誰もいない部屋にひびく自分の声にはもう慣れた。

山島みこ

誰もいない部屋にひびく自分の声にはもう慣れた。


 「あっちッ…‼︎」



 料理をするには不親切なせまいキッチン。


 うなり声だけはいっちょまえの換気扇。


 前の住人がおいていったシンクの茶色い汚れ。


 どれも望んで手に入れたもの。


 袋はクリップで留めたはずなのに、勝手に口を開いている。


 溜息を漏らす。


 さっそく出鼻をくじかれた気分。


 だがしかし、惰性を味方につけるのはお手のもの。


 手際よく袋に手を伸ばす。


 小さめの鍋に水があふれないように適当にためる。


 着火のツマミをまわす。


 つかない。


 今日はご機嫌ななめらしい。


 反応が悪い。


 もう一度ツマミをまわす。


 さっきより勢いをつけて。


 ついた。

 

 今日はうまく出来そうだ。


 水がふつふつと躍り出したところで、袋の中身をぶち込んでやる。


 菜箸を手にとって、踊り狂ってるのがぶつからないようにぐるぐるかき混ぜる。


 それからしばらくそれを眺めていた。


 近づきすぎたのか、顔が暑くなってきた。


 額にじわりと粒ができる。


 しばらく耐えてみた。


 我慢ならなくなって、キッチンの小窓を開けた。


 湯気が逃げていくかわりに外の熱気を迎えた。


 そよそよと風が額をあおぐ。


 少しだけ涼しくなった。


 よし、後は流水で冷やすだけだ。




 「あっちッ…‼︎」


 今日も、うまく出来た。


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誰もいない部屋にひびく自分の声にはもう慣れた。 山島みこ @soranom

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