黒百合と鳥兜

ゲン人

黒百合の花言葉【深い愛情と□□】


【『始まりなんてあってない様な物だ』


あなた方はドレにもコレにも【始まり】【終わり】【理由】を付けたがる。


それは理解出来ない物を、必死に理解しようとしている『人』の足掻きなのではないでしょうか?


そう、ふと思ったのです。

....

.........《鉄格子》著・鳥竹 兜



最近ある小説が人気だ、ホラーの鬼才である鳥竹兜の《鉄格子》である。


鳥竹氏は19歳で賽の河原文庫の新人大賞を受賞、瞬く間にホラー作家としての地位を築き上げた。


だが!鳥竹氏について深く知る人物はいない。なぜなら新人大賞祝賀会にも参加せず、素性がバレる様な行動は一切取らないからだ!


まぁ皆さんご存知だろう。しかしなぜこんな今更な話をしたかと言うと、【その鳥竹氏が死んだ】と噂されているからだ!


なぜそんな噂が流れたか?それは《鉄格子》の発売日が1年も遅れた事にある。


鳥竹氏は必ず10ヶ月ごとに新作を発表していたのに、今回の《鉄格子》に限っては出版社からの催促を無視して1年も発売を遅らせた。


なので、『実は鳥竹氏は死んでいて、別人が文を書き足し本を出版したのでは?』との噂が立てられた訳だ。


本誌では真相を探るべく、鳥竹氏の痕跡を探ろうと思う!!】


俺は、そこまで読んで【週刊クローユリ】をコンビニの陳列棚に戻した。


「ちっ。俺はバレンタインチョコ10個獲得計画遂行の為、クロユリの《今月女子に人気の髪型!》が見たかったのによ」


思わずぶつくさ呟いてしまう、最近どうにも上手くいかない。


「そんな事言うなよぉ〜!特番よ特番!シャーなしシャーなしだよ時相(笑」


煽り腐った声が聞こえて来やがる、煽りの佐倉に改名させてやりたいなコイツ。


「はい、オカルト好き静かに!その特番様のせいでモテ髪コーナー潰れたんだぞ!バレンタインは戦争なんだ!」


有り余る激情を込め佐倉を睨み付ける、さながら今の俺は虎!いや、不動明王を名乗れるのではないだ、、、?佐倉が笑った?


