第一章
幻想的密室殺人①
「それでは開廷します」
採用試験から半年、えげつないスパルタ研修を経て俺1人で裁判を任せられる段階まで来ることができた。今日がその第1回目だ。
クライトン伯爵のお城にある法廷にいるのは、裁判官の俺、被告である平民の少女──アイラ(14)、アイラを逮捕してきて起訴手続きを行った女騎士のハリエット・ストラット(21)──試験の時の女騎士だ──に、書記官、
なお、ハイヴィース王国では密室裁判が原則なので、傍聴人はいない。両親等の一定の者が申請をし、裁判官か領主の許可を得た場合のみ傍聴ができるという例外はあるが、アイラの場合は両親が他界しているので原則どおりだ。
さて、まずは人定質問(被告人の本人確認)だ。
「被告人は証言台の前に」
まだ幼さを多分に残した小柄な少女が、俺から見て左側のスペースにある長椅子から立ち上がり法廷の中心にある証言台に移動する。
「氏名と生年月日を教えてください」
「サ、サウサートン町のアイラです。6日で7月、133……え、と、あれ」
「落ち着いてください」被告人が緊張で上手く答えられないことは珍しくない。適宜フォローしていく。「今のご年齢は?」
「じゅ、14歳です」つまり、1332年生まれってことだ。
「結構です。ご職業は?」
「古、着屋さ、んで働いています」
手元の裁判資料に書かれている情報どおりなので大丈夫だね。現代日本の感覚だとこれだけでいいのかと若干不安になるが、こんなもんらしい。戸籍的なものはあるけど、本籍地などという概念はそもそもないのだ。
なお、予断排除の原則(裁判官が裁判開始前に事件に関する先入観を持たないように配慮する原則)はこの世界ではほとんど採用されていない。だからすでにハリエット作の報告書により事件の概要は把握済みだ。
「騎士ハリエットは起訴状の朗読をしてください」
俺から見て右側の椅子に座っていたハリエットが勢いよく起立する。
なお、騎士といっても今現在は鎧を着用していない。帯剣はしているが、それ以外は普通の金髪の町娘って雰囲気だ。
「被告人は、10日12月1346年深夜、クライトン伯爵領サウサートン町で鍛冶屋を営むメイソンの住居において、メイソンを殺害した。罪名は、住居不法侵入及び殺人」スラスラとハキハキと言い切った。
今回の事件は、ハリエットの報告書(裁判資料)が正しいのならば
それはそれとしてアイラが凄く不服そうな顔をしている。
しかしとりあえずはテンプレをこなす。要するに黙秘権の告知だ。
アイラを見て口を開く。
「被告人は質問に対して回答を拒むことができます。言いたくないことは言わなくても大丈夫です。ただし、法廷内での発言は全て証拠になりますので、そこは気をつけてください」
アイラが小さく「分かりました」と。
では問題の罪状認否に移る。
「先程、騎士ハリエットが読み上げた内容は正しいですか?」
アイラの表情が険しく、しかし不安げに。「……せん」声が小さくてよく聞こえない。「私はメイスを殺していません!」
これに
アイラがキッとハリエットを睨みつける。「やっていないものは認められません!」
「静粛に」
しかしハリエットは、やーい怒られてやんの、という感じの顔である。アイラはプルプルしている。学級崩壊の兆しが見えて胃が痛い。気分は腹痛が痛い(?)である。
「騎士ハリエットは、冒頭陳述をお願いします」
はい、とハリエット。起訴状よりも具体的な事件の経緯を説明する。「被告人は──」
ここで述べられる事件の内容は、予断排除の原則が採用される日本のものとは違い、裁判官に事件の詳細を伝えようとするものではなく、被告人であるアイラに行政側が事件をどのように解釈しているかを改めて正確に示すことに焦点が当てられている。要するに争点の共有が目的だ。
さて、精神年齢と実年齢が釣り合っていなさそうなハリエットの報告書と陳述によると、今回の事件は密室殺人らしい。
現場であるメイソンの自宅は仕事場である鍛冶屋の2階にあるのだけど、大剣を受け取りに行った冒険者が約束の時間になっても工房が開かれていないことを不審に思い、衛兵の詰所を訪れた。様子がおかしいから来てくれ、と。
そして、偶々その場に居合わせたハリエットが町外れのメイソン宅へ向かうことになる。
冒険者曰く、メイソンは時間に厳しい人物で、今まで約束を破るようなことはなかった。
これを聞いたハリエットは、呼び掛けても返事がないことに嫌な予感を覚えた。しかし扉も窓もしっかりと施錠されている。やむを得ず玄関扉を一刀両断して工房に侵入。冒険者と共に2階へ行き、ベッドの上で胸部から大量の血を流しているメイソンを発見。死亡を確認した。
