【仮】

ソバカスの手は止まっていた。

引き金一つでも引けばそれで俺を殺せる筈なのに。

雑魚の癖に俺を嬲るつもりか?気色の悪い奴だなオイ。

そんな事を考えていたが、奴の視線はどうやら俺には向けられていなかった。


「……あ?」


奴の顔は呆然と前の方を向いていた。

壁に縋る俺は下に居て、奴の視線は俺の上。

俺を狙っている筈の拳銃は次第に俺から離していく。

そしてブルブルと手を震わせて、奴の手首が一回転した。


「うお」


そのまま拳銃を落とすソバカス。

ボキと音を鳴らして、手首の関節が外れちまったんだろう。

何を一人でパントマイム紛いな事をしてやがる。

なんて言いたかったが、態々自分の手を痛めてまでする事じゃねぇ。


俺は、ソバカスを観察していた。

奴の眼は開いている。

口は蛸の様に尖らせてやがる。

よく見れば、奴の頬には手で抑えている様な影が見えた。

そして、その影はソバカスの手首にも絡み付いている。


「なんだ、こりゃ……」


痛みすら忘れて、俺はその光景を見ている。

するとデブがソバカスの様子を案じて近づいた。


「おい、大丈夫か?」


そう言って近づいた時だった。

ソバカスの首元に、影が映った。

その影は、子供の手の様なかたちをしていて。

ソバカスの首に手首の影が食い込むと。

奴の汚らしい茶色の後頭部が俺の前に移る。


「ひぃッ!?」


デブが恐怖に顔を歪ませた。

ソバカスは唐突に、その首を百八十度回転させやがった。


「なんだ、これはッ」


そしてそのまま、ソバカスは地面へと倒れた。

首元はねじれていた。

百八十度曲がっていたと思っていたが、違う。

ソバカスの首は一回転半も首を回していた。

だから、首元の皮膚は破けて血が溢れ出ている。

ドクドクと、血が流れて。


「あははははは」


……子供の笑い声が聞こえて来る。

ソバカスの体は、ずるずると引き摺られて、血の跡を作りながら部屋の奥の暗闇へと飲み込まれた。


骨が砕ける音、皮膚が破ける音、肉を潰される音、内臓が爆ぜる音。

手首が転がる、皮膚の一部が飛び散る。眼球が飛んで、開かれた瞳孔が俺を覗いていた。


「……冗談じゃ、ねぇぞ」


俺は腕を抑えながら立ち上がり、呆然としている二人の隙間を掻い潜る様に走る。

神社から飛び出て、俺が向かう先は車だった。


「まて」

「おい、待て」

「待てッ!八峡ッ!!」


すぐに我に返った眼鏡がそう叫んで俺の後を追う。

ざけんな。

今、これがどういう状況なのか理解出来てんのか?

超常現象だ。しかも、霊障に該当する様な、ヤバい奴だ。

あんな神社の中に居たら、確実に死ぬに決まってんだろうが。




「」

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禍憑姫の祓ヰ師 三流木青二斎無一門 @itisyou

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