8/31お題『火薬』

「足りねぇな」

「何が」

「火薬だよ」

 少女は肉を食いちぎりながら笑う。

「――かやくご飯でも食べたいの?」

「あれ、ただの五目飯じゃねーか。ちげぇよ」

 少女はウインナーを引きちぎりながら否定する。

「んーと、花火が食べたい?」

「いや、別に花火が食べたいわけじゃねーよ」

 シャウェッセンを食いちぎりながら少女は首を振る。

「爆発がしたい」

「させる方だっての、こっちが」

 カルパスを食いちぎりながら少女は呆れた声を出す。

「うーん、テロがしたいってこと?」

「そいつは心が躍るな。でもちげーよ」

 逆立ちしながら魚肉ソーセージを食いちぎりつつ少女は目を細める。

「なんかこう、ばっ、と心が踊るような出来事だよ。そういうイベントが欲しい」

 サンマを食いちぎりながら少女は踊る。

「それを言うなら、どっちかというと火種が欲しい、だね」

「あー、争いの火種的な。確かにそうかもだな」

 煮干しを食いちぎりつつ少女は頷く。

「ともかく、イベントだよ。こちとらエネルギーが余ってんだ。それを発散させるためによう、心の導火線をばちっ、とぶっ飛ばすような何かが欲しい訳よ」

 ワニの巻き寿司を引きちぎりながら少女は愚痴る。ちなみにワニの巻き寿司とはサメ肉のことである。主に広島県周辺にある郷土料理である。

「……ていうか、言いにくいんだけど」

「おう、なんだよ」

 ワニバーガーを引きちぎりながら少女はきょとんとする。ちなみにワニバーガーとは広島県周辺にあるサメ肉のハンバーガーである。

「エネルギーが余ってるのはずっと食べてるからじゃない?」

「え?」

 鯨の照り焼きを食いちぎりながら少女は目を白黒させる。

「でも、食べてないと死ぬし」

「そんなサメみたいな」

「実は私、サメの魚人なのよね」

「ああ、道理で」

「否定しろよ!」

「じゃ、とりあえず恋愛とかは?」

「いや、そういう方向はちょっと――なんか怖いし」

「はぁ? 何言ってるの? 女の最大の戦場は恋愛市場だよ。火薬が足りないって言うのなら、盛大に告白して華と散りなよ!」

「なんで散る前提なんだよ」

「じゃあ、私告白しよっか」

「え? 誰に?」

「あなたに」

「え?」

「あなたになら食べられても良いって思ってるよ」

 ごくり、と少女は息をのみ親友を見つめた。

「人を食いちぎる趣味はないなぁ」

「じゃ、私が君を食べちゃうね」

「あっ」

 かぷっと人差し指を噛みつかれ、少女は動きを止める。

ちゅるちゅるっ、すぽんっ

 甘噛みをされ、ぺろりと舐められる。

「はい、ツバつけた」

「……つけられてしまった。もうお嫁に行けない」

「違うよー、私のお嫁さんになるんだよう」

「うう、火薬じゃなくて親友に火を付けてしまった」

「火傷しちゃったねぇ」



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ワンドロ即興小説集2021年8月版 生來 哲学 @tetsugaku

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