拾って見られて
俺はその日、道路に転がるJKを見つけた。
「そこのおにーさん、そんなに見つめられたら困るよ。私そんなに美人ん〜?そう思って貰えてるなら嬉しい限りだね!うっふん♡」
ふむ、見た目は17といった所かな。短く切り揃えた髪に可憐な笑顔、いやはや昼の街角で会ったなら飛んで行ってアタックを仕掛けたくなる美人さんだ。
「むぅ〜、何か言ってよぉ〜」
先程【昼の街角で会ったなら】と言ったが、生憎今は夜中の11時。こんな時間に一人で道路のど真ん中に寝転んでるなんて絶対まともじゃない。
「こんばんはお嬢さん、そんな所で寝てたら危ないぞ?俺はランニングの途中だからこのまま帰るけど、君も早めに帰りなさい」
うっし決まった!関わらんに越した事はない、サッサと帰って俺は録画で撮り溜めてある人気ドラマ【狂人の書】を一気見するのだ!
俺は体の向きを180°変え、その場を立ち去ろうとする。
が
...........は?体が動かん?てか抱きつかれてる?
軽い衝撃と共に背後から腕を回され、ガシりと拘束されてしまった。
「私ぃ.......帰る所なくて、今日だけ拾って貰えたりしない?」
スゥーハァァ......落ち着けよ俺、どうやら本当にヤバいヤツに関わってしまったらしい。JKを拾う?字面だけ見れば最高だな、俺が同人誌の主人公なら即オッケーしたね。けど現実はそう上手く行かない、倫理観やら法律やらがこの世の中には存在するのだ。
仮にこの子を連れ帰ったとしよう、んでこの子の親御さんが誘拐だと勘違いして捜索願いを警察に出したらどうなるか、分かるよな?お縄だよ。
「お嬢さん、俺は君の知り合いじゃないんだ。いきなり家に泊まらせるつもりなんてないし、若い子は親御さんのいる家に帰りなさい」
「...........なぃ」
「ん?なんだって?」
背後から抱きつかれた上、彼女は俺の背中に顔を埋めている為言葉が聞き取りづらい。
「いないってば」
オイオイまさか。
「親御さん、いないのか?今家にいないとかじゃなくて『親御さんがいない』って事でいいんだね?」
「うん」
うぅーむ、さっきまでの少しチャラそうな雰囲気がなりを潜めて口数も少なくなってるし、どうやら本当らしいな。
「親戚で近くに住んでいる人はいないのかい?友達の家に一時的にお邪魔するとか」
ウッ、抱きしめる力が強くなったぞ?!多少鍛えてる俺が圧迫感を感じるとか、この子どんだけ力込めてんだよ!
「学校じゃイジメられてたし、親戚は知らないもん。てか私の話やめようよ、話したくないし」
.............確かに、俺でも自分の受けているイジメの内容を知り合ったばかりのヤツに話そうとは思わないし、羞恥から言えたもんじゃないだろう。
理屈は置いといて、泊めてやるって言わなきゃ俺の事離してくれなそうなんだよなぁ。
いっその事誰か来るのを待って、その隙に逃げるか?けど今の俺らを客観的に見たら公道でイチャついてるバカップルじゃねぇか!!
誰か来ても俺らの事スルーするな、てか俺が通行人ならそうする。
「なら警察に行きなさい!それで孤児院とかを紹介して貰うんだ、てか今までどうやって生活して来たんだよ」
そう言うと、彼女は「それわぁ.....」と何やら言い淀んでいる。
「えとね、実はここらの地域凄い平和すぎて、昼間は平気で玄関の鍵をかけないで畑仕事してるお婆さんお爺さん達が多いんだ。だから、んと、バレないようにそのお家にお邪魔して、お家の屋根裏で寝させて貰ったりしてた」
えへへぇ、って具合の笑い声が聞こえやがるが不法侵入じゃないか!!警察に行けない訳だ、捕まるもんな?行けないよな?
