戦場ではスマホは武器にならない②
男子高校生が城から馬車に乗せられ、戦場へと連れていかれる街道沿いの樹の下で、男子高校生が乗せられた馬車を眺めていたロヴンが、振り返り第四の壁を越えて読者に語りかけてきた。
「闇の魔導士たちが、別世界から呼び寄せた〝繋がる者〟というのは……いわゆる、クゥトルフ神話に登場する【邪神】とか【旧支配者】みたいな禍々しい存在ですね……この先、強制召喚された彼には悲劇が待ち受けているみたいです」
戦場最前線近くの、本陣営──城から送られてきたスマホ使いの男子高校生を見て、前線部隊を指揮する部隊長の剣士が抜いた剣の切っ先を、スマホを手に震える男子高校生の喉元に近づけて言った。
「おまえが送られてきた〝スマホ使い〟か……今度のヤツは使えるんだろうな、おまえ、戦場で剣を持って戦った経験はあるか?」
男子高校生が震える声で答える。
「ゲームの中でなら……レベル999になったコトも」
質問をした部隊長は、男子高校生の返答を聞いて鼻で笑う。
「おまえも前に前線に城から送られてきた、使えないスマホ使いと同じ実戦経験なしか……今度のヤツは繋がっていると聞いたから、少しは期待したが──どうせ、スマホで調べれば戦術を組み立てられるから……とか言って机上の理論を言い並べるだけなのだろう、おまえよりも実戦経験が豊富な参謀や軍師は間に合っている」
部隊長は持っていた剣を地面に置いて、男子高校生に命じた。
「地面に置いた剣を持ち上げてみろ」
スマホ使いの体力が無い男子高校生は、ふらつきながら重い剣の柄を握って持ち上げるのが、やっとだった。
男子高校生にとっては、構えるコトもできないほど剣は重かった、ゲームの中のように振り回すコトなど、できそうになかった。
へっぴり腰の男子高校生を見て、やれやれといった顔をする部隊長。
「メシを食って、休憩したら前線で戦え……せめて、そのスマホで敵の一人でも倒してくれよ……あまり、期待はしていないがな」
拒否しようと口を開いた男子高校生の首筋が激しく痛み、拒否する気持ちをやめたら痛みは消えた。
男子高校生は部隊長の命令に従うしかなかった。
小一時間後──スマホを持った男子高校生は、戦場の真っ只中にいた。
ぶつかり合う金属音、怒声や悲鳴、舞い上がる土埃、近くには体の一部を切り落とされ血まみれで倒れ。
絶命間近で「痛い……死にたくない……死にたくない」と、呟いている兵士がいた。
絶叫、流血、飛び散った血肉が大地を汚す。
死体になっても魔導の力で立ち上がって、自我を失ったまま戦い続けている兵士もいた。
誰もケガをして苦しむ他人のコトを、介抱している余裕がない悲惨な戦場だった。
恐怖で座り込んだ男子高校生は、必死にSNS
で助けを求める書き込みをしたり、スマホで撮影した動画を投稿して自分が置かれている状況を説明した。
だが、スマホの画面から返ってくる反応はどれも、他人事の冷ややかな反応ばかりだった。
男子高校生が、スマホの向こう側が仮想現実に思えてきた時、一人の敵剣士が男子高校生の前に立って剣を向けた。
泣き顔を上げる男子高校生。
敵剣士の顔や服には飛び散った他人の血が付着していた。
戦歴の斬り傷を持った屈強の兵士が言った。
「おまえ、召喚された〝スマホ使い〟か? 前に戦場で会ったスマホ使いは、使えないスマホを泣きながらオレの方に投げてきたから、スマホごと叩っ斬った……おまえのスマホは剣か? それとも盾か? 魔導の力で魔獣をスマホから呼び出したり、電撃で攻撃とかできるのか?」
男子高校生は涙目で、震える手で持ったスマホの画面を剣士に向ける。
そこには大きく『死ね!』と書かれていた。
剣士は剣を突きの構えに変えて言った。
「なんて書いてあるのかは、わからないがバカにされているのは伝わってくる……死ね、無能なスマホ使い」
突き出された剣が男子高校生の胸を貫く。
「あぐっ!」
血に染まった剣が体から引き抜かれると、男子高校生は前のめりに倒れ。
刺した剣士は別の敵を求めて男子高校生の前から立ち去った。
「ヒューッ、ヒューッ」と息をするたびに空気が漏れる音が聞こえ、命の炎が消えかかっている男子高校生の持っているスマホが着信を知らせる。
電話をしてきたのは、男子高校生の母親だった。
電話に出た男子高校生の耳に一日前に聞いた、懐かしい母親の声が聞こえてきた。
《やっと繋がった……今、どこにいるの?》
答えようとした男子高校生の目前に、繋がる者が浮かび現れ。
男子高校生は、城で魔導士が言った言葉を思い出す。
【電話で助けを求めて声を発せれば、その声を辿って繋ぐ者が、アチの世界に移動して、会話をした者にとり憑き……命を吸い取り奪う】
男子高校生の耳に、スマホから母親の呼ぶ声が聞こえた。
《もしもし、聞こえている? いったい何があったの?》
男子高校生の目が涙でかすむ、男子高校生は心の中で。
(母さん……ごめん)
そう呟くと、無言でスマホの電源を切って……異世界で男子高校生は絶命した。
話し終えた転生の女神は、冷めたコーヒーを飲み干すと悲しげに呟いた。
「戦場ではスマホは武器にならない」
読者に向かってロヴンが言った。
「スマホが万能なのは、平和な異世界だけです……肉弾戦が主流の動乱世界では役に立ちません、召喚される方は注意してください」
戦場ではスマホは武器にならない~おわり~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます