いた声を響かせつつ、北野さんににじり寄る。

 いつも柔和な紗季のもうひとつの側面。

 いじめや度を越した陰口を目にすると彼女はしばしば苛烈になる。


「あ、ご、ごめん。三条さん。別にちょっとした軽口で……」


 紗季からこんな反撃を食らうとは思っていなかったんだろう。

 怯えている北野さんを見ていい気味だと感じた。


「うん。それならいいんだ」


 般若のような顔から一転して菩薩のような顔へ。

 この切替の早さは紗季のとても怖いところだ。


 紗季にビビったのか僕への陰口はなかったけど。

 女子グループが雑談を終えるのを待つこと約30分。


「ごめんねヒロ君」


 二人っきりになった夕暮れの教室で、紗季はそう謝罪して来た。


「別に北野さんたちが悪いだけで、紗季は悪くないでしょ」

「私がストップかけなかったら、殴ってたよね」


 少し口元が引き攣っているが僕の前科を踏まえれば無理もないか。


「まあね。止めてくれて助かったよ」


 中学の頃同じように陰口を叩いていた女子をぶん殴って、教師からこっぴどく叱られた前科のある僕だ。反射的にまずいと思ったんだろう。


「もう、ヒロ君は血の気が多いんだから……」

「紗季も人のこと言えないと思うんだけど。北野さん怯えてたよ」

「悪いことは悪いと言わないとだし」

「ま、ありがとね」


◆◆◆◆


 僕と紗季の価値観があうとしたら陰口やイジメをとても嫌うところなんじゃないかとよく思う。とはいえ、手が出そうになるのは僕の悪い癖だ。紗季のように口で収められるならそれに越したことはない。


 でもまあ、陰口ならまだ良いほうだ。先日、男友達との間で「好きな女子を言い合おう大会」があったので、仕方なく紗季の名前を告げたのだけど、反応はと言えば。


「悪いことは言わないからやめとけって」

「そうそう。三条さんは高嶺の花だし。九重には釣り合わないって」

「もうちょっと地味目の子ならワンチャンのに、倍率高い子選ばなくても」

「そこまで見てくれは悪くないんだからさ。片岡さんとか気が合うんじゃね?」


 なんて散々な言い様だった。釣り合いとか高嶺の花というのは引っかかるが、それはそれとして、純粋に彼らとしては忠告しているつもりなのでめんどくさい。ちなみに、片岡さんはクラスの隅で物静かにしている事が多い女子で、彼らにして見ればまだ落としやすいという風に見えているんだろう。そういうのも大概失礼だけど。


