10話.[罰としてのキス]

「ちょ、ちょっと待ちなさ――」


 牧と長く話していたということでずっと怖い顔をしていた。

 そして彼女はそれだけでは抑えられなくなり、こっちを押し倒して自由にしてきていた。

 牧は緒方と仲良くしているんだからその心配もないというのに。

 まあ……あの子は同性もいけるみたいだからどうなるのかは分からないが。


「っはぁ……あんたちょっと暴走しすぎ」

「全てあなたが悪いのよ」


 移動して座り直す。

 ここは私の家だからレオに癒やされることも叶いやしない。

 というか、キスはもっと雰囲気がいいときにしたかった。

 罰としてのキスなんかなにも嬉しくない、どうせ好き同士だったらもっと仲が深まるようなそれにしたい。


「言ってくれれば自由にしていいからそういう形でのキスはやめて」


 それが嫌なら別れた方がいいと口にする。

 こういうことが続くならお互いのためにもよくないからその方がいい。

 友達のままでも一緒にいることはできるわけなんだからね。


「……そ、それだけは嫌よ」

「だから守ってくれればいいって。あと、罰としてのキスなんて最悪すぎでしょ。私はもっと愛が深まるような――」


 ばっと口を塞いだがもう遅い。

 こういうことを考えるのと、実際に口にしてしまうのとでは違うのだ。

 幸い、彼女はからかってくるようなことをしなかった。

 それどころか驚いたような顔でこっちを見てきていたと思う。


「……とにかく、罰としてのキスはもう嫌だから」

「え、ええ……」


 恥ずかしいことなんていまさらだったから寝転んで天井を見た。

 彼女は突っ立ったままだったから横に寝転ぶように誘う。


「つか、あんただって同性異性関係なく一緒にいて楽しそうにしているけどね」

「それはあくまで友達として……」

「私だって牧や智子といるのはそうよ」

「そうだったわよね、ごめんなさい……」

「直してくれればいいわよ」


 彼女の腕を抱いて目を閉じる。

 正直キスなんてしなくてもこうして触れているだけで満足できてしまう乙女みたいになってしまっていた。

 言うのはあれだからこうして触れて静かにアピールしているというわけ。


「ただいまー!」

「おかえりなさい」

「うんっ、あ! ……空気が読めていなかったかな……?」

「気にしなくていいですよ、それよりお父さんはどうしたんですか?」


 いつもなら軽い言い合いをしながら存在しているのに意外だ。


「今日はちょっとやらなければならないことが増えちゃってね……」

「それなら桜さんはどうして?」

「ま、まあまあ、ずるをしているとかそういうことじゃないからっ」


 そういうことらしいからこっちは気にせずに香奈恵の腕を抱きしめ続けていた。

 少しだけ居づらそうな感じの彼女だったが、大丈夫だと言ったら落ち着けたようでよかった。


「これからも私の抱き枕としてよろしくね」

「……彼女」

「彼女兼抱き枕ということで」


 これからもこの関係でいられたらいいなと乙女みたいに願ったのだった。

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71作品目 Nora @rianora_

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