異界大陸国レザリムス

博士と助手の会話

 とある私設研究所で、他人が発表した論文をインターネットで読んでいた博士が、機械を組み立ている助手に訊ねた。

「助手、君は異世界の存在を信じるかね?」

「なんですか博士、いきなり」

「いやぁ、この研究所に来る途中に、おしゃれな外装の創作料理店があるだろう」

「あの【毒森メニューがない無愛想な創作料理店】って変わった名前の店ですか。前に一度だけ入ったコトありますけれど……壁に得体が知れない生物の乾物があったり、赤い髪の少し怖い感じの女子生徒シェフがいる店ですよね」

「うむっ、わたしは常連客でちょくちょく食べに行くのだが……その店で親しくなった美形の男性シェフから教えてもらった」

「何をです?」

「我々がいる世界は【アチの世界】と、呼ばれていて、別世界で【コチの世界】と呼ばれる異世界が存在しているらしい」

「コチの世界?」

「正式名称は【異界大陸国レザリムス】と、いうらしいのだがな……その異世界の住人は、我々の世界と自由に往復できるらしい」

「異世界の人が来ているんですか?」

「それなりの縛りはあるらしいがな……我々もコチの世界に行くコトは可能らしい、こちらの世界から繋がる通路を通れば行けるのだが……コチの世界から、アチの世界の住人は帰っては来れないらしい」

「ずいぶんと不公平な話しですね、異世界の者は自由に行き来できるのに、こっちの世界の者は一方通行だなんて……帰ってこれない理由があるんですか?」


「ウ●コになっちゃうんだよ」

「はぇ?」

「コチの世界側の入り口というか出口は、巨人の口になっていてな……コチの世界から行った人間は、巨人の口に入ってもどってくる時には……最後はウ●コになって消えちゃうんだよ」

「うぎゃ」


「そこでわたしは考えた……宇宙服とか潜水服のような密閉式のモノを着ていたら、無事に帰ってこれるのではないのかと……そのコトを実証してみようと思う」

「ボクは嫌ですよ! ウ●コになりたくありません!」

「心配しなくていい、実証はわたしがやる。異世界に通じる洞窟はすでに見つけてある」


 次の日、博士と助手は町の外れにある、立ち入り禁止のロープが張られた洞窟の前に来ていた。

 車から降りた博士は、潜水服に着替えて洞窟の入り口を眺めながら言った。

「ここが異世界への入り口だ」

 潜水服に取りつけられた位置情報を示す、GPSのスイッチを入れて正常に作動しているを確認した博士は、ロープをくぐって洞窟内に足を踏み入れる。

「それじゃあ行ってくるから、だいたい三日の予定で帰ってくる……異世界に入ったら位置情報は途絶えるから、GPS信号をキャッチしたら迎えに来てくれ」

 そう助手に言い残して洞窟に消えた博士の位置情報は、二十分ほどで途絶えた。


 三日後──博士からの位置情報反応を受けて、洞窟に急行した助手がいくら入り口で待っていても、博士は現れる気配はなかった。

(GPSは同じ場所を示し続けている? 博士の身に何か?)


 助手は洞窟内を、ライトで照らしながら帰ってきているはずの博士を探しに向かった。

 洞窟を三十メートルほど入った場所に、潜水服を着てうつ伏せで倒れている博士の姿がライトの光りの中に浮かんぶ。

「博士!」

 駆け寄った助手は博士が、かぶっていた潜水ヘルメットを外して悲鳴を発した。


「うわあぁぁぁぁぁ!」

 ヘルメットの中から現れたのは、元博士だった残骸のウ●コだった。

 潜水服の中は博士の代わりに、ウ●コが詰まっていた。

 冷静さを取りもどした助手は、博士のウ●コ顔の中から覗く小さな黄色い粒を見て。

「博士、異世界でトウモロコシ食べたな」

 そう思った。


 洞窟の入り口に立っていたロヴンが、読者の方に振り返って言った。

「怖いですねぇ、恐ろしいですねぇ……異世界に行ったらウ●コになっちゃいますよ、みなさんも異世界に行く時はご用心を……ちゃんと、ナビゲートしましたからね」



  ~おわり~

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