遺体の様子から死因は刺殺。また、ベッドの横の床には血の付いた大きな包丁があった。傷口とも一致しており、凶器と断定した。
死亡推定時刻は、体温(火魔法で計測)、硬直及び角膜の状態から10日深夜(発見日の前夜)だ。
アイラが疑われている理由は3つある。
1つは現場に争った形跡や金品が奪われた形跡がなかったこと。これは親しい人間による、怨恨等の感情に起因する殺人であることを示唆している。
2つ目はアイラがメイソンの恋人で、合鍵を持っていてもおかしくないことだ。ただし合鍵の所持については否認している。
ちなみにメイソンは25歳である()。
まぁ、歳の差は置いといて、更にアイラへの疑いを強める要素として目撃者の存在がある。10日深夜にメイソン宅付近でアイラを見たという人がいる。これが3つ目だ。
隣の証人控室で待機している2人が、これらについて証言してくれる予定だ。
「──以上が事件の流れです」アイラの事件概要の説明が終わった。証拠調べ請求へと移行する。「これを証明するために、10日の深夜に被告人を目撃した証人1名と被害者と被告人の関係に関する証人1名の取り調べを請求します」
元々イレギュラーがない限り容認するつもりで準備していたのだけれど、手続き上、アイラにも意見を訊いておく。
「騎士ハリエットの陳述と証拠調べ請求について、被告人は何か言いたいことはありますか?」
「事件なんて知らないです! 意味が分かりません」
ですよねー。
ハリエットの捜査段階では、アイラは〈事件当時は眠っていた〉と一貫して主張している。
「アイラさんの主張は分かりました」アイラの顔に希望が浮かぶ。
すまんな、妙な期待をさせて。
ハリエットへ顔を向ける。「争いのある事柄を検証するためにも請求を認めます」
アイラの希望は一瞬で凍ってしまった。すかさず顔芸で煽るハリエット。やめい。
「騎士ハリエットは静粛に願います」無言だから静かではあるんだけどね。顔がうるさいんだもん。
「!」ハリエットが酷い裏切りに遭ったかのような風情を
いやいや俺は別に行政側の味方というわけではないからね?
そしてカウンターのつもりか鼻で笑うアイラ。すっかり緊張が
「……」
さぁ、次だ、次。
「被告人は、被告人席にお戻りください」
「はい」アイラが初めに座っていた左側の長椅子に戻る。
廷吏のおじさん──ジョージ(39)に目をやり、「オスカーさんをお連れしてください」と指示を出す。
オスカー(34)はアイラを目撃した人物だ。
ジョージに先導され、長髪の男性が入廷する。そのまま証言台の前に移動。
「お名前と生年月日をお願いします」
「サウサートン町に居を構えて小説家をしているオスカーでごさいます。生まれたのは17日11月1312年です」
「それでは宣誓を」
「神の教えに従い、真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」
「もしも嘘をついた場合は偽証罪になりますので、そういったことはないようにお願いします」
オスカーが
「……結構」オスカーの勢いにちょっと引いてしまったが、裁判はしっかりと進行させる。「騎士ハリエットは主尋問をどうぞ」
「……はーい」確実に拗ねてらっしゃる。
歳が近いこともあって比較的によく話すから、無条件に俺が味方になると思っていたのかもね。
ハリエットがオスカーを見ながら質問を投げ掛ける。「10日の夜中にメイソンさんのお宅の近くでアイラさんを目撃したということだけど、これは間違いない?」
オスカーが即答する。「あれは満月が微笑み、蝙蝠が闇に踊る、あるいはかつて愛した彼女を思い出させるような不思議な夜のことでした」
え、ちょっと、なんか始まったんだけど……。
「まるで私の心の扉をノックするかのような音が、
「……」「……」「……」
「美麗なる満月は、さしずめ舞踏会で華やぐ乙女。なれば、月に己の光を届けんと耀く星たちは、彼女の心を射止めようとする
無駄に声がいいっすね。
「『ソフィア……』。彼女のことを忘れたことはありません。忘れられるはずがないのです。今宵と同じ、月の光が降り注ぐ幻想的な夜でした。彼女は──」
「はい、ストーップ!」今日、一番大きな声が出た。「証人は、質問に対し過不足なく、端的に! 具体的にっ! 答えるように!」魂の叫びである。「よろしいですね?!」
「……」オスカーが、ワタクシフマンデス、といった空気を全身から放出している。ついでに魔力も少し漏れている。
「よろしいですね?!」くわっ!
