その14 抵抗
悠季が改めて意思を固めた、その瞬間。
巨大斧の斬撃が、悠季を真っ二つにせんが如く上空から振り下ろされた。
まずい。こいつらの動き、思ったよりずっと速い──!!
そう感じた時には既に、右頬を刃が掠めていた。
振り下ろされた斧はそのまま大地にめり込み、その風圧と衝撃だけで悠季の身体を吹き飛ばす。
「!!」
空中へ飛ばされながらも、くるりと宙返りしつつ着地する悠季。だが──
既に上空では、『撃滅』の雷術、『妄執』の氷術、そして『狂気』の火術が綺麗に3つの光弾となり、唸りを上げていた。
──ヤバイ!
悠季一人に向けて、一斉に放たれる術力の塊。
三位一体となったそのエネルギーは一筋の極大ビームと化して大地を直撃し、湖畔を抉り、木々を吹き飛ばしていく。
直撃こそ回避したものの、木の葉のように吹き飛ばされた悠季の身体は何度も地面に打ち付けられ、爆風の中で転がり落ちていく。
そして、なぎ倒された樹木に背中が激突してようやく止まった。
「がは……っ!!」
肋骨の2、3本ぐらいは逝っただろうか。
どうにか身体を起こそうとしたが、途端に胸から脳天にかけて激痛が走った。
それでも何とか周囲を見回すと──
付近に倒れていたのは、何人かの防衛隊員たち。
雷撃にでもやられて気絶したのか。携行していた重火器がその手を離れ、無為に転がっている。
──これは多分、無反動砲とかいう奴だろうか。
そう気づいた時にはもう、悠季は隊員から火器を奪っていた。
──バズーカも銃も、元の世界じゃかなり撃った。
管理局でレクチャー受けた時に重火器も多少は触れてみたけど、使い方は元の世界のハンドバズーカやランチャーとも、そこまで変わらなかったはず。
続いて襲いかかってきた火球を、無反動砲を肩に担ぎ、草むらを転がりつつ躱す。
枯草を跳ねのけながら、悠季は上空のスレイヴに狙いをつけ──
情け容赦なく一発、撃ち放った。
防衛隊員たちの撃った弾は、全てシールドで弾かれていたが──
同じ異世界人たる悠季の撃ったそれは見事にシールドをぶち抜き、内側で彼を見下げていた『狂気』の喉元にまともにぶち当たり、空中で大爆発を起こした。
「へ、へへ……
ざまぁ……みやがれ!!」
撃った反動だけで吹き飛びそうになりながらも、悠季は痛みをこらえ、微かに笑った。
致命傷までは至らなかったものの、思わぬ反撃に情けない悲鳴を上げる『狂気』。
一瞬ざわりとどよめくスレイヴたちの姿が、炎と黒煙に包まれる。
だがその向こうに、悠季は新たな殺気を感じ取った。
──こいつは!
瞬間、炎を切り裂いて飛び出してきたものは、短剣にも似た無数の刃。
それはあの雨の夜、悠季の身体を切り裂いた、斬撃。
「二度も同じ技、食らうかよ!!」
無反動砲を投げ捨て、デコボコに寸断された道を駆け抜けながら、悠季はギリギリのところでその斬撃をかわしていく。『絶望』の巨大な腕から生えたであろう刃は、幾つも幾つも上空から悠季に襲いかかり、中には誘導弾のように執拗に彼を追い込むものまであった。
そして幾つかは悠季の身を僅かながら切り裂き、着実にダメージを蓄積していた。
息をつく暇もなく刃の嵐を浴び、少しずつ削がれていく身体。
直撃を紙一重でかわすたびに、転がり、飛び込み、再び立ち上がり駆け抜けていく中──
悠季の体力は、じりじりと限界に近付きつつあった。
*******
悠季が雷霆湖にて戦闘を開始した、ほぼ同時刻。
葉子も沙織も結局帰ることが出来ず、一晩会社で過ごしていた。
勿論二人とも、悠季の残したメッセージを解読するべく、徹夜も辞さないつもりではいたが──
ネットは殆ど繋がらず、余震がひっきりなしに続くこの状況に。
精魂尽き、いつの間にか葉子も沙織も眠り込んでしまっていた。
何しろ悠季が重傷を負ってから、特に葉子は殆ど一睡も出来ていなかったのである。ここで意図せず眠ってしまうのも仕方ないことだった──
幸か不幸か、今日は土曜。本来は休日である。
葉子や沙織に声をかける余裕のある者は殆どおらず、他の社員は徒歩での帰宅に挑戦しているか、度重なる揺れに疲労して眠ってしまっているか、スマホで情報収集しているかのいずれかだった。
そんな時だった──不意に電話が鳴り響き、葉子が飛び起きたのは。
──いけない。
何やってるんだ、私。こんな大事な時に寝てたなんて!!
