第5話
2章
→誰だって責任なんてものは取りたくはない。
日が沈むのが遅くなってきた。つい一月くらい前ならこの時間になるとすっかり日が暮れていたというのに、今では街灯ですら必要としない程の明るさを保っている。そのせいか通り過ぎる民家の灯りも大して気にはならず、むしろ日差しが創り出す影の方が目立っているような感じがした。汗をぬぐって、歩くペースを少しだけ落とす。そうしながらちらりと側に目をやると見慣れた街路樹。道路沿いに植えられたそれらは辛うじて小さな影を連ねる、日差しを防ぐアーチとまではいかなかった。日陰の恩恵を受けていたのは樹にひしりと張り付いている蝉だけらしい。朝からずっと休みなく鳴き続けている蝉様には涙が出るが、それなら毎回律儀に学校へ通い続けている我々学生の分の日陰も用意して欲しい所である。
そんなどうでもいい思考と足を休むことなく働かせながらひたすら歩く。学校を出てからかれこれ十分程度にも関わらず汗は滝のように吹き出てくる。ここまでの熱気だともう15分程度の道のりですら進むのが億劫になってきた。家に着くまでは我慢と思っていたがどうにも厳しそうだ。ので、俺は渋々一休みできそうな場所を探すことにした。確かこのまま真っすぐ歩けば道沿いにコンビニがあったような気がするのだが…。
「日陰…ひかげ…」
半ば呪詛のように呟きながらも足を動かす。そうしていると無事目的のコンビニを見つけることができた。これ幸いとばかりに俺は歩くスピードを速め店内へ。自動ドアをくぐると気の利いた温度の冷房が迎えてくれた。外との寒暖差も相まって、まるで店の中は砂漠のオアシスそのものだった。
「ふぃ~…」
きっしょい声が漏れたが辺りには誰も聞いている人が居なかったのでセーフ(レジ前の店員に訝し気な視線を送られた気がしたが多分勘違いであるということにする)である。とは言え店の入り口で固まっている訳にもいかないので適当に店内をぶらつくことに。この時間はガラス張りのケースに入れられた冷たい飲み物や、上ぶたのないアイスコーナーの商品らが暴力的なほど魅力的に見えてしまうから厄介だ。現に俺はいつの間にか財布を取り出し、その中身と相談し合っていたのだから。
「せっかくだから一個くらい買っとくか?でも帰ったら食べるもんあるしな…。それにあんま小遣いないし…いや、どうせ明日は学校休みだし今日くらい…」
「ねえ」
「!?」
唐突にかけられた声のせいで肩が跳ねる。独り言を聞かれていた+他人から声をかけられることを想定していなかった+そもそも近くに人がいることに気が付かなかったの三連コンボのせいで人見知りの手本みたいな驚き方をしてしまった。
「す、すいませ…」
反射的に出た平謝りと同時に視界を持ち上げる。我ながら腰の低さに惚れ惚れするが、そんな謝辞の台詞は最後まで言い切られることはなく尻すぼみになっていった。何せ。
「そこ。邪魔」
目の前にいたのは件の美少女―――朝比奈美夜その人だったのだから。
このラブコメはフィクションです。 ポトフ一郎 @potohuitirou
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