残念だが俺も覚悟を決めるしかないようだ。幸い強盗や殺人などの実害を及ぼしてる訳ではないようだしな。
そうであってくれなければ困る。
「分かった分かった、泊めてやるけど明日になったら一緒にお嬢さんがこれから暮らしていけそうな所を探そうな。ずっと泊まるってのは流石に難しいから」
「泊めてくれるんだ!!!ありがとう!!」
「だからほら、離してくれよ。そろそろ息苦しいんだ」
彼女の手がパッと離れる。息苦しさからの解放感と、これからJKを泊めなければいけない自分の境遇を危惧する気持ちが同時に到来する。
「ついておいで、俺の家そんな遠くないから」
こうなればヤケだ、ただ言うべき事は言っておかなければ。
俺は俺の家に泊まるにあたっての条件を彼女に提示した。
一つ、飯は俺が作るから冷蔵庫を勝手に開けない事。
一つ、イジメがあるなら学校には行かなくても良いが家事を手伝って欲しい事。
一つ、孤児院でもどこでも受け取り手が見つかったらサッサと出ていく事。
「オケオケ!ちゃんと守るね!てな訳でお邪魔〜」
とうとう家に入れてしまった、俺はしがないアパート暮らしで仕事の収入も世間の平均より若干下だが、一人身の為貯金もあるし生活には困っていない。
「いらっしゃいませっと、はぁ」
思わぬ拾い物をしたもんだ、さてさてこれからどうするか。
「ねね!テレビ付けて良い?」
早くも彼女はこの家に適応し出している、リモコン置いてる場所からテレビのある部屋の場所をすぐさま把握してしまった。
「好きにしてくれ、俺風呂入るから出たら入っておいで」
俺はささっと服を脱ぎ捨て、ランニングでかいた汗をシャワーで洗い流した。
一通り体を洗って風呂から出ると、彼女はニュースを見ているようだ。てっきりこの年齢ならバラエティに興味があるかと思ったが、人の趣味は分からないものだ。
『次のニュースです。今朝、また【猫首狩り】の犯行と見られる首を切り取られた猫の死体が発見されました。同じく猫首狩りによると思われる犯行はこの一ヶ月で六件確認されており、警察による地道な捜査が行われています』
【猫首狩り】か、中々有名人になったな。犯行当初は地元の都市伝説として流行りました猫首狩りだが、その名の通り猫の首を切り取って首の部分を持ち帰るという猟奇的な犯罪者がいる事が、ニュースにより日本中に広められてからはよく興味本位で猫首狩りを探し出そうとする人々がこの地域に出入りする様になった。
「へぇ〜、そんな人がいるんだ」
心なしか彼女の目がキラキラと輝いているように見える、気のせいだと思いたい所だ。
「探そうとか思わない方が良いぞ、実際猫首狩りを探しに来た他地域の人達が何人か行方不明になってる。恐らく猫首狩りはまだこの地域に居座ってるんだろうな」
俺もこの子に行方不明になって欲しいわけじゃない、一応釘は刺しておかないと。
「え?探さない探さない!ただそういう人なら、話してみたら面白そうだなって思ったの!」
慌てた顔で顔を横にブンブンと振っている、流石にそこまで馬鹿じゃなかったか。道路のど真ん中に寝ている所を見た時から、俺の中でこの子は変人寄りのヤバいヤツ認定されているのであんま信用してないが。
『続いてのニュースをお伝えします。〇〇県○市の一軒家で、刺殺された三人の遺体が発見されました。遺体は腐敗が進んでおり、検死の結果死後一週間前後と見られています。三人はこの家にすむ中村さん一家だと見られており、警察は行方不明になってるいる【中村美木】さんの捜索と合わせて、身元の確定を急いでいま』
ッ
チャンネルが切り替わる、どうやらニュースにも飽きたようだ...........。
いや、茶番はよすか。
さっきのニュース、行方不明になっている中村さんの下りの所で顔写真が提示されていた。間違いなくコイツだ。
「説明して貰えるかい?」
「.......なんの?」
「さっきの」
お?誤魔化すつもりか?無理あるぞ?
「さっきのニュースで、お嬢さんの顔が出てたろ。ちゃんと説明してくれよ」
彼女の顔だけがカクン、と俺の方へ向く。嗤っていた。
「どこから説明すればいーい?」
「とりあえず最初から」
「ふふ、オッケー」
彼女はニッコニコと笑いながら高らかに宣言した。
「私は誰も殺してないんだよ!」と。
いやいや、あのニュース見た感じだと明らかに家族を刺殺して逃亡中って感じだが。
「待って待って結論を急がないでよ。第一、一般的なJKが三人を刺殺って難しくない?抵抗されるかもだし、そうなったら私簡単にねじ伏せられちゃうよ」
確かに、父親も刺殺されてる所を見ると別の手段を用いたと思った方が良いだろう。いくら武装していたとて、10代の女性の力で成人男性を殺すのは大変だ。
彼女は淡々と、だが歌い上げるように滑らかに語り出す。
「私ね、お母さんの連れ子だったの。本当のお父さんが死んじゃって、次にお母さんが選んだあの男の家に住むようになって」
「毎日母さんは幸せそうだったけど、私見ちゃったんだよね。あの男が別の女家に連れ込んでるの、んですかさず写真撮った訳よ」
