満ちる
「……お腹いっぱいで気持ち悪い」
「え?」
「今日はもう十分。貴方の血をもらうのは今度にするわ」
「あ、いや、あの」
「また近い内に来るから待っていなさい。貴方の態度次第では、次も殺さずにおいてあげるわ」
そう言って吸血鬼の美女は、僕の首を噛むだけ噛んで、血を一滴も吸うことなく去っていった。
あとに残されたのは、土足で踏み込まれて汚れた床と、セロハンテープが貼り付けられて不格好になった窓だけ。僕はその光景を見ながら、行き場を失った決死の覚悟にどう決着をつけるべきなのか考えることを強いられるのだった。
吸血鬼のプライド 桜居春香 @HarukaKJSH
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