第3話 旧M邸(1/2)
私がまだ小学生の頃の話ね。
私の住んでいた村には一つだけ神社があって、その裏の山にMさんっていう四十歳くらいの男の人が引っ越してきたの。
Mさんは子どもながらに変わった人だなって思ってた。とにかくね。ぜんぜん喋んないの。いつもうつろな顔して、たまに村の道をトラックで走ってるのを見かけた。挨拶しても返してくれないのね。そんな人他にはいなかったし、いまでもすごい印象に残ってる。
大人たちも最初はMさんを集会とかに誘ってたけど、あまりに素っ気ないし、生活もよくわかんないからそのうち「あの人と関わっちゃだめよ」みたいなことを暗に言うようになった。確かにMさんはちょっと変な人の雰囲気もあったから、元からMさんには関わらないようにしようってなんとなく思ってた。
とはいえ普通にしてたら接することなんてほとんどなくて、Mさんも村のことと関わろうとしないから、特に問題は起きなかったの。
ことが起きたのはMさんが姿を消した後になってからのことだった。
中学一年の春くらいの頃だったかな。Mさんがね。突然いなくなったの。“引っ越した”じゃなくてあれは“いなくなった”が近い表現だと思う。
郵便のおじさんが気づいたらしいんだけど、家の鍵は開いているのに、いつも誰もいないんですって。家の中にも家具がまだ残ってて、たまに何かの荷物を運んでた白のトラックも庭に止められたままだった。
最初は旅行とか夜逃げとかいろんな噂が立ったんだけど、二ヶ月もしたら誰もMさんの話をしなくなった。人の出入りにはやたら反応する村のはずなのに、Mさんがいなくなったことについては大人もなにも言わなかった。むしろ不気味な人が居なくなって安心した、くらいの雰囲気だったっけ。
で、Mさんの家はずっと空き家になってたの。それから一年くらい経って、私は成り行きでMさん家に侵入することになった。
前置き長くてごめんね。こっから本番。
そのMさんの家、子どもの間ではなぜかM邸って変な名前で通してたからそう呼ぶね。私とその友達の中学生五人でM邸に忍び込むことにしたの。
理由はちょっとした度胸試し。あの辺の子って高いとこから河に飛び込んだり、他の子に出来ないことをするのがステータスみたいなところがあったのね。
それで何か目新しい遊びがないかなって話してたところ、同じクラスのA君が「M邸に探検しに行くのはどうか」って言い出したの。
最初は皆「えーでも人の家だよ」とか「帰ってきてたらどうすんの」とか色々騒いでたんだけど、結局は好奇心に負けた五人が行くことになった。
もともと人の家に上がりこむのに抵抗がない地域性だったから、あんまり悪いことするんだって自覚もなかった気がする。
M邸がある山のふもとの神社に集まったのが昼の三時くらいだったかな。あの時間はまだ明るかった。
それからわいわいと山を登って、M邸へは十分くらいで到着した。庭の草とか荒れ放題で、まさしく空家って雰囲気が出てた。
辺りに民家はまったくなくて、草の生い茂った道の先にこの家だけがあるの。もともと林だったところに無理やり家を建てた感じかな。人工的な白さの外壁と赤い屋根は明らかに林の景色と馴染んでなかった。
私達は手分けして周囲から家を覗いた。やっぱりどう考えても人の気配はなかった。
「これは入っても大丈夫だろ」言い出したA君が様子を見ながら侵入して、私たちもそれに続こうとした。そしたら先に行ったA君が奥から「うわ、変な部屋」って声を漏らしたの。
「何何?」って行って見たらそのわけがわかった。部屋の中がだいぶ特殊だったのね。
畳敷きの部屋にダイヤル式の古いテレビとエアコンだけがあるの。それで襖をはさんで隣の部屋はフローリングのダイニングなんだけど、大きな冷蔵庫だけがあって、他になんにもない。
誇張とかじゃなくてほんとに何もないの。机も椅子も、電灯すらもね。
空っぽの部屋の端にぽつんと冷蔵庫だけがある。ダイニングに冷蔵庫を置いたっていうかは冷蔵庫のためにダイニングが存在してる……くらいの印象かな。
少なくともそのとき見た光景からは、この家に人が住んでた姿はとても想像できなかった。
「これどうなってんの」とか「なんか不気味だね~」とか私達は好き放題に感想を口にした。けど別に何が起こるわけでもないからさ。私達は家の内外を散策してみることにした。
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