「……はい」まさに渋々だ。
それで何だっけ、あ、目撃証言だった。「10日に被告人を見たのですよね?」
「そうですね」露骨に投げやりになっている。
この人、裁判をなんだと思ってんだよ……。
「場所は?」
「月明かりに祝福された家並みが──」
「……」じぃー。
「──私の自宅の近くです」
「それは被害者宅からどの程度の距離ですか?」
「歩いて2、3分くらいでしょうか。正確には分かりません」
「時間は覚えていますか?」
しかしオスカーは言い淀む。
「どうされました?」
「その時はゼンマイを巻くのを失念していて……」頭を掻く。「深夜の12時は過ぎていたと思いますが……」
あらら。仕方ないね。
この国の時計はゼンマイ式が主だ。ゼンマイを巻き忘れると時計は普通に止まる。まぁ、珍しい失敗ではない。
「分かりました。大丈夫です」
さて、場の流れでハリエットの主尋問に割り込む形になってしまったが、(建前上は)これは彼女がするべき質問だ。というわけでバトンを渡す。
「騎士ハリエットは、他に質問はありますか?」
「……は!」あなた今、寝落ち寸前だったよね? 「な、ないよ!」
「……」
次は反対尋問だ。
この国に弁護士といった肩書きの職業はないから、基本的には被告人本人が自分で尋問をする。ただし知識人等を助っ人に呼ぶことは慣習法上認められているので(裁判官又は領主の許可は必要)、お金やコネのある人はそういった人に弁護をお願いして裁判に臨むことが多い。
ただ、アイラは大半の平民の例に漏れず弁護士なしである。
なお、親や友人は基本的には弁護士役として呼ぶことはできない。これは、素人かつ近親者等だと非論理的で感情依存の意見になる可能性が一定程度以上あり、また、特別な知識がないのならば被告人本人の意見と大差ないからだ。
「被告人は証人に対して何か訊きたいことはありますか?」
長椅子に座ったままアイラが答える。「あります」
「分かりました。それではその場で起立してからご質問をお願いします」
はい、とアイラが立ち上がる。「私を見たということですが、その時の私はどんな格好でしたか?」
質問の意図は理解できるけど……。
オスカーが顎に手をやり小さく、うーん、と。ややあってから結論が出たのか手を下ろす。「寝巻き……でしたか? 月明かりはありましたが、距離もありましたし、はっきりとは分かりません」
つまり、アイラは目撃証言の曖昧さを突こうとしているんだ。それは自分ではない、自分である根拠はどこにあるのか、って具合にね。
アイラが攻める。「ではどうして私だと思ったのですか? 人違いではないですか?」
「……貴女がメイソン君の下を訪れるところは、何度も見ています。歩き方や等身、全体的な雰囲気、そして何より貴女の特徴的な髪色は月夜であっても印象的でしたよ」
「……」アイラが押し黙る。
アイラの髪の色は、まぁ、あれだ、ピンクだ。うん。なんでこんな色なのか分からないけど、こういう派手な髪の人も偶にいる。全体で見れば黒や茶、金が多いけど、赤、青、緑なども見かけるのだ。それでもアイラのように鮮やかなピンクはかなり珍しい。
残念ながら墓穴を掘る形になってしまったようだ。
「被告人は他に訊いておきたいことはありますか?」
眉間にシワを寄せたアイラが「ありません」と小さく述べた。
「それでは騎士ハリエットに再主尋問はありますか?」
アイラとは対照的に余裕綽々といった
完全に、にじゅういっさい児(21)である。敬語が復活しただけマシと思うべきなのかな……。
