マオマオくん裏地球に回される

黒金のビスマスと団十郎さんとの運命的な出合い

 爽やかな朝だった──熱血キャラっぽい髪型の少年は、パジャマ姿で部屋の窓を開けると朝日の中、新鮮な早朝の大気を肺いっぱいに吸い込む。

「ふぅ……いよいよ、待ちに待った。ボクが巨大ロボットのパイロットになる日がやって来た」


 少年の父親は、ある世界平和組織の責任者で司令と呼ばれていた。少し厳格な雰囲気を周囲に漂わせて、部下から近寄りがたい存在の少年の父親。

 組織の者たちは「さぞかし、家でも息子と距離を置いている父親だろう」と思われていたが、家での実際の姿はまったく違っていた。


「ねぇ聞いてよぅ、部下のみんながボクを恐れて。ぜんぜん話しかけてきてくれないんだよぅ」

 家に一歩入るなり、妻の膝枕で甘えて愚痴をこぼすヒゲ面の中年親父だった。

 甘えん坊の夫の頭を撫でながら、妻がなだめる。

「よしよし、厳ちゃんは見た目が厳格だから、みんな一目置いているんですよ。げんちゃんは、やればできる子ですよ」

「本当に? ボクがんばる」


 そんなある日、また父親が泣きながら妻に助けを求めてきた。

「うぇ~ん、聞いて聞いて、みんながボクをいじめるんだ……『司令の息子さんだったら、巨大ロボットに乗るのは当然ですよねぇ』なんて冷ややかな目で見るんだ、まだ巨大ロボットは完成していないけれど……そろそろ、パイロットをオーディションで選出しないといけないんだよぅ」


 なんでも近いうちに司令の息子を本部に連れてきて。ロボットに搭乗する気持ちがあるかどうかのオーディションをする……という流れに話しが進んでしまったらしい。

「ボクどうしたらいいの?」

 妻の膝枕に頭を乗せて、床に『の』の字を指で描く夫の頭を妻は優しくナデナデする。


「悪い部下でちゅねぇ……あなたを困らせるなんて。これは、あの子に巨大ロボットを操縦する意志があるのか確認をしないと、部下のみなさんは納得しないみたいですねぇ……誰だって、自分の身内を巨大ロボットに搭乗するのは気が引けますから……その日は、あたしも本部にお邪魔して。

ロボットに乗る強い気持ちが息子にあるのか、確認しますよ……あの子が、人生の進路を決める大切な日ですから」

 妻の膝枕の上で訊ねる司令親父。

「そう言えば、あの子どんな部活していたっけ?」

「確か、手芸部だったような……ロボットに乗り込むのに、部活は関係ないでしょう……園芸部でも、占い研究会でも」

「そりゃあ、そうなんだけれど」 


 そして本部で、制作中の巨大ロボット──黒金くろがねのビスマスの搭乗者オーディションが開催され、最終審査の六人のうちの一人に当然のように司令の息子は残った──筋肉自慢の美形マッチョ。

 金髪でもりを持った南国の水着少女。

 白衣をまとった、ひ弱そうな化学オタク男、

 何も考えていなさそうな、体育会系の九州男児の柔道着男。

 ニヒルでキザな青い服の男。

 そして、手芸部に所属する司令の息子。


 柔道着男が、好物はカレーですと答えた後に、司令が息子に質問する。

「黒金のビスマスに搭乗して、得体が知れない敵と戦え」

 本部の者たちは、苦悩する少年や巨大ロボットへの搭乗を拒否する、父親との確執に気持ちが揺れ動き。

 葛藤かっとうする少年の姿を期待していた、ある者はスマホのレンズを向けて、決定的瞬間を撮影して投稿しようとしている。

 審査する所員の中には、女神のロヴンも紛れ込んでいた。

 だが、少年の口から発せられた言葉は、トコロテン並みにあっさりした言葉だった。


「うん、ロボットに乗ってもいいよ♪ 子供の時から憧れていたから」

 息子の言葉に反対に父親が動揺する。

「よく考えた方がいいぞ、ワケのわからない敵と戦わされるかも知れないんだぞ」

「大丈夫だって、父さんボクを『黒金のビスマス』に乗せてください!」

 困惑している父親に代わって、審査員の一人として同席している母親が息子に言った。

「一度しかない人生、ロボットの操縦者をやりたかったら、自己責任で思いきってやりなさい。建造物を壊しても本部がなんとかしてくれるから……途中で投げ出して、逃げちゃダメよ」


