第18話

未公開分

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ブラック・フラッグの根城であるアルトン山は、あらゆるトラップが仕掛けられていて調査が全くできておらず、おまけに向こうのおおよその戦力すら判明していません。国ですら手を出せずなし崩し的に冒険者ギルドへクエストとして預けられているワケですが。だからこそ、あれだけ莫大な報酬にも関わらずどの冒険者も手を付けていないのです」


 説明しながら、みすみすこの手を逃していいモノなのかと考える。もしも達成出来たのなら、俺たちが成り上がる為の大きな実績になるのに。本当に、それでいいのだろうか。


「やっぱり、難しいですよねぇ」

「はい、申し訳ございませんが……」


 ……いや、逃していいワケがない。まだ小さな俺たちが成り上がる為には、作戦と計画を凌駕する勢いの産物が必要だって前から分かっているだろ。だから考えろ。こんなビッグチャンス、一度逃したら次はいつ訪れるかも分からない。なんなら、もう訪れないかもしれない。何か、何か手は無いのか。


「……その、少し待ってください」


 言葉は、思わず口をついて出た。引き止めてしまった。ならば、今この瞬間に思い付くしかない。あの巨大な盗賊団、ブラック・フラッグを撃滅する為の何かを。

 絞り出せ。カフタだって、死ぬほど頑張ってるんだ。社長の俺が誰にでも出来ることをただこなしていていいワケがないだろうが。


「……そうだ、バッド・カンパニー」


 バッド・カンパニーは、傭兵集団だ。好きに集まって、好きに辞めて。それは俺たちの思惑が重なった結果による偶然の産物だった。確かに、パーティではなかった。だが、理由は違えど、同じ目的を持って戦うチームだった。


「あれなら」


 もしもあれと似たような組織を俺の手で作り出せたのなら、デポート・マネジメントが自由にメンバーを組み替えて適切なパーティを組めるのならより効率的にクエストの攻略に望める。

 しかし、そうとなれば実践部隊に加えて調査専門や、武器・魔法・モンスターへの知識に厚い人材だって必要だ。そもそも、低ランクの冒険者は育てて使えるようにしなきゃならないし、何よりも連中のその間の生活費をどうすればいいんだ?冒険者はクエストをこなさなきゃ……。


「いや、待て」


 それは、給料を年俸制にすれば解決するな。デポート・マネジメントの選手として登録し、出来高では無く決まった金額を払えばいい。本格的な冒険者のフリーランスからの脱却だ。そうわるくない案だろう。


 ……しかし、一体誰がそんな金を出すんだ?普通程度の低い給料では誰も所属してくれるワケがない。それなら冒険者である必要が一切ないからだ。最低でも、年間で彼らの時価総額であるAGと同等の金を払わなければいけなくなるだろう。

 そうなれば、ステイ・チューンだけでも5000万ゴールドを軽く超えてくる。成長すればもっとだ、Aランクになる頃には軽く5億を超えるだろう。

 その上で、仮に5つの4人パーティを抱えたとすればどれだけ莫大な支出になるっていうんだ。そんなことになれば、デポート・マネジメントは一瞬で倒産してしまう。


「金……、金か……」


 ファルマンに聞こえないよう、クリスタルを遠ざけて呟く。金だ。やっぱり、最後に付き纏ってくる問題は金なんだよ。これが真実だ。この世の全てが金で解決出来るが故に、金がなければ何も解決できない。俺は、俺の信仰する一文字違いの神の価値を改めて実感した。


 しかし、俺がいくらか借金をしたところで焼け石に水だ。会社が死ぬまでの時間が二瞬に増えるだけ。もっと根本的に解決できる程の莫大な資金が必要なんだ。


「……お金のこと、考えてるんですね」


 ボソっと呟いたエチュに気が付き、俺は自分の表情が強張っていることに気が付いた。危ない危ない、もっと冷静に考えなければ。サンキュな。


 そう考えて視線を動かした時、ふとデスクの上の新聞が目に入った。そこには当然、新聞社を経営する上で必ず必要な項目がある。


「……スポンサーだ」

「えっ?なんですって?」


 広告だ。チームの冒険者たちに広告を付ければいいんだ。そうすれば、デポート・マネジメントに所属して冒険者をやる意味が生まれる。問題は、一体誰がスポンサードしてくれるかだが。


「ジノさん、どうしましたか?」


 ……いや。それは、もう分かってるだろう。なら、俺が話をつけるしかない。デポート・マネジメントを冒険者の憧れにする。それを達成する為には、これが最適な方法じゃないか。


 やってやろう。


「ファルマンさん。1年だけ、時間をいただけませんか?」

「1年?なぜです?」

「それで、ブラック・フラッグを潰します」


 聞いて、ファルマンは言葉を失っていた。向こうも、まさか本当に俺がこんな事を言い出すとは思っていなかったのだろう。

 しかし、幾ばくかの後に沈黙は破られた。呆気にとられても、訊かずにはいられなかったようだ。


「ど、とうやって?」


 だから、俺はここに強く宣言した。


「デポート・マネジメントは、プロの冒険者チームを作ります」


 決まりだ。俺たちが、冒険者の歴史を完全に塗り替えてやる。


 × × ×


 三日後、俺はエチュと共に商人ギルドのギルドホールへやって来ていた。商人ギルドは、これも過去の名前を引き継いだ企業であり、冒険者ギルド同様商人同士の商談を取りまとめたり企業の株式を取引する場として利用されている。


 冒険者ギルドと頭は同じで、世界一の大企業『オールヘイヴン・キャピタル・グループ』が運営をしている。ここに所属していない商人は、株式を発行していない企業の商人。俺のようなベンチャーや、国家間を行き来する個人の行商人や、あとは土地持ちの老舗なんかが当てはまるな。


 余談だが、オールヘイヴン・キャピタルの総資産額は約300兆ゴールド。積み上げれば天まで届く。グループのトップの詳細は、何故か一切明かされていない。どんなヤツなんだろうな、実は本物の神だったりして。


「緊張しますね」

「そうだな、ちびりそうだ」


 今日ここに来たのは他でもない。ブラック・フラッグを潰す冒険者のチームの発足する為の資金調達。つまり、スポンサーの獲得だ。今の俺が持っている武器はあまりにも貧弱で数も少ないが、チャンスが来たんだ。戦うしかない。


「どんな人たちが来るんですか?」

「中小の商店に金貸し屋。後はいくつかのメーカーと農場に声を掛けてる」


 それと、俺の古い知り合いが何人か。なりふり構っていられないからな、使えるコネは全て使わせてもらう。総勢18人。


「それじゃ、行こうか」


 ベルトをキツく締めて、エチュの肩を叩き中へ。受付嬢に確認をすると、ホールの中の会議室の一つへと案内された。因みに、エチュを連れてきたのはビジュアルアップの為だ。俺のようなおっさんより、エチュのような若くて綺麗な娘にお願いされた方が相手も気分がいいからな。


 こうして、スポンサーを勝ち取った俺はプロの冒険者チームを発足したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【旧版】プロ冒険者パーティをつくろう 夏目くちびる @kuchiviru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