外見
みふい
第1話 外見
床が冷たい。体温で暖められているはずだが、一向に床が暖かくなる気配はない。
自分はどういう表情をしているのだろう。
きっと死んでいるように見えるに違いない。いや、見る人もいないか。
どうして自分はこんな所にいるんだろうか。
自分はなにか冷たいところに閉じ込められる事でもやったのか。いや、やってない。
自分はいつも駅の外にあるベンチに座っていた。お気に入りは出入口から3個目のベンチだ。近くに木があり程々に日が差している。
入口から出ていく人々を見つめていく。
学生。サラリーマン。主婦。老人。
顔を見つめる。表情がある。
……羨ましい。
喜怒哀楽はどこに忘れてきたのだろう。
いつからこのような状況になったんだろう。昔に思いを馳せる。
今よりは幸せだったのだろう。決して裕福ではなかったが、食があり寝床があった。
自分はいつも『タマ』と呼ばれていた。
『タマ、おはよう』と言ってくれた。
『タマ、おやすみ』も言ってくれた。
何も考えずに遊んでいた。
楽しかった、本当に。
しかしある日、捨てられた。
何がいけなかったのだろう。
その日はいつもは出ないであろう、ご馳走が出た。
食べ終わると抱き抱えられて外に出た。
車に乗せられて、どこか遠くに行った。
橋の下に降ろされて呆然としている自分を横目に車は去っていった。
まだ子供で何があったのか理解できなかった。川の音がとても怖かったが、この場から動こうとは思えなかった。そのまま地面に横になった。
次の日から盗みを働いた。
生きるためだ仕方ない。
弱そうな老婆から買い物袋を奪い取ると、袋の中には今夜のおかずとなる予定だったであろう練り物類が入っていた。
橋の下に戻り全部食べた。
とても美味しくて、涙が出た。
3日食べ物が無い日が続いたこともあった。
雨の日が続いて風邪をひいたこともあった。
怖い人に追いかけられたこともあった。
それでも、何年かすると慣れてきた。
駅のベンチという住処もできた。
昨日は、曇り空だった。
いつものようにベンチに座って通行人を見つめていた。全員自分に気が付かないようだ。
『ニャーゴ』と鳴いた。
突然、少女がこちらに来た。
『これあげる』
手には黄色い風船が握られていた。
食べ物ではなかった。
その瞬間何故か急に怒りが芽生えた。
食えないゴミを押し付けんな。
ふざけるな。
少女の腕を噛んだ。
顔が歪む。
それを見た周りにいた人々が押し寄せてくる。
蹴られる。殴られる。
痛い。
なんで、どうして。
猫は可愛がられるものじゃないか。
*
『小さな子供を噛み、怪我をさせたとして墨田区在住の職業不明
外見 みふい @oxo__oxo
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