第100話 ルール違反

 ティターニアたちと分かれてから、デュラハンに乗った俺たちは軽快に歩みを進めていた。


「世の中~義理も人情もない~、そうさ~ボク~らは~嫌われものブル~ス~WOWOW~」

「しゃしゃしゃ~しゃうしゃう~」

「ウキキウキ~ウキウキ~」

「変な歌うたうな。他が真似するだろ」


 先程の一件があり若干やさぐれモードのプラム達は、演歌調の歌を歌う。一体どこでその握り拳を覚えてきたのか。

 まぁ面と向かって仲間はずれにされたわけだから仕方なくもないが。


「んだよあいつら、せっかくボクらが慈悲の心で仲間にしてやるって言ったのに」

「完全に仲間に入れてもらう側だったけどな」

「あ~ムカつく、ボクは人間という種が大嫌いだ。根絶やしにされるべき存在ではないか?」

「急にラスボスみたいなこと言い出したなこの饅頭。まぁこっちはわりと親切にしてるつもりなんだがな」


 悪魔が仲間にいるというだけで爪弾きにされてしまうのは悲しいことだ。

 今のところはこちらが差別されても抑えているが、魔族側ばかりに我慢を強いるのもよくない。

 何か良い解決方法があればいいんだが……。そんなことを考えていると急にデュラハンが傾き、姿勢を制御できなくなる。


「「わわわわ!」」


 鈍い金属音をたてて前のめりに倒れ、全員デュラハンから放り出されてしまった。


「いてて、なにかに躓いたか?」

「しゃしゃっ(足折れてる)」


 サメちゃんとデュラハンの左足を見ると、関節部の留め金が外れ足甲と脛甲が分離してしまっていた。


「あーあ、足首もげてら」

「なんだユーリ、もう壊れたのか」

「もうっていうか、最初からちょっと左に傾いてんなとは思ってたんだ。あと重量オーバーもあったかも」


 俺を除いて重量のある水着姿のホムラとリーフィアを見やる。


「なんや、ウチらが重い言いたいんか」

「お前ら以外、ほぼ小動物ぐらいの重さしかないからな」

「言っとくけど、あたし羽より軽いって妖精界では有名だから」

「ウチも小石より軽いって妖狐界で有名やから」

「嘘つけ、そんなでかい乳つけて無理があんだよ」

「ほんとよ、あたし3グラムしかないから」

「ウチ2グラム」


 なぜこいつらは堂々と嘘をつき通そうとするのか。

 俺は二人の胸を、下からすくいあげるようにしてタプタプする。


「おっぱい片側1クロってところだな。2つ合わせて2クロ、はい羽より軽いは嘘、論破ぁアーー!! 指はそんな方向に曲がらないぃ!」


 二人は俺の指関節を直角90度に曲げる。


「ユーリ遊んでないで早く直して」

「わかったわかった」

「あんたこんな鎧直せるん?」

「昔金ない時に鍛冶屋と彫金屋でバイトしてた」

「へー真面目な下積み時代があったのね」

「いやブランド物のパチもんアクセ作って金稼いでた」

「あれは良いシノギになったね」

「あんたら最悪やな」

「ちゃんとこれはニセモノですって断って売ってたからな」


 デュラハンの損傷はさして酷いものではないので、少し時間はかかるが修理はできるだろう。

 歪んでしまったパーツを、灼熱丸の炎を使って元の形に成形していく。

 その様子をジロジロと見つめる我が仲間たち。


「あんま見られると手元が狂うが」

「いや、あんたほんま器用やな。ウチあんたの細くて長い指好きやわ」

「わかる、ちょっとセクシーさを感じる」


 君らその指へし折ろうとしてましたけどね。


