8/30お題『粘土/アホ毛』
「まさか。生えたというのか」
愕然とする友人に私は尋ねる。
「ワタクシからは……言いづらい」
「なんで? じゃあなんで今意味ありげに後ろに飛び退いたの?
それが朝登校してきた学友へのリアクション?
女子高生にあらざる飛び退き方してたよ?
四つん這いで天井に着地までしてたじゃん」
「……なんと言えば良いか」
「あ、シリアスな表情は良いから天井から降りようか。
おー、そうそう、スタッと格好良く降りたね」
「君は、髪型にはこだわりはある方だろうか」
「……女の子なら誰でもそうじゃない?」
「そうか。だとしたら、ワタクシから言うべき事は何もない」
「いやいやいやいやいや。意味分からないって。
え? 何? 髪型? 枝毛でも出来てる?」
「いや、枝毛ならばワタクシも言葉を選ばない」
「はい?」
「言うなればそれは――」
「それは?」
「あ」
「あ?」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、ワタクシの口からはとてもそんな残酷なことは言えないぃぃぃぃ!」
「そろそろ殴っていい? あ、天井に飛び退くのはやめて。
悪かったって。天井から降りてきて。殴らないから」
「……」
「おー、スタッ、とヒーローみたいに三点着地するね。君本当に女子高生?」
「いや、裏で退魔師を少々」
「なんだ、退魔師か。女子高生の退魔師なら箔もつくし稼げそうね」
「……そうね」
「まさか、悪霊的なモノが」
「いや、そう言うのじゃない。全然」
「あっそ」
「なんというか――あ」
「あ?」
「ああ、こんなにも月が綺麗だ」
「朝だよ、今は」
「いや、ごめん。ちょっとリメイクのゲームを昨日夜遅くまでやってたから」
「退魔師の仕事じゃないのね」
「仕方ない。君にはこちらを用意しよう」
「お、何か退魔師っぽい」
「退魔師7777道具が一つ」
「数が多すぎない? 全部覚えてる?」
「手鏡」
「そんなの女子高生なら誰でも持ってるじゃん」
「この鏡は真実の姿を映し出す」
「真実の姿ってげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 髪の毛に巨大な触覚がぁぁぁぁぁっ!」
「なんというか、とてもその、ゴキッ……じゃなくて……コオロギみたいな髪型してるなぁって」
「今絶対ゴ○ブリって言おうとしたでしょ」
「いや、そんな、ワタクシは退魔師なのでそんな不吉なことを口には出来ません」
「残念でした。このアホ毛は粘土です」
「嘘やん」
かぽっ
「嘘じゃなかった」
「はい、お裾分け」
「ぎゃーしかも外れない!」
「呪いのアイテムなので退魔師に外して貰ってね」
「そんな……退魔師なんてこの時代にいる訳が」
「あんたでしょっ!」
「いや、自分で自分の呪いは解けないので」
「面倒くさい制約! じゃあ親とか師匠とかに頼めないの?」
「いやー、うちの一族はつい昨日全滅したからなぁ」
「突然重いっ!」
「仕方ない、こうなったら――」
「こうなったら?」
「ワタクシも成仏するとしよう」
「あれ? え? 嘘でしょ……消えた」
どうしていいか分からず……私はとりあえず合掌し、さきほどまで友が居た空間を拝んだ。
「元気でね」
「おう、元気だよ」
「あれ? いる?」
「いやー、成仏に失敗して君に取り憑いちゃった」
「なんでだぁっ!」
どうやらまだしばらくこの退魔師の友人との日々は続くことになったらしい。
了
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