第18話 初めて、長く(終)
三好さんと結婚するという話にはなったけれど、まだ具体的なことは何も決まっていなかった。何よりも結婚を決めた郁美たちより先に結婚することだけは止めようと思っていた。
それは拓也さん自身も思っていたようで『真戸たちの結婚を参考にして俺たちらしい式を挙げたいね』と言ってくれた。
早く結婚したいとは思っていたけれど、結婚する相手が出来て結婚することが決まっている今となってはそんなに焦った気持ちにはなっていないというのが正直な気持ちだった。
本当の意味で彼氏彼女という関係になった私たちは休日も一緒に過ごすことが多くなった。
「美佳さん、悪いわねぇ、大丈夫?」
「はい、こうみえても案外力あるんですよ」
「本当にこぉんな綺麗で明るい人が泥だらけになるのが好きだなんて…拓也には勿体ないお嫁さんだわ」
「いえ…まだ嫁では」
「早く嫁いでいらっしゃいな。待ち遠しいわ~」
「あはははっ」
拓也さんのご両親に紹介してもらってから休日はほぼ三好さんの実家にお邪魔していた。
勿論私の方の両親にも三好さんを紹介してすっかり気に入られてしまっている。特に母は農業を本業としている三好さんのお母さんと意気投合して既に私たち抜きで交流を始めていた。
(あぁ…本当に幸せだなぁ)
広大な土地に様々な野菜たちが育ち、それを見るだけでも心が躍る。──しかも
「おーい、美佳ちゃん、休憩しようか」
「! 拓也さん」
同じく泥まみれになって作業している拓也さんの姿を間近で見られることに常に至福を感じている。
(あぁ…最高!素敵、汚れた作業着、汗にまみれた首筋!)
きっと傍から見たらありえない嗜好だと思われるだろうけれど、私はそれが好きなのだから仕方がない。
「はい、お茶とお菓子」
「ありがとう、いただきます」
作業途中にあるお茶休憩も愉しみのひとつになっている。ご両親の計らいでいつも拓也さんとふたりきりにしてもらっているのも嬉しかった。
いいお天気の空の下、大自然の中で大好きな人と一緒にいられるこの時間がとても尊いものに感じる。
「本当に美佳ちゃん、農作業好きなんだね」
「ん…好きっていうか慣れかな。美味しい野菜を食べるためなら苦にならないって感じ」
「ははっ、食いしん坊さんか」
「拓也さんだって美味しい野菜、好きでしょう?」
「まぁね。食べるのも好きだし育てるのも好き」
「うん、私も。一緒だね」
お茶を飲みながら他愛ない話をする度にお互いの絆が強まって行く気がした。
色んな意味でお互いが最初の人になった私たち。
これからもこんな時間がずっとずっと続きますようにと願いながら私と拓也さんはこんな風にこれから先、共に歩んで行くのだった──。
First Long(終)
First Long 烏海香月 @toilo
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