作者の実際に体験した怖い話

軽井 空気

侵入者

 これは私がまだ体を壊す前。障害者ではあるものの正社員で残業バリバリこなしていたころの話です。


 私は極度の不眠症であり睡眠導入剤を飲んでいても夜中に目が覚めてしまうことが度々あります。

 私は母が中古で購入した集合住宅のテラスハウス型の家に住んでいます。そして、私の寝室は一階の玄関の傍にある6畳の和室で寝ています。

 私の家はちょうど角部屋で隣の棟との間に隙間があり、私の部屋はその隙間に面しています。


 引っ越してきてから日にちが経っていたある日の晩。

 ガサッ!

 と、庭の雑草を踏む足音が聞こえてきました。

 近所には野良猫が住み付いているのですが、そのような足音ではありません。

 雑草をかき分けるとかではなく、背の高いモノが雑草を踏み潰したようなそんな足音でした。

 不安になった私は外に出て不審者がいないか確かめに行きました。

 しかし、夏の盛りで腰ほどに伸びた雑草の中を歩いて踏み荒らした形跡はありませんでした。

 その日の晩はそのまま寝なおすことが出来ました。


 ですが、時々部屋の外、庭に誰かが居るような気配を昼夜問わず感じるようになりました。


 そんなこんなで一年ぐらいが経った頃でしょうか。

 また夏の蒸し暑い日でした。

 ふと夜中に目が覚めました。時間は確認できませんでしたが夜中の2時か3時くらいの感覚でしょうか。部屋の外に人の気配を感じました。

 しかし、今度は庭では無く家の中なのです。

 先にも述べた通り私の部屋は玄関そばです。

 向かいにはトイレがあり、その間をリビングへ向かう廊下があるという感じです。

 その廊下で――――キシッ――――という音が鳴りました。

 家族はもう寝静まってるはずの時間。

 家族は2階に寝室がありトイレも二階にありました。

 だから一階に降りてきて部屋の前に立つはずがありません。

 私は不穏な空気を感じて部屋を出て鍵がかかっているか確認しようと身を起こそうとしました。

 しかし金縛りにあって体が動かなかったのです。

「あっ、これはヤバイ。」そう思い目をつぶろうとするのですが目がつぶれません。

 そうしてるうちに、横向きで寝ていた私の目の前で障子がひとりでに―――スッススッ―――と開いていきました。

 足は見えませんでした。

 ただそこに背の高いナニモノかの気配を感じるばかりです。

 襖は半分ぐらい開いたところでしょうか。

 そのナニモノかが部屋にゆっくり入ってきたのです。


 私の部屋はお世辞にもキレイとは言えない部屋でした。

 着たきり雀で洗った洗濯物は山にして毎日同じものを着ている。

 本の虫で部屋の四方に本が山積みになているというありさまでした。

 しかし、そのナニモノかはそれらを踏み荒らすことなく部屋の中にゆっくりと入ってきた。

 そしてそのナニモノかは、ゆっくり、ゆっくりと私の枕元までやってきました。


『なにこいつ、ヤダヤダ怖い怖い』


 そう思いながら必死に目を閉じようとしても閉じられなくて、心臓がバクバクと音を立てていました。

 ナニモノかは「じ――――――――――――――」と私の顔を覗き込んできてるのが気配で分かります。

 少しづつ、少しづつナニモノかは顔を近付けてくる。

 その気配は暗く冷たいもので、背筋がゾクゾクしてきました。

 2分か3分でしたでしょうか。そのナニモノかが私を覗き込んでいたのは。

 ナニモノかはゆっくりと立ち上がると「ふらりふらり」と部屋の奥に消えていきました。


 しばらくしてナニモノかが立ち去ったのだと気が付いた私が起き上がろうとすると―――――





 ガッシィーと肩を掴まれて背中側に引っ張られたのでした。


 いきなりのことでもう無我夢中でその手を払いのけたら今度こそナニモノか気配は部屋に残っていませんでした。

 それから私はお守り代わりに模造刀(へし切長谷部)を抱いて九字を斬って寝ました。


 後日、休みの日に奈良県天理市にある石上神宮にお参りに行って魔よけの鈴を購入して、部屋の入り口にかけたあるタペストリーの留め具に吊るしました。

 それ以来、部屋に侵入するものも部屋の外を徘徊する気配もありません。


 あのナニモノかは何をしようとしたのでしょうか。

 私のもとから去り、今は何処に行ったのでしょうか。

 もしかしたらあなたの家にも侵入してくるかも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

作者の実際に体験した怖い話 軽井 空気 @airiiolove

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