禍の運び屋

 私はここ数日、食物を求めて動き回っている。

 疲れが少なからず出てきているようで、休憩の頻度が増えている。

 それでも今は十分栄養が必要なのだ。

 どんな危険があっても、行かなければならない

 

 そう、奴らの目を盗んで、盗み出すのだ。

 私は行動を一度停止して、心を静める。

 そして、音を立てぬように隠密行動。

 順調、順調。確実にターゲットとの距離を詰めていく。

「ふぅ……」

 細い息を吐いて集中する。

 後は全速力でそれに接触、無事に帰還するだけだ。

 そう思っていた。

 しかし、私の考えは甘かった。

 突然奴らの動きが俊敏になった。

 原因はすぐに分かった。


「まさか……」

 そう、私と同じ目的の仲間だ。

 一応、仲間だからあまり悪くは言えないのだが、それにしたってタイミングが悪すぎる。

 この作戦の失敗は死を意味する。

 奴らからは逃げきれない。

 万が一、追跡を逃れられたとしても、後に待つのは別の敵に喰われるか、飢え死にだ。

 正にハイリスクローリターン。

 

 当然実行する意味はあるが、明らかにデメリットの方が大きい。

 それでも私たちがそれを敢行するのは、実質的な義務が生じているからだ。

 そんなことを考えながら、固唾を飲んで見ていると、その瞬間は訪れた。


「ぎゃあぁぁ!」

 目の前で仲間が死んだというのに、私は冷静だった。

 今なら奴らも油断していると。

 そう思った矢先、奴らは新たな行動に出た。

 なんと毒ガスを撒き始めた。

 自殺するのかと思いきや、奴らに効果は無い。

 つまり、私たちを殺すために作り出された、都合の良い殺戮兵器ということか。

 意識を失いそうになるが、なんとか堪えて好機を待つ。

 奴らが隙を見せるその時まで。

 飽きるほど待って、遂にその時はやってきた。

 

 奴らが眠りについた今なら、危険は大幅に軽減される。

 私は迷うことなく飛び出し、先の危険地帯を避けて進む。

 目的のものはもうすぐそこだ。

「よし……」

 それを手に入れ、私はすぐに帰還を試みる。


「……!」

 まずい。意識が飛びそうだ。

 一体どうして。毒ガスは避けた筈。

 ここで漸く私は大きな誤算に気が付いた。

 そう、奴らの側にも兵器は潜んでいたのだ。

 私は地面に伏せる。もう殆ど動けない。

 もう自分だけの身体ではないのに。


「ああぁ……」

 薄れゆく意識の中で私は奇妙な幻を見た。

 豚と渦巻き状の物体が並んでいる光景だ。

 そして私に振り降ろされる奴らの鉄槌。きっと真紅が飛び散ることだろう。

 それも奴らのが混じった汚れた物だ。

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侵略者 四季島 佐倉 @conversation

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