あゝ我が愛しのアーノルド
砂漠の使徒
アーノルドへ
「あゝ、我が愛しのアーノルド。どうしてあなたはいつもそうなの。あのときだって、そうだったじゃない。あれは三年前、私がお庭の井戸で水を汲んでいたときだったわ。あなたが突然私に声をかけたの。それはもう驚いたわ。だって、お屋敷には私一人しかいないはずだもの。なのにあなたはどこからかこのお屋敷の厳重な門を潜り抜けてきていたの。なぜ? 私はとても気になったわ。恐怖心なんてこれっぽちもなかった。それよりも、ただあなたがそこにいる理由を知りたかったわ。お金目当て? それとも、私目当て? それは今になってはわからないわ。だって、あなたは……。いけないわ。こんな暗い話をしたいんじゃないの。私はアーノルドとの出会いを回想しているだけ。ええ、あのときのあなたはとてもきずだらけだったわ。心も体も。私が体についている泥を払うと、とても不思議そうな顔をしたわよね。あの顔を今でも思い出すわ。あなたがそんな顔をしたのはあれっきり。その後は、私と打ち解けて寝食を共にしたわね。朝起きると、私がご飯を作ったわね。途中から、あなたも作るようになって。今だから言うけれど、あなたの料理っておいしくないわ。でも、それも思い出。ああ、思い出と言えば。お屋敷の図書館のこと、覚えてる? あなたがこの部屋はなんだと言って、ほこりまみれの部屋に入ったときは、驚きましたわ。私、本を読んだことがなくって、その部屋は単なるものおきだと思ってましたの。いざそこに入ると、大量の本棚がありましたね。あなたは文字が読めないからって、私に読ませるんですもの。私だって、簡単な単語しか知らないわ。苦労したのよ。中でも、あなたが一番興味を持ったのが、ここの家系図ね。私が産まれる前には、たくさんのご先祖様がいたわね。みんな、偉そうな名前で面白かったわ。そして、家系図をたどっていって、一番上。私はなんとも思わなかったけれど、あなたはこういったわね。これは自分の名前だって。偶然っておもしろいわよね。でも、あなたはなぜか震え出したわ。どうして? そんなに怖いことかしら。その日はもう寝るように言ったわ。次の日には治ってると思った。それなのに、あなたは。わけがわからないわ。私たち、うまくいっていたじゃない。あれがいけなかったの。あの日を境に、あなたは前のように、私とお茶を飲んでくれなくなったわ。あれさえなければ。私は憎くてたまらなかったわ。だから、火をつけた。それは、もう、よく燃えたわ。きれい。そこら中にあった蜘蛛の巣もさっぱりしたわ。私はあなたと出会ったお庭で深紅に染まるお屋敷を眺めたわ。すっきりした。でも、どうして。この空のように、私の心は曇っているわ。どうしてなの。すべて、あなたのせいよ。あゝ、我が愛しのアーノルド」
あゝ我が愛しのアーノルド 砂漠の使徒 @461kuma
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