◇◇◇◇


「どうして、人は高嶺の花とか釣り合いとかどうでも良いものを気にするのかなー」


 当人同士が良ければそれでいいじゃないか。


「さすがに、それはヒロ君がずれてると思う」

「自覚はしてるけどね」

「ヒロ君みたいに自分は自分ってはっきり言える人の方が少ないよ……」


 幾分しょぼんとした様子で言っているのは昔を思い出しているんだろうか。


「そうだね。でも、僕としてはモヤモヤが収まらないんだよね」


 何か、何かないかと考えを巡らす。


「物騒なことだけは止めてね?」

「君は僕の事をなんだと思ってるの?」

「正義感が強過ぎて口より先に手が出る系男子」


 ばっさりと言われてしまった。

 穏便に済むならそれが一番いいんだよなあ。

 と考えて、そもそもなんで僕がダサいだの言われているのか。

 そこに考えが向いた。ああ、そうか。


「紗季、男を磨く手伝いしてくれない?」

「そんなに気にすることないのに」

「僕が気に食わないの」


 我が高校は制服がなくて私服を自由に着て良いという校風だ。

 それ故に制服が基本の中学と違って服のセンスも見られる。

 ダサいというのは一つにはそれがあるんだろう。


「わかった。ちなみに、ヒロ君としてはどこが弱点?」

「服装のセンスはないと自信を持って言えるね」

「そこは自信を持つところじゃないと思う」

「だったら、紗季は僕が服装のセンスあると思う?アロハシャツ着てる僕が」


 そう。もう7月ということで夏らしいアロハシャツを僕は着ている。

 個人的には好きなんだけどな。


「言えないけど。じゃあ服選びは手伝うとして他には?」

「体格」


 幸いお腹に脂肪がたまらないのか、太っていると思われる事は少ない。

 ただ、自覚している部分はあって妙にゴツく見えている原因の一つだろう。


「お腹のお肉とかだよね」


 シャツの上から軽くお肉を挟まれる。

 体育の時に目立たないように気にしてるところだ。


「それ言うなら、紗季も少しお肉あるでしょ」


 お返しとばかりにブラウス越しにお肉をつまんでみる。


「ちょ、ちょっと。それセクハラ!」

「僕のがセクハラなら紗季のもセクハラだね」

「また屁理屈言うー」

「僕は男女平等主義者だから」

「もう。私だから許すんだからね?」

「さすがに君以外にはしないって」


 僕は僕なりに距離感をわきまえているつもりだ。


「とにかく。筋トレってこと?」

「うん。一人だとやりづらいのあるし頼みたい」


 たとえば腹筋なんかは脚を抑えてくれる人が居た方がいい。


「あとは、髪型のアドバイスもお願い出来る?」

「別にそのままでもいいと思うけど……」

「でも、雑に短く切るのがダサいって原因だよね」


 不衛生に髪を伸ばすような真似はしていない。

 ただ、機能性を重視して短めに切っているのはダサい部分だろう。


「細かいところは美容室で聞いたほうがいいと思うけど」

「理容室は違うんだよね。行ったことないけど」

「うん。言ってみればわかるよ」


 よし。髪型、服装、体型。


「あとは……何があるかな」

「ほんと凝り性だよね、ヒロ君」

「やるなら徹底しないと」


 腹の底からやる気が漲ってきている。


「じゃあ、もうひとつ言うけどね。言い方」

「う」

「私はいいけどね。キツめの言い方を嫌う子はいるよ」

「そればかりは、ぐうの音も出ないな」

「でしょ?なら、そっちの方も特訓しないとね♪」


 いつの間にやら紗季までやる気になっている。


「よし。じゃあ、今日からよろしくお願いします。紗季教官!」

「ビシバシしごくからねー」


 パァンとハイタッチ。

 ノリの良い一面も他の奴が知らない紗季の一面だ。

 こうして紗季による僕の改造計画が始まったのだった。


「とりあえず、夏休み明けで勝負したい」

「ありじゃないかな。二ヶ月やれば結構違ってみえると思うし」


 期間はとりあえず二ヶ月近くと。

 しかし、何か大切なものを忘れている気がするけど、はて。


◇◇◇◇


 まずはユニクロで服選び。


「ユニクロはダサいとかネットでみたことあるんだけど」

「組み合わせ次第。大体、アロハシャツにジーンズがあれこれ言わないの!」

「はい……」


 服のセンスに自信がない僕としては教官の教えに従うしかない。


「まずは色だけど……ヒロ君なら下は青かな」

「僕としてはもうちょっと暗めの色が似合うと思うんだけど」


 たとえば、上は黒で下は灰色とか。


「そうやって暗めの色ばっかり選ぶのが良くないの」

「はい。了解です……」


 服を一式選ばれて言われるままに試着。

 おお。


「どう?」

「いや、服だけでも結構変わるもんだね。意外だ」


 北野はアレだけど、一部の理くらいはあるのかもしれない。


「でしょ?この機会に徹底して教えてあげるから」

「紗季さ。当初の目的忘れてない?」

「わ、忘れてないよ」


◇◇◇◇


「一、二、三、四……」


 紗季の掛け声に合わせて腹筋を繰り返す。

 ちなみに、僕の脚を抑えてくれている。


「でも、筋トレって効果出るのに時間がかかるよね」

「うん。夏休み明けだとわからないかも」

「ジョギング追加しない?」

「やる気満々だね」

「元々身体動かすのは好きな方だしね。知ってるでしょ?」

「高校に入ってからはすっかりインドアになっちゃったけど」

「運動ばっかりするのは飽きるんだよ」


 というわけで、一日おきの5kmジョギングも追加。

 

