第48話 この世界は…

 「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」久しぶりに人の死でショックを受けて、さっきセージが言っていたことの実感が湧いた。粉々に砕けた氷が溶けていくのと、だんだん鮮明に見えるバラバラの遺体で涙がボロボロ出てくる。

 ひぐひぐと声のする隣を見ると、デイジーもセージの遺体を見て泣いていた。彼女は俺達みたいに異常になってはないだろうから、そろそろ精神状態が危ないのだろう。

 ドラゴンを見ると、セージの魔力を吸い取って魔力量が増加したのか、折れた片腕が戻っていた。

 その爪をデイジーの鳩尾に突き刺すと、デイジーはうめき声を上げた。

 しかし貫通はしていない。先程と比べると攻撃が浅いなと感じたその時、爪はそのまま下にずれてデイジーの腹が縦にパックリと切れた。今にも内臓が飛び出しそうだ。うめき声は絶叫になり、ドラゴンの笑い声も混じる。

 やがて爪は俺の方へやってきた。俺はもがいたが、左肩をぶさりと刺され、貫通する。「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ…!」土埃が口に入って咳が出た。

 爪を抜かずにドラゴンは喋りだした。「ガキ、以前から変わったな。」

 「…?俺とお前は初対面だ。」俺は声を振り絞った。

 「やはり覚えていないか…。俺と貴様が会うのは記念すべき21回目だ。」

 「は…?」  

 「まあいい。見てみろ、海の方を。」

 海の方を見ると、砂嵐が起きていた。「災害か…?」

 「違う。貴様はいつからこの世界が本物だと錯覚していたのだ?」

 「は…?」

 「あれは砂嵐などではない。この世界が崩れ始めているのだ。お前が致命傷を受けたからな。しかし、ここまで追い詰められたのは初めてだ。プレイヤーめ、腕を上げたな。…おっ、死体も崩れ始めたか。見ろ、お前の仲間たちがどんどん崩れていくぞ。」

 下を見ると、校長先生、エヴァンス先生、マック、アレクセイ、キャシーの体が砂のように崩れ去っていった。まるで、砂で作った城が強風でなくなるかのように。

 「なに、あれ…?」隣でデイジーもそれを見て声を出す。

 「プレイヤーって、何のことだ?」

 「ここはゲームの中の世界なのだ。つまり貴様らも偽物。ゲームのキャラクターに過ぎない。ハッハッハ、いい顔をするな。ずっと前から同じことの繰り返し。たまに覚えていることもあったが、何度戦っても貴様らは俺に勝てなかった。貴様はそろそろ死ぬ。そしてまた起き、この1年間をもう一度体験するのだ。俺に勝つまで、永遠にな。…あ、持ち主にゲームが捨てられたら本当の死を迎えるがな。楽しみだな、俺は海の底で寝ているかお前らと戦っているかしか行動のバリエーションがなかったから、死を体験してみたいものだ。」

 ふと目線を下にやると、セージの遺体が砂のようになって全て消えたのが見えた。

 隣を見ると、デイジーの開いた腹から内臓が飛び出して、さらにそれが崩れていく。「レオ…」

 「デイジー!おいドラゴン、これを止める方法はないのか?」

 「ない。貴様も、俺さえも、そろそろ同じようになる。」

 「君が、愛することを、知ってから、死にた…った、な…。」デイジーがそう言って微笑むと、内臓だけでなく全身が崩れ去った。

 「ガキ、今回はそのガキと恋仲にはならなかったのだな。前回は恋仲にあったのに。確かその前は、喧嘩して仲が悪かったが。…次回俺を倒して、次のステージに進めるといいな。ハッハッハ…」


 俺の世界は全て崩れ落ちた。


 ―KURAGE GAME OVER―

 「ちぇっ、ムズいな、このゲーム。もっかい!」

 「えっ!?お兄ちゃん、返してよ!」


 ―GAME START PERIDOT―


 「レオ、起きろー!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ペリドット 初夏野 菫 @shyokanosmile

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