背筋のピンと伸びた綺麗な立ち姿の、黙っていれば美人なハリエットが再度オスカーへ問う。「オスカーさんはさっきの証言で『被告人がメイソンさんのお家を訪れるところを何度も見ている』と言っていたけど、それは本当?」証人に対してはタメ口なのね。ジェイデン──先輩の裁判官だ──なら怒りそうだ。
オスカーが、うむ、と頷く。「神に誓って真実です。メイソン君とアイラ君が
「うん、そうだよね」ハリエットが、にや、っとする。悪い顔してるなぁ。「ありがと」オスカーに言ってから俺へ顔を向ける。「ノアく……ノア裁判官、再主尋問は終わりです」
「分かりました」
今のオスカーの〈メイソン君とアイラ君が
再反対尋問があるかをアイラへ確認する。「被告人は何かありますか?」
「……ないです」難しい顔をしている。
アイラの財力では国の裁判所に上訴するのは厳しいだろう。ハイヴィース王国において上訴にはそれなりのお金が要る(限定的な2審制)。つまり、資金力に乏しいアイラはこの裁判で今後の人生が決まってしまうのだ。
殺人罪は良くて斬首だ。悪ければ身体刑と死刑のセット。中間は八つ裂きなどの苦痛の強い死刑。実質的な領主様であるダーシーは厳罰主義者だから仕方がないのだけど、個人的には納得しかねる部分もある。
とはいえ、便宜を図るわけにはいかない。次の証人を呼ぼう。
「以上でオスカーさんへの尋問は終了です。お疲れ様でした。オスカーさんは退廷してください」
「はい」オスカーが証言台を後にする。
次いで廷吏のジョージに「ハーパーさんを入廷させてください」とお願いする。
無言のままジョージが動き出し、すぐに青髪の、少女と婦人の中間くらいの女性──ハーパー(17)が法廷に現れた。
ハーパーが証言台の前に来るのを待って、証人尋問を開始する。
「お名前と生年月日を」
「
なんだろう、勝気な見た目に反してすごくアニメ声だ。違和感を感じる。抱くでも覚えるでもなく感じる。そんな感じ。
ちなみに、この国における髪結いとは女性専門の美容師さんのことだ。日本の江戸・明治ころにいた女髪結いが近いかもしれない。
「宣誓をお願いします」
「神の教えに従い、真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」明瞭な口調だ。いいと思います。
「嘘をついた場合、偽証罪になり刑罰が科されますので正直に述べるように」
「嘘なんてつかないわ」
「結構」それじゃあ始めよう。「騎士ハリエットは主尋問を行ってください」
「はい」ハリエットが立ち上がる。「ハーパーさんはアイラさんの前にメイソンさんとお付き合いしていたらしいけど、間違いない?」
「そうよ」
メイソンの趣味は原色系ロリ(?)なのかな。未来に生きてる……未来に生きてたんだね。特異な情況すぎて未来というワードと過去表現の助動詞が両立してるよ。
ハリエットが続ける。「事件当時、アイラさんとメイソンさんが付き合っていたのは本当?」
ハーパーの瞳に
「それはいつから?」
ハーパーの険が増す。「ちっ」
うわぁ、舌打ちしたよ。
「遅くとも2ヵ月くらい前にはそういう関係だった」今までアイラを見ようとしていなかったハーパーが、ここに来て憎悪に満ちた瞳をちらりと向けた。「10月の雨の日に私がメイスのとこに行くとその女がいたのよ。ベッドでね。その時にいろいろあってメイスとは別れることになった」再度アイラへ視線。「メイスが
圧倒的修羅場である。しかしこの程度で怯んでいたら離婚訴訟や嫡出否認訴訟なんてできない。
