09話.[したりはしない]

「わわ……み、見ちゃった」


 GWなんだし本当にたまたまだった。

 丁度折り返して家に帰ろうとしていたところであのふたりがこう……。


「あ、牧ちゃん!」

「あ、智子ちゃん!」


 だから彼女の明るさは正直に言ってかなり助かった。

 もちろん言ったりはせずに一緒に歩くことに。

 ……それにしてもまさかそこまで進んでいたなんて。

 いやずっと仲良かったことも、抱きしめたりしていたことも知っているけど、ねえ。


「ねえ、智子ちゃんってもうキスとかって……」

「それは付き合っているわけだからね」

「だ、だよね、どんな感じなの?」

「ふわふわとした気持ちになるかな、何回もしているのにね」


 って、なんか物凄く経験値が高そうな発言だあ……。

 そうだよね、ずっと前から付き合っているみたいだからそりゃそうなるよね。

 対する私は動こうとする前に松島さんに振られてしまったから悲しい人間、とほほ……。

 だけど何故か緒方君が来てくれているから寂しくならずに済んでいると言える。

 いや、緒方君だけではなく渡辺さん、松島さん、智子ちゃんも来てくれる、話しかけてくれるから全く問題はなかった。


「あ、緒方君だっ」


 これはまたどういう偶然だろうか。

 あと、渡辺さん以外の人の名前は意地でも呼びたくないのかな?

 彼氏さんは絶対に呼んでいるだろうからカウントはしていない。


「お、これはまた珍しくもない組み合わせだな」

「えー、なんか嫌な言い方っ」

「まあまあ。牧、GWは楽しかったか?」

「うん、家でずっとゆっくりしていたけど楽しかったよ」


 外に出ることが全てではない。

 家にいるだけでも十分楽しめる。

 ゲームをしたり、読書をしたり、お掃除をしたりとかそういうの。

 今年も似たような感じだったけど、だからこそ慣れているから余計によかった。


「そうか、なんか牧らしいな」

「うん、こうやって毎年過ごしているんだ」

「よし、じゃあいまから少しだけ一緒に過ごそうぜ」

「分かった」


 智子ちゃんは彼氏さんと約束があるからということで歩いていった。

 彼とふたりきりになったからって緊張したりはしないからいいけど。


「俺さ、最初は松島が気になっていたんだ」

「それは前も聞いたよ?」

「そうか、でも、いまは滅茶苦茶真剣に牧と仲良くしたいと思ってる」

「そうなんだ?」

「ああ、だからもっと一緒にいたいんだよな」


 私としては普通に嬉しいことだから頷いておいた。

 そうしたら彼も頷いてくれて、長くゆっくりと仲良くしていきたいと思ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る