「ほらほら、そんなカバみたいな顔せんと。サッサお家帰ろな!チョコも、私からの一つじゃ不満かな?(ニコリ」


、、、彼女目の前にして話す計画じゃなかったな。顔が不動明王だ。


「、、OK。とりま家まで送るよ」


時計を見れば9時を回る頃、サークル終わりとはいえ長居しすぎたみたいだ。佐倉も一応女だし、送ってやるのが男の責務だろう。


「あ、、ありがとうなぁ。嬉しいわ///」


若干顔赤らめているが、、それは良いか。


「ほれ行くぞ〜!」


いつまでもモジモジしている佐倉の腕を掴み、引っ張る様にして帰路につく。


いつも通りの畑道、コンビニはさっきのが町唯一の物。不便ではあるが悪くはない、どこか寂しくてけど自然に近いこの町が俺は嫌いじゃない。


今は俺しか住んでいない見た目は綺麗な家を通り過ぎれば、すぐ目の前に佐倉の家が見える。


佐倉の家は精肉店なので、幼少期からお世話になったものだ。今は佐倉の両親がちょいと出かけている為、店は休業しているが。


「ほれ、荷物置いて行くから。先行ってろよ」


「はいな!今日は夜更かしして、明日は大学サボって廃墟探検ね!(笑」


が、俺たちお決まりの会話。今日もコレで終わる、、、、、はずだった。


『・・・・・・』


声が、した。


『・・・・!!、、、・・・〜〜!!!!」


声が、聞こえるのだ。


どこからと言えばちょうど目の前にある【俺の家から】


断言できる、今家には誰もいない。


最近毎日こうだ、必死に取り繕っているが。精神に異常をきたしつつあるのは事実。


始まりなんて分からない、いつからか『声に付き纏われている』


いつも耐えられていた、けどなんでだろうな。今日俺の精神の安定は崩れた。


「また、声が【た】ぁ?あぁ【す】ぁぁ【け】ぁぁ【て】ぁぁ!!」


今もハッキリ聞こえた。


「たすけて」ってな。


ただ声が聞こえただけだと言うのに、酷く怯えてしまっている自分がいる。だが四六時中『声』に追い回されていたから、それも仕方ないと思ってもらいたい。


近くに居たはずの佐倉の姿も、今は家の中へ入ったのかかき消えている。


俺は、みっともなく恐怖に怯えて叫んだ。


「佐倉!来てくれよ!聞こえないの《わ》かぁ《たしは》え?《あ》さ《な》ぁぁくら?《たの中にいるから》」


不思議だよな、佐倉を呼んだら俺の内側から返事が返ってきたんだから。


自分の内から湧き上がるのは、溺れる程深くそして場違いさを持った優しい狂気の『声』


俺の家から聞こえるのは、恐怖に怯え助けを求める悲痛な『声』


二つの『声』を聴いてしまった俺は、必死に考えないようにしていたこの『声』について考えてしまう。


果たして、誰の声なのかと。


あぁ、間違えようがない。


家から聞こえるのは。


男の、、、、俺の声だアレは。


囚われた俺の心が、助けを求めているんだ。


そして、自分の内から響いた『声』


コレは、佐倉の声、、。


いや、、、違うな。


【佐倉】はもういない、死んだ。今自分の内から湧き上がるのは【サクラ】の声だ。


佐倉は彼女じゃない、親が俺の為に殺したストーカーだ。


俺は、ストーキングにどうしても耐えれなくて。やめて貰おうと家に行って、断られて、佐倉が精肉店から持ち出したチェーンソー片手に追いかけて来て。


家に逃げ込んだ俺を見た両親は、俺を守ろうとして。親父はゴルフクラブで、母さんは包丁を持って佐倉に襲いかかり、殺した。


両親は逮捕され、俺は家に一人、、、のはずだったが。


その日から、サクラは俺とずっと一緒。


朝 昼 晩 学校 トイレ 飯 風呂 旅行 登下校 ランニング サークル ベット タンスの中 階段 廊下 天井天井裏表裏表裏おもぉてぇぇにまでどこにでもついてきてどこにでもいてほらわたしはいつでも時相といっしょだから。今の私の家は時相の家だから。


最初に時相が気になったのは大学で私がいじめられてて、トイレでスクールカースト上位の女子達になぶられてた時。


当時から私は鳥竹兜の名前で小説を書いていて。締め切りに間に合わせる為、大学でも休み時間などで執筆をしていた。


それを、大学の女王に見られて笑い者にされたのだ。


そこで我慢すれば良かったが、私は言い返してしまった。自分の作品を馬鹿にされて耐えられる作家がいる?


そこからはイジメの日々だ、彼が現れたのはそんなイジメの最中。


突然彼は女子トイレに乱入して、困惑するイジメっ子達を尻目に私に向けて一言。


「おいオカ女、今日ダチ休んでて飯食う奴いねぇんだよ俺w。面かせー」


とてつもない棒読みで、物凄い平坦な口調と表情で。


時相は友達が多い。他に飯食う人なんて幾人もいたはず、けど彼は私を選んでくれた。


女子達は私に絡まなくなり、私は時相に恋をした。


どうしたら時相に喜んで貰えるか、一生懸命考えて。とりあえず毎日一緒に帰ることにした。


時相に大学外で話しかけるのは恥ずかしいから、もちろん帰りは無言。だけど私はとても幸せだった。


その過程で時相の家も知った、なんとお隣の綺麗なお家が時相の家だったのだ!運命を感じた。私がイジメられてる影響でいつも下を向いて歩いていたのが恨めしい。


そのせいで時相の家に、時相の存在に気づかなかったなんて。とても口惜しい気持ちで一杯になって、寂しくて、悲しくて。


その日、時相の家にお邪魔した。


時相はとても驚いた顔してて。


「オカ女?、、お前どうやって入った!!」


とても嬉しそうに語尾を弾ませてくれたの!!私も嬉しくてつい口角が上がってしまったわ。


その時、時相はだんだん顔から表情と色が抜けていって。


「帰れよ」


ポツリと呟いて、その後逃げるように自室に走り込んで鍵を閉めてしまった。


それで次の日、時相が青い顔で家に遊びに来てくれて。


「二度と俺に付き纏わないてくれ。お前になんて、関わるんじゃなかった」


私が「あなたと生きたい」と言うと、たちまち時相は顔を歪ませ私から逃げるように走り出した。


その時『今の時相は苦しんでいる、悪い部分を切り取って助けなきゃ』私はそう思ってチェーンソーを手に取り時相を追いかける事にしたのだ。


途中お義父さんお母さんに会って、色々怒られて自分の行いが恥ずかしくなった。


けれどやっぱり私は悲しくて、それから毎日時相の家に遊びに行った。


ドアを【コンコン】て叩いてね?【コンコン】て叩くの。それでコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンココンコンノンこんこんこんこんて聞こえんだ!!!


毎日毎日【サクラ】がやって来やがる、家の鍵は開けられて。いつもいつも俺の部屋のドアを叩き続けやがる。怖くて怖くて怖くてこんこんこんこんいやだぁぁぁぁぁぁ!!!


「おやがころしたのに おわったのに これでもうおわれ おわれ おわってください おねがいします だいすきだから あいしてるから もうさからわないから いっしょにいるいっしょ 【私達はいっしょだよ?】」


今、時相は私を愛してくれている。物凄い嬉しいことではあるが一つだけ恨んでる事がある。時相のお義父さんお母さんのせいで、小説の執筆が出来なくなった事だ。



さぁ、私を殺した責任を取って。私が生きて書けなかった分、時相は私と書かなければいけないと思うの。あなたが書く限り、私はあなたを幸せにしてあげるから。


「あぁ、分かってるよ佐倉」


好きだった、ずっと好きだったの。


「知ってる、俺も好きだよ」


二度と、私以外の女を見ないでね?


私の心はあなたにある。あなたの心も私にある。


【クローユリ】の略語【クロユリ】、私にピッタリの言葉ね。さっき、そこだけは妙に嬉しかったよ。


「すまなかった、俺はお前を愛してる。サクラも俺を愛してる」


「そーだよ!アタシ時相の事ずっと好きだから!」


そう言って笑う彼女、なんて綺麗なんだろうか。今は彼女の姿がハッキリ見える。


恥ずかしい限りだ。こんな可愛い彼女がいるのにバレンタインチョコ10個獲得とか馬鹿な事しようとするなんてな。


俺は、生涯を持って彼女を幸せにするんだ。


そう、俺達はそれを望んでいるんだからね。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

黒百合と鳥兜 ゲン人 @gangu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