勝利を確信しているのかハリエットがにんまり。「ノア君!」公私混同そのものの発言だ。「現場となったメイソンさんのお家は、遺体発見時、完全な密室だった。ということは合鍵を持つ人物が犯人となるよね。恋人である被告人なら合鍵を作ることも簡単にできたはず。だから被告人が真犯人に違いないの!」美しいドヤ顔である。うざいとも言う。「どう? 私の名推理は?!」
とりあえず口調をもう少し
どうしたものかと黙していると左側から声。「何が名推理ですか!」アイラだ。「私じゃないです! 私たちは愛し合っていました! 結婚も考えていたんです!」ほとんど叫びのような強い声音。「それなのに彼を殺すわけがないじゃないですか!」
動機についてはたしかに気になっていた。ハリエットの報告書でも動機への言及はほとんどなされていない。具体的には、〈痴情のもつれではないか〉といった旨の、イマイチ信頼できない根拠による推測が記載されていただけだ。
その信頼度の低い根拠というのは。「そんなの信用ならないわ!」聞き込み捜査時のハーパーの言葉だ。「あんたが裏で他の男と遊んでるのは知ってるんだからね! どうせメイスのことも金づるとしか思ってなかったんでしょ!!」
「なんですかそれ! わ、私はそんなことしてい、ません!」目に涙が滲み始める。「今だっ、てメイスに、会いたくて……」
しかしアイラの涙はかえってハーパーの逆鱗に触れたようだ。「気持ち悪い泣き真似はやめなさい! 馬鹿にするのもいい加減にして!!」
「気持ち悪いってなんですか! あなたの顔のほうがよっぽど気持ち悪いです!」
「はぁ!? ふざけんなよ! てめぇみてぇな腐れ●●●が調子乗ってんじゃねぇぞ!!」
「ふん。メイスだって言ってましたよ? あなたは腰使いしかいいところがなかったって。あなたのほうこそ少しは自覚したらどうですか? どブスのクソ淫乱女だって!」
「この餓鬼……!!」
ふと、書記官のトビー(31歳。独身)を見ると、いつもと違わぬスピードで2人のキャットファイトを記録していた。後で
「あわわわわわ」ハリエットが妙なダンスをしている。「ノ、ノア君どうしよう」
少女たちの罵声をBGMに天を仰ぐ。天井のシミは昨日から変わっていないようだ。
首を戻して法廷を見下ろすと混沌。
「はぁ」仕方ない。すぅ、と肺に空気を溜める。そして「静粛に!!」と魔力をぶっ放す。
害意も魔法の発動意思もない純然たる魔力(魔法を発動・維持するための非物質的な燃料)だから、独特のモワッとした感覚を与える効果しかない。つまりは冷や水代わりである。
「……」「……」「……」
「一時休廷にします」次いでジョージに「被告人を」と指示。
頷いたジョージがアイラを連れて法廷を出る。公判が再開するまでは城にある牢屋にいてもらうことになるが、そこは我慢してもらうしかない。
「ハーパーさんも本日のところはお帰りいただいて大丈夫です。必要があればまたご連絡します」
「あ、ああ。分かった」イソイソと退廷していく。
さて。
「ハリエット」
「ひゃ、ひゃい!」
盛大に噛んだね。
「ここからは俺も捜査に加わる」
「!」
立ち上がる。
「まずは現場に案内してくれ」
「うん、わかった!」ハリエットが嬉しそうに
ハリエットがちゃんと捜査しないから俺が出る羽目になったって分かっているのだろうか?
ハリエットと共に法廷を出ようとしたところでなんとなく後ろを振り返ると、書記官のトビーが清々しい顔でサムズアップをしていた。
「……」
裁判官ってこんなんだったっけ?
大いなる疑問である。
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