吉日
古川ザジ
行きたい所へ行こう
休職する一週間前、奈良県の玉置神社へ足を運んだ。
七夕の今日、例年通りの空模様。仮眠時間など確保されていない十六時間拘束の夜勤明けの私の頭と同様、すっきりとしない曇り空である。帰宅後シャワーを浴びて一時間程度の仮眠をとり、無印良品で購入した黒色のキャリーケースへ一泊分の衣服や整容品、最低限のものを詰め込む。財布やスマホといった必需品、眠気覚ましのドリンクや水分は、十分に余裕のあるサイズのリュックサックへ放り込んだ。予約した宿先で読めたらと先日京都で手に入れたヴィクトル・E・フランクル著「夜と霧」も忍び込ませる。簡単に身支度をした後、車に乗り込み奈良県十津川村へと向かう。車載のナビゲーションでは四時間程で到着予定となっている。運転免許を取得して十年あまり。毛嫌いしていた高速道路を使用し無心で車を走らせる。越境後しばらくして現在地を示すナビゲーションの矢印が音を立てくるくると回りだす。これが「呼ばれないと辿り着けない」として有名な玉置神社たる所以かと感じたが断念し引き返すつもりはない。本日中に辿り着けなければ参拝は翌日に繰り越す考えであったため、最寄りのパーキングエリアへ入り停車する。トイレ休憩を終えエンジンをかけるとナビゲーションが正常に戻作動したことを確認し再び旅路へと戻る。
その後トラブルもなく、荘厳な山々がひしめく十津川村に入った。時刻を確認すると十五時半となっていたため、参拝は翌日とし宿泊先へと向かう。山間部には雨雲が留まり天候は悪く、雨が降り続いていた。道中の電子案内板には「ダム放流中」の文字が繰り返し表示され、道沿いの大きな河川では茶色く濁った水が音を立てうねりながら流れていく。一方河川の反対側に生い茂る木々は雨水の重みによって頭を垂れ、その足元から流々と道路へと広がり、それに乗じてだろう鋭角な大小の岩がごろごろと傍に落ちている。道すがらいくつも目にしていた「土砂崩れ注意」の標識を思い返す。実際、車の走行に影響はなかったものの、土砂崩れに巻き込まれ河川へ押し流される想像に足る村道を通るには恐怖心を煽られた。しかし警戒すべきは土砂崩れだけではないと、途中みた急カーブ傍の電信柱に正面衝突していたトラックや前輪のタイヤがおかしな方向に曲がり路上停車している自家用車がそれを物語っていた。思い切りは良いが小心者の私は前のめりになってハンドルにしがみつきながら、曲がりくねった道をひた走る。すっかり日が暮れた。
吉日 古川ザジ @z_furukawa_13
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