「ああ、でも。肝心な食事制限が抜けてた」

「こればっかりは、おばさんに言ってもらうしか……」

「だよね。まあ、相談してみる」

「で、でも。ダイエットメニューの相談には乗れるかも」

「本当に?助かる!」


 さらに、食事制限も追加。


◇◇◇◇


「スーーーー。ハーーーー。スーーーーハーーーー。」


 呼吸法の練習もすることになった。

 紗季曰く、


「ヒロ君、呼吸が足りて無くて早口になることがあるから。だから、物言いがきつく聞こえることがあると思うの。ゆっくり声を出すのを意識した方が良いと思う」

「なるほど。参考になるよ」


 とのことらしい。


 確かに意識して腹式呼吸に切り替えてみると、違って聞こえる。


◇◇◇◇


「プールでぷかーっとするのいいよね」


 訓練、訓練だけなのも問題だ。

 だから、息抜きにということで。

 毎週の週末は紗季と一緒に遊ぶ事に。


「ところで、水着似合ってる?」


 幾分恥ずかしそうにしながらセパレートタイプの水着を見せつけてくれるのが、

 またなんとも可愛らしい。


「似合ってる、似合ってる。そういえば、紗季も少し痩せた?」

「どこ見てるの!」

「いや、別に水着だからいいでしょ」

「思ってても言わない!」

「はい……」


 女心は難しい。


◇◇◇◇


 訓練したり二人で遊びに行ったりする日々はまたたく間に過ぎて行った。

 今日は9月1日。クラスメートをギャフンと言わせられるか勝負の日だ。


「おはよー、皆!」


 幾分元気よく呼びかけると何人かが振り向くのが伺える。

 そして……意外そうな顔をしていた。お、いい感じ?


「九重さ、雰囲気少し変わった?」

「多少はね」


 涼しい顔をして答えつつも内心はガッツポーズ。


「夏休みデビューって奴じゃねーの?」


 予想していたけど冷笑する奴も出てくる。


「そうだけど。何か問題でもある?」

「それは問題ないけどさ……」


 こういう奴らは堂々として居ないからつけ込んでくる。


「三条さんも、すごいキレーになった気がする」

「うんうん。ダイエットとかしてたのかな?」


 そういえば。毎日のように一緒に居たから気づきにくかったけど。

 僕に付き合って紗季も一緒にトレーニングとかをしていたのだ。

 ちなみに、何故か「ヒロ君はどの服がいいと思う?」

 と試着室で聞かれたことがあるけど、未だに意図がわからない。


「九重君、カッコよかったんだね。ごめんね、三条さん」

「う。うん。そういうこと」


 北野さんからの称賛(?)の言葉。

 紗季はといえば困惑と嬉しさがないまぜになったような表情をしていた。

 そういう掌返しは紗季が苦手とするところなので無理もないだろう。


「お似合いってカンジ。付き合っちゃえば?」


 また別の女子からのからかいの言葉には。


「う。うん。前向きに検討させていただきます……」


 何故だから、紗季は縮こまっていた。


 とはいえ、


「俺も自分を鍛えてみようかなー」

「俺も出来そうな気がしてきた」

「俺らも鍛えればモテるんじゃね?」


 男子からは微妙に不本意な称賛のされ方をしていた。

 まあ、大したことないと思ってた奴が出来たなら、自分もとは思うよね。

 何はともあれ軽く見ていた奴らの評価は覆せたようで満足満足。


◇◇◇◇


「いやー、大成功だよ。ありがとうね、紗季」


 放課後、僕は紗季と下校していた。


「私の方こそ。夏休み前よりスリムになったし」


 お互い練習の成果が出たこともあって二人して上機嫌だ。

 しかし、何か大切な事を忘れているような気がする。

 

(あ、そういえば、夏休み前に告白しようと思ってたんだった)


 プッツン来て猛特訓の日々ですっかり忘れていた。

 しかも、思い返せばプールで二人で遊ぶとか。

 二人で水族館とか。単なる息抜きじゃなくてデートでは?

 しかし、紗季がどう思っていたのかわからないし……。


「ところで。夏休み、楽しかったよね」


 紗季の急な話題の転換に違和感を覚える。

 それは付き合いが長いからこそわかる何か。


「うん。楽しかった。特訓もそれはそれでいいものだよね」


 ちょっと話題を故意に特訓に向けてみる。


「特訓もだけど。二人でプールに行ったりとか……」


 あ、この話題のチョイスは。


「う、うん。水着凄い似合ってた」


 こちらをちらちら見てくるけど、一体何を思っているのか。


「お祭りも二人で楽しんだよね」

「二人きりでとかちょっと久しぶりだったかも」

「水族館も……」

「う、うん」


 話題が完璧に「二人で遊んだこと」に寄ってる!

