あか

 深く鮮やかな青い空。

 透き通った緑が眩しい木の葉たち。

 暑さにおかしくなったような蝉の声。


 ひとけのないお昼過ぎの公園で、少年は溶け落ちそうになった棒アイスをパクッと頬張る。その拍子に、前髪からポツリとしずくが落ちた。


「…あっつううう」

 隣でラムネ瓶をあおっていた少年が絞り出すように呟くと、団扇うちわを握りしめた片手をベタっと投げ出した


 木陰のベンチでだらけるふたりの少年。小麦色に日焼けした彼らの肌を、湿ったぬるい風が撫でていく。


「母さんたちが言ってたんやけどさ」

 棒アイスを食べていた少年が、アイスの無くなった棒をイジイジ噛みながら、口を開く。

「最近、夏が長くなってるらしいで」

「あー…。ウチの母ちゃんもそんなこと言ってたわ。

『昔はこんなに暑くなかったし、もっと短かった』って」

 ラムネの少年は視線を落とす。その先には、ひっくり返ったアブラゼミ。

「そんなん言われてもなぁ。

 俺らの知ってる夏はこういうもんやしなぁ」

 アイスの子もセミに気づき、足を忍ばせ、そぉーっと近づく。動かぬそれを恐る恐る、歯形のついた棒で突っついた。


 ジジジジジっ!


 思わず尻餅をついた彼に、セミはビシャっと汁をかけると、そのままどこかに飛んでいった。


「うへぇぇ…おしっこかけられたぁ」


 明るい笑い声が響く青い空。お城みたいに大きな入道雲が立ち上る。


「あ、宿題まだ済んでへんかった」

 そう呟いた少年が、ふとアイスの棒に目を落とすと…。


《 あ た り 》


「よっしゃっ!!!

 おばちゃーん!『あたり』やったぁー!

 交換してぇー」


 歯形だらけの木の棒を握りしめ、子犬のように駆けていく。

 あとには、セミの大合唱。

 どこからか、蚊取り線香の香りも漂っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夏が燻る おくとりょう @n8osoeuta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