「鍛冶スキルって地味だけど、あると役に立つわね」

「地味言うな、鍛冶師が怒るぞ。ってか暇なら宝箱開けて、なんか有用なアイテム探してこい」

「おいユーリ、宝箱から鍋の蓋出てきたぞ! あげる」

「鍋蓋で俺は何をすればいいんだ」


 そんな話をしていると、先程わかれたティターニア達が俺たちを追い抜かしていく。


「おいマルコ見ろよ、あいつら鍋の蓋で遊んでんぜ。随分と余裕だな」

「ジーグあまり悪魔を直視してはいけません。呪われてしまいますよ。はい」


 嫌味な奴らだ。もうあいつらの中では、俺たちは悪魔一味ってことになっているのだろう。


「よし、修理は終わった。俺たちも行こう」

「えーユーリ、今行くとあいつらと一緒に行くことになっちゃうよ」

「デュラハンの方が速いんだから追い抜かしちまえばいいだろ」

「じゃあ全力ダッシュで追い抜かそうぜ」

「また足が壊れるからダメだ」


 デュラハンに搭乗すると、俺たちはティターニアチームの後ろを歩く。

 プラムの言うようにさっさと追い抜いてしまおうと思ったのだが、彼らと同じタイミングで廃墟エリアを抜け湖エリアに出た。

 薄暗く不気味な湖だが、恐らくここを超えればカジノ城はもう間近と思われる。


「結構広い湖だね」

「円形に直径1クロってところだな」

「ユーリ、ボクの見間違いじゃなければ湖の真ん中にでっかいカニいない?」

「いるな」


 プラムの言うように湖のど真ん中に岩石みたいなでかいカニがいる。飛竜とでもタイマンはれそうなカニは、8本の足をカサカサと動かしてその場で旋回を繰り返している。


「しゃしゃ(ぐるぐる回ってる)」

「ウキウキ(湖の前に人がいるよ)」

「ほんとだな」


 参加者らしき若い男が3人、湖の前でたむろしている。

 一体何をしているのだろうか?

 俺とティターニアチームは参加者に話を聞いてみようと近づく。


「おーい」

「うわ、デュラハン!?」


 3人の参加者は驚いて慌てるが、人間が搭乗していることに気づいて警戒をとく。


「何してるんだ?」

「そこのカボチャに聞いたらわかる」


 参加者は視線で湖の前に置かれているカボチャをさす。

 顔の形に中身がくり抜かれたカボチャランタンに近づくと、突如中に入っていたロウソクに火が灯り言葉を喋りだした。


【参加者諸君、ここまで到着おめでとう。もう少しでゴールだが残念な話がある。この周囲の迂回ルート全てに大量のアンデッドを配置している、城に向かうにはこの湖を突っ切るしかない 】

「こいつの言っていることは本当だ。この湖の周囲はアンデッドモンスターだらけになってる」


 恐らくもう確認してきたのだろう、参加者は渋い顔をしている。


【湖の中央を見たまえ。あそこに陣取っているのはグラシャラボラス。見た目は蟹だがれきっとした悪魔で、我々カジノ運営が用意した”鬼”だ。ハサミから強烈な水弾を放ち、人間なんて一撃で屠ってしまう。射程はこの湖全てだ】


 俺は試しにスケルトンを生成して、湖の中を歩かせてみた。

 すると、すぐに侵入を感知したグラシャラボラスが水弾を放ち、スケルトンはバラバラに砕かれてしまった。


「こっわ」

「あんな遠くからめちゃくちゃ正確な射撃するな」

【グラシャラボラスは一定のタイミングで旋回を繰り返す。正面を向いたときに動いているものを攻撃するが、側面、背面を向いている時は攻撃しない。君たちは鬼の攻撃をかいくぐり、ゴールである湖の対岸に到着するのだ】