 考えてみると特訓に夢中で考えていなかったけど。

 いくら昔からの仲とはいえ、友達くらいの相手と二人きりでプールに行ったりするだろうか?我ながらとても微妙なデート場所のチョイスだった気がする。

 しかし、そうなると……。


「ヒロ君はその。なんで、私の事色々誘ってくれたのかなーとか」

「……」


 あ、これは告白する流れに違いない。

 

「あ、ええと。特に何か深い意味があるわけじゃなくて。なんとなく理由を知りたいだけだから。ほんとに、ね!」


 紗季が予防線を張る時の癖まで来た。

 たぶん、紗季は僕の事を憎からず思ってくれている。

 しかし、夏休み中はすっかりそのことがすっぽ抜けていたわけで……。

 どう告白すればいいのか、色々な言葉が頭の中をグルグルする。


「あ、ナシ。さっきの話はナシていうことで。ね?」


 迷っている間に無かったことにしようとしている。まずい。


「いや、ナシにしなくていいから!」


 気がつくと大声を出していた。


「え?」


 きょとんとした様子の紗季。


「ああ、いや。僕はその、紗季の事が……」

「う、うん……」

 

 喉から言葉が出かかっているのだけど、緊張する。

 「好き」というたったの二文字なのに。


「好き、だから。付き合って欲しい。どう?」


 言い終えて深呼吸を一つ。

 あまりに急だったけど言うべきことは言ったぞ。

 さあどうだ?


「うん。私も好きだった。だから、お付き合いして、ください」


 紗季の顔は真っ赤だった。

 たぶん僕も同じようなんじゃないだろうか。

 

「ところで、夏休み中に遊びに行った件なんだけど……」

「もちろん、デートだと思ってたよ?」

「うぐ」


 そうですよねー。

 

「たぶん、ヒロ君は特訓のためと思ってたんだろうけど」


 ジト目で睨まれる。

 駄目だ。完璧に見透かされている。


「いや、ごめん。すっかり特訓に夢中になってました。はい」


 僕が凝り性と言われる理由の一つがこれだ。

 一つのことに熱中すると他の事が頭から飛んでしまうのだ。


「もう……。ヒロ君らしいけど」


 可笑しそうに言う紗季の声に、少し考えを巡らせる。

 僕らしい、か。


「僕らしいって、ちなみにどこらへん?」

「ゴーイング・マイ・ウェイなところ」

「なんか褒められてる気がしないんだけど……」

「褒めてるよ。だって、私はそういうところに助けられて来たから」


 意外にも微笑んで、そんな事を言われた僕はビックリ。


「小学校の時とか、時々私いじめられてたよね」

「ああ、うん。ガキにはありがちなんだろうけどね」

「そういう時、ヒロ君はいつも駆けつけてくれたし」


 なんかうっとりしてるけど、そんなことしたっけ?


「ああいうの見てて腹立つから、殴っただけなんだけど」

「それでも。先生が言っても止めなかった子もいたし。助かったんだよ」

「ま、まあ。でも、そこまで言う程のことはしてないし……」


 なんか褒め殺しが続きそうなので超照れ臭い。


「んふふ。なんか照れてる?」

「そりゃ照れるよ。僕としては当然の事をしただけだし」

「でも、だから、私はいつでも味方が居てくれると思えたんだよ?」

「う、うん。そうだったなら、良かった」


 別にそんな高邁な理想を持っていたわけじゃない。

 ただ、理不尽には物申したかっただけ。


「だからね。私も同じように、誰かを助けられるように。そんな振る舞いをしようって思うようになったの」

「ひょっとして、君がやたらイジメに敏感になったのは……」

「そういうこと」


 しかし、今回の件でさらに彼女は高嶺の花だと言われそうだけど。

 やっぱり僕にとっては、身近にいる大切な友達で恋人で。

 

「君が高嶺の花なんて。きっと、ただの思いこみだよね」

「そうだね。きっと、勝手にレッテルを貼ってるだけだと思う」


 最初から立ち居振る舞いが完璧で、非の打ち所がない人なんて居ない。

 彼女がそうであるように、きっと、自分を変えようとした結果。

 結果だけを見ると高嶺の花に見えるんだろう。


「でも、高嶺の花じゃないけど。ずっと大事に想ってきたから」

「う……うん」

「だから、これからも一緒に楽しくやって行きたい」

「うん!」


 なんて言いながら、恋人同士になれた喜びを噛み締めていたんだけど。


「考えてみると、別に特訓しなくても良かったんじゃ?」

「そうだよ?夏休み前にでも告白してくれたら、付き合ってたし」

「あー。めちゃくちゃ勿体ないことをした。一度しかない夏なのに……」

「ドンマイ、ヒロ君。これから一緒に思い出作ってこう?」

 

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