第20話 知れ(4)

 柘植がベッド裏のホワイトボードを確認していたとき、突然、寝室の明かりが点いた。それと同時にスマホが振動した。直った。振動し続けている。


 彼が安堵もそこそこに未だに動き続けるスマホを訝しげに手に取ると、「カードキー」のアイコンの右上に数字が表示されていた。その数は、ほんの少し見ている間にもどんどんと増えていく。


 アイコンをタップすると表示されたのは瑞葉からの無数の入室申請であった。1秒おきにどんどん新しい申請が届いている。

 柘植が入室を許可すると即座に扉の向こうで物音がした。柘植は立ち上がった。


 「瑞葉、こっち。寝室」

 彼がそう声をかけるや否や扉が勢いよく開いた。青白い顔をした瑞葉がその勢いのまま柘植目がけて飛びついた。


 しがみついて顔をうずめる瑞葉は何も言わない。

 「瑞葉、大丈夫」

 柘植が頭を撫でる。何度もそう言いながら撫でる。

 (寂しかったんだな……)

 そうやりながら彼もまた瑞葉の無事を確認できたことに安堵していた。


 しばらくして柘植は瑞葉から解放された。すぐに彼らは前の日と同じように、特に今日の出来事について考察を始めたのだが、瑞葉は柘植にしっかりと張りついていた。少しでも離れるとその後を付いていこうとして柘植を困らせた。自分の部屋に戻ろうとしない瑞葉に、柘植は、明日から必ず自分の部屋に戻ると約束させた上でリビングに1つベッドを召喚した。柘植は瑞葉に気を許し始めていた。



**



今日の犠牲者 影山洋介

一番大事な人 父


 正義を信じる熱血漢。「透明な殺人鬼ゲーム」に強い抵抗を示すも、現実とそう変わらないことをすぐに理解し、拒絶することなく参加する。それでも忖度は大の苦手で、上級国民の残した証拠をもみ消したり、自殺(意味深)扱いにしたりしたときは、独りで酒をあおった後に袖の下を全額孤児院の募金箱に突っ込んでいた。出世しそびれたのもそれが原因。間違えちゃってごめんね。



今日の犠牲者 関口里奈

一番大事な人 父


 恋に恋する18歳の女子高生。死が眼前に迫る緊張下で影山からメンバーに誘われたことで運命を感じ、恋に落ちた。要は吊り橋効果。ただ、影山が関口を選んだのはあながち偶然でもなかった。何故ならば関口が無意識のうちに影山の近くをうろついていたからである。関口は始めから影山に好意を持っていたのかもしれない。ちゃんと勉強するようにするね。ごめんね。



今日の犠牲者 濱崎虎王

一番大事な人 弟


 ニニィにアブられる前はパチンコで大負けした父親に弟の剣鬼共々殴られているところだった。母親も似たようなタイプで食事も金も基本的に与えない。濱崎は周りから出来が悪いとさんざん言われているが、弟の方は比較的まともで、その弟を大学に通わせるのが彼の目下の夢。弟が勉学に専念できるようにと日夜金を盗んでは工面している。得意技は無免原付から放つ「カルテットH (ハイパー・濱崎・走りジグザグ・ひったくり)」。要は犯罪。みんなも気を付けよう。

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透明な殺人鬼ゲーム 第2章 Necessitas non habet legem. Kバイン @Kbine

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