「そこから、まずあの男に写真の事を母さんにバラされたくなかったら協力しろって言って。義理の弟を拘束させた」
なるほど、自分じゃ出来ない事を恐喝でやらせた訳か。
「そうそう、それであの男を学校の理科準備室からくすねたクロロホルムで気絶させて、縛り上げたんだ」
「そんでね、同じく気絶させた母さんと義理の弟をリビングまで引きずってきて、私は包丁片手に皆んなが起きるのを待ったの」
そこで彼女は一旦言葉を区切る。乾いた唇を湿らす為か、舌が唇をペロリと舐めるのがやけに艶かしかった。
「皆んなが起きて、次々に私を責め出したけど全部無視した。私は男に目の前に包丁をチラつかせながら『あの女の事を母さんに言ったらすぐ解放する』って言ったの」
彼女の顔が、歪む。
「そしたらベラベラ喋りだしてさ、こんな狂った娘がいるって分かってたらお前と結婚しないで浮気相手と結婚すれば良かったとか言っちゃう訳(笑」
【ニヤニヤ】そんな優しいもんじゃない。まるで獲物を前にした狼のように口が、裂けた。
「そこで、呆然としてる母さんにそっと包丁を渡してね?『コイツ許せる?』て言ったら、母さん無言で首をフルフル横に振るのよ。『悲しい?』って聞いたら『うん』って一言だけ答えてさ、涙ポロポロ流してさ」
一言一言に狂気が宿る、思い出しながらしみじみ語る様はまさに狂人。
「『母さん、私母さんの事大好きだよ。母さんが今1番したい事をやってよ、手段は目の前にあるよ。私少し外出てくるから』て言って出て来たけど、まさか三人とも死ぬなんてね」
彼女はただの女子高生、だが自分では手を下さず母親に意思決定権を持たせた上で観察すると言う悪辣さ、さながら実験結果を見守る研究者のようだ。
「三人が死体で見つかったって事は、母さん反撃されちゃったんだろうなぁ。それとも父親を殺された弟がハッスルしちゃったのかな?けどまぁ結果が見れただけ良しとしますか!どうなかったか本当気になってたんだよね!」
なるほどな、だからニュースを見てたのか。自分が仕掛けた【場】でどんな事が起きたかを知るために。
とち狂っていやがる、問答無用で警察に突き出すか。
俺の不穏な空気を察知したのか、彼女が尋ねる。
「私の事警察に突き出そうとか考えてる?」
「あぁ、今すぐにな」
当然だ。コイツを置いておくだけで警察がウチに来るかも知れないのだ、俺にとってこれほど厄介な事はない。
「私を警察に突き出して、困るのはおにーさんもだと思うけどなぁ〜」
............なんだと?
「どう言う事かな?」
ニチャァといやらしい顔で笑う彼女、そして................。
「冷蔵庫の中、見たから」
チッ、すでに確認済みか。今日コイツが寝てから整理しようと思ってたのに!
「俺が風呂にいる間に見たのか」
「あったりー!見るなって言われたら見るでしょ、ねぇ【猫首狩り】さん」
ケラケラと楽しそうに笑う彼女。その通り、俺は猫首狩りだ。冷蔵庫には猫の首が詰まってる。
彼女の目が細まり、口が三日月のように薄く広がる。
「おにーさん、取引しない?」
取引だ?断言できるがロクなもんじゃない。
「どんな?」
彼女は指を一本立てて得意げに語る。
「簡単だよ!私はあなたの正体を秘密にする。だからこれからもここで暮らさせてよ」
...............はぁ。
飲むしかない、俺はまだ務所に入る気はないのだ。
「チッ、お嬢さんの事はやっぱ拾うんじゃなかったよ。あぁそれと首には絶対触るなよ?触ったら殺すから」
「はいはーい!これからよろしくね、おにーさん♡それはそうとさ!なんで猫の首なんて集めてるの?!てかおにーさん超普通の人に見えるんだけどめっちゃぶっ飛んでるよね!なんで?!」
あー面倒くさい、仕方ないから答えてやるか。
「猫ってさ、可愛いよな?」
彼女は先程までのキラキラしていた瞳に疑問符を浮かべている。なぜそんな事を聞くのかといった表情だ。
「.........私は可愛いと思うよ?」
「俺もそう思う、では猫のどこを可愛いと思うか?愛くるしい瞳と、そのとんがった耳。猫の可愛い要素全部が顔に集まってるじゃないか!そりゃあ持ち帰りたくもなるさ。なんでぶっ飛んでるのかと聞かれても自分じゃ分からん」
当然の真理だ、しかし彼女は理解出来なかったらしい。顔を引き攣らせてこめかみをピカピカと痙攣させている。
良い顔だ、先程までのニヤケ顔の数倍良い。
「マジぃ?キモいんだけどおにーさん」
『俺からしたらお前の方がキモいけどな!!』と心の内で叫ぶ。
これからの生活を思うと胃が痛くなる、はてさてどうなる事やら。
狂い人の書 ゲン人 @gangu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。狂い人の書の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます