レザリムス西方地域の悲劇【重いストーリーです】

戦場ではスマホは武器にならない①

 またまたどれか一つ平行世界の【アチの世界】──コーヒーチェーン店でコーヒーを味わう転生女神の姿があった。

「ふぅ……至福のひとときね」

 コーヒーを口に含んだ、女神の前にビデオカメラで撮影しながらロヴンが現れた。

「どうもぅ、またまた『てめぇは何しにこの店に』のインタビューです」

「ぶはぁ……なに? あんた、また来たの?」

「読者から好評だったので」

「読者?」

 ロヴンは、転生の女神の肩越しに、第四の壁を越えて読者に向かってピースサインをする。

 転生の女神は、不思議そうな顔で何も無い背後を見た──転生の女神には、壁の向こう側から覗いている読者の存在は認識できない。

「あたしの後に誰かいるの? 冗談だったら、そういうのやめて……怖いから、たまに喫茶店に一人で行くとテーブルに二人分の水を持ってくる店員とか、一人なのに『お二人ですか?』って聞いてくる店員いて怖いから」

「へえ~っ、意外と恐がりなんですね」

 転生女神の肩越しに、第四の壁を凝視するロヴン。

 その行動に、恐がりな女神はキレる。

「そういう悪い冗談はやめてって言っているでしょう! それで、今日はなに?」

「異世界のレザリムスでは、携帯電話のスマホとかタブレットでの、ネット接続や通話はできないんですよね?」

「基本そうなっているわよね……レザリムスの未来は、どうなるかわからないけれど」

「でも過去に一例だけ、レザリムスでスマホが普通に使えた例があった」


 コーヒーを飲んでいた転生の女神の手の動きがビタッと止まった、厳しい表情で聞き返す転生の女神。

「その話しどこから」

「ちょっと、小耳に挟んだモノで……真相を確かめたくて」

「あなた、何者? それ『西方地域』の悲惨な話よ……あたしも伝え聞いただけだけれど」

「ぜひ詳しく、お聞かせください」

「話してあげてもいいけれど……ライトな話じゃないわよ、そんな重いヘビーな話、聞きたい人いる?」

 ロヴンは、転生女神の肩越しに第四の壁を越えて読者の意見を聞く。

「悲惨で重い話でも、聞きたい人、手を挙げて……一人、二人、結構いますよ」

 不安そうな顔で振り返って背後を確認する、転生の女神。

「だから、そういうのやめてってさっきから言っているでしょう! 背筋が寒くなるから……この、話は西方地域で二国間の戦争が行われている戦場であった悲劇……闇の魔導士たちが、禁断の召喚術で【アチの世界】から、戦わせる目的で無差別に若者を強制召喚した悲劇」

 転生の女神は静かに語りはじめた。



 西方地域の、とある小国──積年に渡って、隣国との戦争を続けている国の城に、闇の魔導士たちが異世界〔現実世界〕から、無作為に強制召喚したメガネ男子高校生が連れてこられた。

 召喚者を消耗品としか見ていない『血脈王』が、魔導士たちが連れてきた別世界から召喚された者を見て言った。

「おまえが以前、魔導士たちが召喚した別世界の者が言っていた〝万能な魔具【スマホ】〟を使いこなす者か?」

 両手に板の手枷てかせをハメられた、気弱そうな男子高校生は無言で震えている。

 黒衣の魔導服を着たフードで顔を隠した魔導士の一人が、まるで罪人のような扱いの男子高校生を強制的にひざまずかせて、男子高校生の額を冷たい石の床に押しつけて言った。


「なにぶんにも、召喚したばかりの礼儀知らずで申しワケありません」

「よいよい、どうせアチの世界の野蛮な種族であろう……スマホは、どこにある?」

 別の魔導士が、血脈王の前に膳台に乗せたスマホを、うやうやしく差し出す。

 血脈王は膳台ぜんだいに乗った、四角い薄い物体を興味深そうに眺める。

「以前、アチの世界から召喚した者から奪ったスマホと多少、色と形が異なっているな……聞くところによると、スマホは万能だがレザリムスでは使えないと聞くぞ……今回の召喚では、スマホは使えるのか? 役に立たない者を召喚しても魔獣のエサにするしか使い道が無いぞ」

「その点は抜かりはありません」

 男子高校生の頭を床に押さえつけていた魔導士は、男子高校生の髪をつかんて血脈王の方に男子高校生の顔を向けさせた。


「ある邪神を呼び出して、この者と契約を結ばせました……〝繋がる者〟と呼ばれる別空間に巣くう邪神生物です」

 男子高校生の近くにシャボン玉のような、異空間に包まれた胎児のような体型にタツノオトシゴを融合させたような奇怪な生物が現れる。

 その目は鮮やかなコバルトブルー色をしていて、小さなヒレのようなモノを細かく動かして空中に浮かんでいた。

 口からは細い触手のようなモノが出ている。

 闇の魔導士が、男子高校生に無理矢理、契約を結ばせた〝繋がる者〟の説明をはじめる。

「繋がる者は、別空間を通して召喚した者がいたアチの世界と電なる波を中継してスマホを使えるようにします……わたくしたちも仕組みはよく分かりませんがアチの世界で〝いんたーねっと〟と呼ばれる魔導と〝でんわ〟と呼ばれる伝達方法が、魔具スマホを通してできるとか」

「うむっ、説明を聞いても今一つ、ピンッとこないな……その〝繋がる者〟は我々に危害を与えるようなコトはないのか?」

 血脈王は、シャボン玉のような別空間に入っている異生物を、薄気味悪そうに眺める。

「ご心配には及びません、繋がる者はスマホ中継の契約を結んだ召喚者から、対価として【毎日少しづつ命を削り奪うだけです】……奪った命の一部はスマホを動かすための 魔導の源充電に転換されます……実害があるのは、アチの世界から魔導召喚した……」

 魔導士たちは、男子高校生を強引に立たせる。

「この者にだけ」


 血脈王がさらに質問する。

「召喚者は裏切ったり、戦場から逃げ出したりはせんだろうな?」

「その点も抜かりはありません……魔導の爆発物を体に仕込んであります、命令に従わなかったり、逃げ出した時は爆発するようになっております」

 非道な闇の魔導士たちだった。闇の魔導士たちは報酬さえもらえれば、敵にも味方にもなる。

 闇の魔導士たちを、嫌悪していて唯一対抗できるのは、西方地域最強の美少女魔導師で魔導を極めた『ナックラ・ビィビィ』だけだった。


 魔導士は、さらに説明をつけ加える。

「さらに、召喚したスマホ使いが通話でアチの世界に居る者に【助けを求めて声を発せれば、その声を辿って繋ぐ者が、アチの世界に移動して、会話をした者にとり憑き……同じように命を吸い取り奪います】」

 血脈王は、男子高校生の手枷を魔導士たちに命じて外させ、男子高校生の手にスマホを持たせた。

「なんと、おぞましい異生物と契約を結ばせたモノだ……早速、スマホ使いを戦場の最前線に送りつけて、敵を倒してもらおう」

 こうして、スマホでゲーム内でしか戦ったコトがない男子高校生は、異世界でリアルに剣と剣がぶつかり合う戦場最前線へと送られた。

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