寝ぼけ眼で頭を振ると、つけっぱなしのパソコン画面がまず目に入った。
恐らくネットで情報収集しているうちに、いつのまにか気絶したように眠ってしまったのだろう。数少ない情報を元にティエーレ語の解読を試みた乱雑なメモが何枚も、机上に散らばっている。
すぐ隣では沙織が、とっくにバッテリー切れしたスマホを片手に、デスクに涎を垂らしながら寝息をたてていた。
疲れた頭を無理矢理ぶんぶん振りながら、葉子は電話を取る。すると──
《天木さん、広瀬です。
神城のメッセージ、分かりましたよ!》
挨拶なしに、用件だけを言ってのける広瀬。
その言葉に、葉子の目も一気に覚めた。
「え、広瀬さん?
もしかして、解読出来たんですか? 悠季の言葉が!!」
《先ほどようやく、ゲーム会社の内部スタッフと話が出来ましてね。やっと判明しました、ティエーレ語の正確な訳が。
それによれば──
本日正午、雷霆湖にて、ケイオスビーストが復活する。
スレイヴ6体の全力をもって奴が覚醒させられれば、復活と同時に首都圏は壊滅する──
神城ははっきり、そう言い残しています》
雷霆湖。葉子も何回か、悠季たちと小旅行に出かけたことがある場所だ。
比較的都心に近い観光地ではあるが、ここからでは恐らく、通常の交通手段でも2時間はかかる。ましてや今は、どこも交通網が寸断されている。
葉子は慌てて腕時計を確認した。既に午前9時を回っている。
悠季のメッセージを信じる限り、ケイオスビースト復活までは──
あと3時間しかない。
一体どうすれば。葉子は軽いパニックに陥りかけたが、すぐに明確な答えを広瀬が返してきた。
《天木さん。須皇さんと一緒に、そのビルの屋上で待機してください。
既にヘリの準備が出来ていますので、お二人を迎えに行きます。こちらからだと、あと10分足らずで到着する》
「へ……ヘリ?
ヘリって、あの、ヘリコプターですか?」
それ以外に何があるのだ。自分で自分に突っ込みながら、葉子は広瀬の言葉に耳を傾けた。
いつの間にか沙織も起き出して、葉子と共にその声を聞いている。
《それから、朗報です。
つい先程、仁志が『夢見の宝弾』の奪取に成功したそうです》
「え? みなとが!?」
思わず身体を乗り出す沙織。「それで? みなとは無事なの?
すぐに戻ってこられるの?」
《多少の危険は伴いますが、今は緊急時だ。
非常用の転送装置、及び時間圧縮術を使用して、強制的に仁志をこちらの世界に戻します。
かなり苦労したようですが、何とか彼も無事だ。お二人をお迎えする時には多分、一緒に乗ってますよ》
「よ……良かった……!」
思わず床に座り込んで、はーっと息をつく沙織。葉子と悠季を案じながら気を張り詰めていたものの、沙織もみなとが心配だったのだろう。
葉子の胸にもじわりと安堵が拡がる。全身を一気に脱力させてしまうかのような安心感が。
──しかし。
《安心するのはまだ早いですよ。
お二人とも──これからが本番です。
神城を、この世界を守る為に。どうか、手を貸してください。
貴方がたの力が、必要です》
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