 さすが、この子にしてこの母親あり。少年の母親は子供の自主性を尊重する人だった。

 頭を抱えた父親は。

「ロボットの操縦者が手芸部…… ロボットの操縦者が手芸部」

 ブツブツと呟き続けていた。


 そして、黒金のビスマスが完成して、少年が正式にパイロット登録を行う日の朝が来た──朝食のハムエッグを食べ、オレンジジュースを飲み。

 トーストを一枚口にくわえた少年は、家を出て本部へ急ぎ足で向かった。

 今どき、口にトーストくわえて走っていく高校生いないだろう……そんな

読者の声が聞こえる中、角を曲がった少年は歩いてきた人物と衝突した。


「いってぇ、なんだよぅ……これから競馬場に向かうっていうのによ……ついてねぇ」

 少年がぶつかったのは、アロハシャツを着て、膝丈までのハーフパンツを穿き、ビーチサンダルと茶色の腹巻きをした中年男性だった。

 道路に転がった中年男性の手には競馬新聞が握られている──暁のビネガロンのパイロットの一人、国防の父親で遊び人の『茶釜ちゃがま団十郎』は、謝りもせずに走り去っていく少年に向かって怒鳴る。

「ちょっと待て!」


 少年を追って走っていく団十郎の後ろ姿を、眺めていたロヴンが第四の壁を越えで読者に話しかけてきた。

「茶釜団十郎は、数年前に妻と別れて息子の国防は、母親の方に引き取られ母方の名字『国防』を名乗っています……だから、親子でも名字が違うんですね……では、ストーリーの続きをどうぞ」


 少年は本部で完成した巨大ロボットを見上げる、黒いシンプルな機体のロボット『黒金ビスマス』太い腕はパワーがありそうだ。

 所員の一人が少年にマイクを渡して言った。

「これから、音声認証のパイロット登録を行います……それで、黒金のビスマスはあなたのモノです。今はビスマスは基本のパワーファイター・プロトタイプですが、その後のオプションで様々なタイプのロボットに変化します」

 所員の説明を聞いてうなづく少年。

(いよいよ、ボクが巨大ロボットのパイロットに……)

 少年が自分の名前をマイクに向かって告げて、音声登録しようとした、その時──警備員と争いながら入室してきた闖入者がいた。

 

「こんなところにいやがったか! このクソガキ!」

 警備員の腕を振り払って少年に近づく、茶釜団十郎。

「おっ、なんでぇ? この黒い巨大ロボットは? 人にぶつかっておいて謝りもせずに自分は、のんきにカラオケかぁ! そのマイクこっちによこせ!」

「あっ?」

 強引にマイクを少年の手から奪った団十郎は、慌てる所員を無視してマイクに向かってしゃべる。

「あーっ、あーっ、テスト、テスト、オレは茶釜団十郎! これから歌うぜ!」

 アカペラで熱唱する団十郎。団十郎が歌い終わるとビスマスの両目が点滅して、人工知能の声がビスマスから聞こえてきた。

《茶釜団十郎……パイロット登録完了しました……オプションを希望しますか? 剣でも銃でも光線技でも、甲冑オプションで装甲強化も可能です》

 手に持っていたマイクを放り投げて、団十郎が言った。

「剣とか銃だぁ? バカ野郎! 男だったら拳で語れ、装甲? しゃらくせぇ! オレの若い時は応援団長とか番長の長ランが熱い心の鎧だ! 長ランとバンカラ帽子で十分だ! それで鉄ゲタ履けば完璧な男だぜ! 男だったら返事は押忍おっすだ」

《了解しました……拳で語ります……お、押忍》


 こうして、黒金ビスマスは、茶釜団十郎の所有物になり。

 ロボットのパイロットになる夢を打ち砕かれた、手芸部の少年は白抜き点目で放心した。

「ボクの……ボクが操縦するはずだった、巨大ロボットが……」

 魂が口から出かかっている少年を眺めていた、ロヴンが振り返って言った。

「世の中は、アクシデントと想定外の連続です」



黒金のビスマスと団十郎さんとの運命的な出合い

~おわり~

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