 ルール説明を終えると、カボチャランタンの火が消える。


「ユーリ、つまりこれってだるまさんが転んだだよね?」

「言われてみればそうだな。カニが後ろを向いている時に移動して、正面向いてる時は止まるってことだもんな」


 俺はもう一度スケルトンを生成して、カニが後ろを向いている時に湖に入水させてみた。

 すると話の通りカニは攻撃してこない。だが正面を向いた時、ほんのちょっと動かしただけでも水弾が飛んできて、スケルトンはバラバラにされてしまう。


「なるほど、ルールはわかった。そんで今困って立ち往生してるってわけか」

「そういうことだ」

「おい、ここでウダウダやってても埒があかねぇ。おれはやるぜ!」


 先に到着していた3人組は覚悟を決め、湖へと入る。

 俺たちはその様子を後ろから眺めていたのだが、彼らが全滅するのに10分もかからなかった。

 水に足をとられるもの。

 仲間が殺された焦りで、カニが旋回する前に動いてしまったもの。

 恐怖で腰をぬかしてしまったもの。 

 三人はそれぞれの理由で水弾に撃ち抜かれてしまった。


 水面に浮かぶ死体を見て、ジーグは完全に腰が引けてしまう。


「む、無理だぜこんなの! 絶対に渡りきれるわけがない! 皆100メイルも進まないうちに死んじまった!」


 さっきまで話していた人間があっさりと死に、頭を抱えてガタガタと震えるジーグ。


「なぁユーリ、このゲームボクら有利じゃないか?」

「俺も思った」

「は!? 何いってんだお前ら!? 向こうは一撃で心臓をぶち抜いてくる固定砲台だ。こっちは湖の中をザブザブ進んでいかなきゃならないし、撃たれたら回避できない。これのどこが有利なんだよ!?」

「要は当たっても死ななきゃいいんだよ」


 俺は外に出ているプラムやサメちゃんたちを、全員デュラハンの胴鎧部分に格納する。


「ナツメ、ホムラ、デュラハンとこの鍋蓋に防御アップくれ」

「式神護符剛体、式神護符魔抗」

「妖狐妖術、不知火の守り」


 デュラハンと鍋蓋に護符が貼り付けられると、基礎防御力、基礎魔法防御力、水属性耐性が上昇する。


「よし行くぞ。お前ら顔出すなよ」


 俺はデュラハンを操作し、湖の中へ入水させる。


「お、おい! カニがこっちを向くぞ! 止まれ!」


 ジーグの忠告を無視して、止まることなく進む。

 当然そんなルール違反者を許すわけがなく、グラシャラボラスのハサミから水弾が発射されるが、防御アップしているデュラハンの装甲を抜くことはできない。


「行けるな」


 止まらなくても大丈夫だなと思っていると、俺の顔面に水弾が飛んできた。

 間一髪で鍋蓋で弾き飛ばすことに成功する。


「あっぶね。鍋蓋シールドがなければ即死だった」

「ユーリ頭出すとふっ飛ばされるぞ」

「でも頭出さねぇと前が見えん。デュラハンがこけたら終わりだぞ」

「しょうがないな」


 プラムは俺の頭の上に乗ると、飛んでくる水弾を水弾で撃ち落とす。


「ウハハハ、射撃でボクに勝てるわけ無いだろカニミソがよぉ!」


 ゲラゲラ笑うプラムにイラッときたのか、ドドドドっと凄い勢いで水弾が連射される。


「ユーリに当たるのだけ落とすぞ」

「ああ、デュラハンに当たるやつは無視でいい」


 次々に飛んでくる弾丸を弾丸で弾く精密射撃をやってのけるプラム。

 グラシャラボラスは20発ほど水弾を撃つと、再び足をカサカサと動かして反転を始める。

 どうやら対象者が死んでいなくても、一定の時間が経つと反転をするルールのようだ。


「余裕だね」

「デュラハンが功を奏したな」


 多分このゲーム、バカ正直にだるまさんが転んだをしなくても他にも突破できる方法はありそうだ。

 湖の3分の1ほど進むと、なぜか後ろから非難の声を浴びせられる。

 振り返ると、ジーグがこちらを指さして吠えていた。


「おい、ふざけるなよ! なんだよそれルール違反だろ!?」

「ルールは鬼の攻撃をかいくぐって進めとしか言われてない」

「別に正面向いてる時に進んではいけませんなんて言ってなかったもんね。あぁ人間にはそんなことできないか、ごめんねボクたち強くてぇ!」


 プラムが煽り倒すと、ジーグは「そんなんありかよ!?」と叫びながら「オレたちも乗せて行け」と厚かましいことを言い出す。


「おい、オレたちは同じ参加者だろ! 自分だけ助かろうって言うのか!?」

「いや人間は人間チーム、魔族は魔族チームって言ってただろ」

「そんなの冗談に決まってるだろ! なぁ、おい! 戻ってこいよ! 頼むって!」

「戻らない。俺は都合の良い時だけ仲間ヅラする奴が大嫌いだ」






―――――

気づけば100話。

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ユーリ&プラム ~魔大陸爆乳ファーム建設記~ ありんす @alince

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