第4話 縁
-縁の視点-
不思議な人。
私、冬木 縁の彼、倉木 悟に対する第一印象はそんな感じだった。
同じクラスの結ちゃんから紹介してもらった人。
「幽霊の専門家がいる」
結ちゃんに案内された家で起こった出来事。
驚いてはいたようだが、私が感じているような恐怖、怯え、そういう感情は全く見せなかった。
不安だった。
誰に言っても信じてもらえなかった。私自身、頭がおかしくなってしまったかと疑っていた。
そうじゃなかった。この現象を共有してくれる人がいた。
直接何かしてもらった訳ではないと思う。
でも確かにあの瞬間、孤独だった私は救われたのだ。
色んな感情がごちゃ混ぜになり、初めて会ったばかりの人の家で泣いてしまった。
そんな事を思い出して少し恥ずかしさがこみ上げてくる。
あの後、私は特に何事もなく家に着き、少し遅めの夕食を家族と終え……現在は、就寝前の入浴の最中である。
シャワーを浴びる際、視界が閉ざされている時にも内心は「鏡に変な物が映ったらどうしよう」と怯えながらの入浴となったが、懸念していた事は全く起きなかった。
就寝用の服に着替えながら、帰り道に気になって結ちゃんに尋ねた事を思い返す。
『倉木さんって目が不自由だったりするのかな?』
私や結ちゃんと話している間は、ついに開かれる事のなかった右目について尋ねる。
目が不自由だったとしたら、本人に直接尋ねるのどうかと思い、もしそうなら次は気配り出来るようにと、聞けずにいた事を結ちゃんに聞いた。
『そんな事ないんだけど、あたしが言う訳にはいかないかな』
結ちゃんが普段浮かべる事の無いような、悲しい笑みを浮かべ言葉を続けた。
『ただ、縁ちゃんも悟くんの事嫌いにならないでほしいな』
(あれは一体どういう意味だったんだろう?)
ベッドに横になり目を閉じる。
最近悩まされていた怪奇現象は起こる気配がない。
溜まっていた疲れもあり、すぐに眠気がやってくる。
(今日は何も起きませんように)
静かに祈りながら眠りに落ちる。
願いが届いたのか、その日は朝まで何も起きる事はなかった。
本日は土曜日。
授業はないため休日であるが、普段よりも大分早い時間に目を覚ます。
結局、あれから数日間は特に何事もなく日々を過ごした。
一連の騒動が夢か幻のように感じてしまう。
結ちゃんとはあれから一緒に行動する事が多くなり、とても気に掛けてもらっている。
今までは挨拶する程度の仲だったが、お互いの事も大分知ることもでき、以前より仲も良くなった。本当に感謝している。
(そうだ。せっかくの連休だし観測会の候補地を見ておかないと)
私が所属している天文部はそこまで厳しい部活ではなく、部員もかなり少ないため基本的にまったり行動している。
ただ一年に数回、流星の
ほとんどは学校の屋上で行われるが、
その下見というわけだ。
(毎回同じ場所じゃつまんないよね。予算も余ってるって部長も言ってたし)
予算は部員の比率に比例していて微々たる物だったが、部員の保護者が有志で車を出してくれたりするため、移動の経費が削減でき最近はあまり使用せずに余りがちだった。
(二年生だし、次の部活までに一つくらい提案できるようにしておかないと)
そこでふと、脳裏に浮かぶ光景があった。
おじいちゃんの家の裏山で見た星空。
あそこの場所で、皆で機材を持ち込んで鑑賞できたらどうだろう? 何だかとても良いアイディアの様な気がしてきた。むしろそれ以外選択肢がないように思えてくる。
(すぐに出れば電車で日が暮れる前には帰ってこれる。ついでにおじいちゃんのお墓参りもできる)
すぐに着替えを行い財布の中身を確認する。普段無駄使いをしないため、新幹線の往復チケットを買っても随分余裕がありそうだ。
行き先も告げず急いで自身の部屋を出る。
冷静に考えれば、異常な行動だとすぐに気づけたはずだった。
いくら思い入れがある場所だったとしても、家族に行き先も告げず行動するのは、普段の彼女ではあり得ない。同じ部活の友達に声をかけたりもするだろう。
学校の部活動。みんなで遠征する場所にしてはマイナー過ぎる場所の上、距離が……離れすぎている。
そもそも、今年度の遠征の予定場所はすでに決められており、そこまで急いで行動する理由もないのだ。
何かに取り憑かれ、引き寄せられるように家を出て行く彼女を、無人になったはずの部屋の窓からおかっぱ頭の童子が無表情で見つめていた。
電車に揺られバスに乗り換え、現地についた頃太陽は随分高い位置にあった。
(思ったより時間かかっちゃったな。まずはおじいちゃんに挨拶しなきゃ)
以前と変わらず、全く通行人にすれ違う事もないままお墓を目指す。
まずはお墓参りだ。
お墓は近所の寺の近くにある。まだ二ヶ月と少ししか経っていないが、訪れるのは随分久しぶりに思えた。
軽く掃除を行い、来る前に買った花を供え綺麗になった事を確認した後、持参した線香をあげる。準備ができた事に軽く頷いて、手を合わせて
その時であろうか。
頭の中の霧が晴れていくように、先ほどまで何の疑いも持たず行動していた自身に対して小さな疑問が生まれた。
(え? 私、どうして……ここに来たんだろう?)
通常の自分ならあり得ない行動。少し考えてみれば、今までの流れ全てが異常であり、本来であればすぐに疑心を持つのが当たり前で……そのおかしいなにかに対して一度、
次から次へ、あふれるように自身への不信が生まれる。
(何で? どうして?)
半ばパニックになりながら一人混乱してしまう。
まるで理解できない。
自分で自分の行動に自信がもてない。
怖い。恐ろしい。そんな感情に支配されかけた時、その隙間に滑り込むように優しい声が響く。
「あら? 貴方はこの間の……」
呼びかけに振り返ってみれば、以前、夜の山で出会ったとても美しい女性が微笑んでいた。
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