通学日和
僕は草原に立っている。眩い白を携えた百合の花が周りで風にそよいでいる。緑と白が目に優しい。
「……ぅ………ゆ………」
その場にいるのは僕と一人の女の子。女の子は口を動かし僕に何かを伝えようとしている。しかし、そよ風が音を彼方にやってしまった。
「ゆ……うき…………!」
必死に何かを伝えようとする彼女を嘲笑うように、そよ風は風力を上げ、遂には百合の花や地面を吹き飛ばし始めてしまった。
「ゆうき!……ゆうき!」
僕はこれが夢だと知っている。毎日のように見るし、この声が現実で僕を起こしに来てくれた幼馴染みの声なのを知っている。でも、いつもその女の子が泣きながら微笑み、僕が大事な約束をしたこと以外は覚えずに目覚めてしまう。
「勇気! いい加減起きなさい!」
ドスッ
肩の痛みで一気に目が覚める。どうやら制服を着た幼馴染みが僕の肩を殴って起こしたらしい。
「痛いっ! 痛いよ雪!」
「ふんっ、起きない貴方が悪いんじゃない!」
僕
なんとなく悲しかった記憶があるけど、どんな顔だったか、どんな性格だったか覚えていない。
「だからって殴ることないじゃないか……」
「じゃあ、どうやったら起きるのか教えてくれる?」
「……いつもありがとうございます」
「全く私がいないとダメなんだから」
何故かニコニコしている幼馴染みは
産まれた時から一緒に育ってきた記憶がある。幼児の頃はおもちゃを奪われたり、小学生の頃は殴られたり。暴力的な所もあるけれど、雪が本当は良い人っていうのは僕が知っている。
今も責任感から寝坊しがちな僕を毎朝起こしてくれるし、中学生の頃、僕がいじめられそうになった時真っ先に僕を助けてくれたのは雪だった。流石に、中学男子3人相手にしてボコボコにしたのはびっくりしたけど。
「そうやって笑っていれば可愛いのに……」
雪はツリ目や態度から、厳しい性格の女の子に見られがちだけどふとした拍子に見せる表情はとても可愛い。まぁ、僕はよく怒らせてしまうんだけど。
「……っ、バッカじゃないの!」
雪は顔を真っ赤にして怒りながら、僕にバックを叩きつけた。
「うっ」
また怒らせてしまった。何で怒ったのか分からないから、怒らせてしまうのだろうけど。
「私、先行ってるからね!」
雪は僕の部屋から出ていく。耳まで真っ赤だったから相当怒らせてしまった。後で謝らないと。
雪が作ってくれた朝食を軽く摂り、制服や身支度を行い、昨日から熱が出てしまった妹の様子を見て外に出た。
外では小鳥が鳴き声をあげ、空は爽やかな青色で、暖かくなりつつある太陽が優しく照らしている。つまり、最高の通学日和。最近は雪と通学することが多くてゆっくり歩いてないから散歩気分で通学路を歩く。
空を飛ぶ鳥をぼおっと眺めながら歩いていたら横からトラックがすごい速さで突っ込んできた。
「はぁ?」
轟々と迫るトラックはまるで巨大な死神のように僕を睨み、死の直感に足が竦んでしまった。
強い衝撃と共に僕は一瞬で死んでしまった。
「え?マジ?」
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