第27話 時代転化の話
シオンはじっと待つ。
イルの様子を醸し出す雰囲気を感じ取る。
イルのその攻撃に魔法がこもっているのか。
イルとは長い付き合いだからこそそこに計算は必要ない。
〝確率的に〟とか〝一般的に〟とかそんなものに頼らずとも感覚で分かるはずだ。
イルがこっちに迫ってくる間にシオンの頭の中でイルとの思い出がフラッシュバックする。
イルの色んな表情、考え、思い、夢、その全てに触れてきた。
イルは間違いなく私に多くの影響を与えた存在だ。
だから私の一部と言っても過言ではない。
私は〝何となく〟感じる。
「見切ったァァァァ!!!」
シオンは〝不可説不可説転〟でイルから放たれた拳を斬る。
魔剣を持つ右手にいつもの感触が訪れる。
魔法斬ったあの感触だ。
シオンはすかさず左手に握っていたもう1つの剣を抜き反撃に入ろうとする。
しかし
イルは一瞬バランスを失ったが直ぐに体勢を整えた。
「え!?うそ!?」
シオンの口から思わずそう零れる。
イルは放った方の反対の手に杖を握っていた。
そしてシオンに斬られてすぐにまた呪文を再び唱えたのだ。
「やっぱりアンタは凄いわ、でも私はその凄さも分かってた!」
イルはシオンなら自分の攻撃を見抜くだろうと信じていたのだ。
握っていた杖を捨てその手で拳を作りシオンの頭に振りかざす。
シオンは慌てて剣で頭を守る。
だがイルの拳はその剣を砕きシオンの頭に到達する。
ゴンッという鈍い音と共にシオンはイルからゲンコツをお見舞いされた。
シオンはイルに怒られた時良くこうやってゲンコツされる。
その光景はロゼッタにとっては見慣れたものだった。
「勝者イル!!」
会場に判定員の声が響き渡る。
イルはゼェゼェと息切れしながら小さくガッツポーズをした。
そして気絶しているシオンを叩いて起こす。
「ホラッ起きなさい!!」
ビシッとチョップを食らわすとグヘェッという唸り声上げシオンは意識を取り戻す。
そんなシオンにイルは手を差し伸べた。
シオンはすぐにしばらく辺りを見回すと小さくため息を吐いて
「そっか、負けちゃったんだね私」
と霞むような声でいった。
そしてイルの手を取り2人は抱き合う。
そんな2人を祝福するように目一杯拍手するものもいれば、今までの最弱のイメージに囚われていた人達は困惑をしているようだった。
シオンはイルと抱き合い耳元でそっと
「優勝……してよね」
と囁いた。
イルは首を縦に振る代わりにもっと強く抱き締めた。
しかしそんな時間は一瞬にして終わりを告げる。
「幕を開けなさい!!」
そんな声が空から会場に響き渡った次の瞬間。
バリィンという大きな音と共に会場に貼られていた魔法障壁が破壊されたのだ。
そして会場上空に数百は下らない数の飛行系の魔物の群れが飛んでいた。
観客は一斉に悲鳴を上げ立ち上がり出口に向かう。
しかし出口は既に結界が塞いでおり誰も会場から出ることが出来なくなっていた。
「あ〜らたな新時代の到来をその目で見れるというのに何を逃げることがあるのでしょう。」
その魔物の群れを率いていたそいつは見た目は人の姿に近いが角が2本生えており、ドラゴンのような翼を広げていた。
ドラゴニュートと呼ばれる超希少種だ。
「奴らを討伐しろ!」
会場にいた現勇者レックスは護衛に向かってそう指示を出した。
すぐに護衛達は魔物に向かって魔法を放つ。
しかし魔物達は自身にも魔力障壁を貼っておりそのどれもが不発に終わってしまった。
「そんな慌てること無かれ……やれやれやはり騒々しいものですね魔法使いは。」
空に飛んでいる魔物達はそこまで上級では無い。
恐らくあのドラゴニュートが魔物全員に障壁を張っているのだろう。
只者じゃない。
その場にいる実力者達は全員そう感じた。
しかしその障壁を軽々と破り次々と魔物を討伐しながら群れの中央にいるドラゴニュートに近づく者がいた。
雷帝ラヴィーだ。
「おいおい、面白そうなやつが来たじゃねぇ〜か!」
ラヴィーは嬉しそうに笑みを浮かべ立ちはだかる魔物達を次々と切り捨てる。
だがドラゴニュートは七聖帝を見ても全く動じない所か無視をしていた。
「おい!てめぇ羽虫の分際で俺様の話を無視する気か?」
もちろんラヴィーにとってその態度は頂けない。
ドラゴニュートはそんなラヴィーを見て仕方ないとで言うように口を開く。
「ん〜貴方に用は御座いません、お引取りを」
「ぶっ殺す」
ラヴィーはドラゴニュートに向かって一直線で飛んでいく。
それを妨害しようとする魔物たちは目にも止まらぬ速さで切り刻まれる。
「はぁ〜、仕方ないですね。良い機会ですし試しに使ってみますか」
そう言うとドラゴニュートは懐から何かを取り出し、それをラヴィーに向ける。
するとその何かから超高密度の魔力が解き放たれる。
それは直径4mはあるであろう巨大な光線となりラヴィーの元飛んでいく。
「何ですか……あれ」
ビエーブはその光景をみてそう呟く。
「あれはもしかして……」
俺はドラゴニュートが懐から取り出したそれを俺はどこかで聞いたことがある気がした。
そうあれは確か俺を育ててくれたじいちゃんが何か言っていたような……
そして俺は思い出すと同時に戦慄する。
「あれは………銃だ……」
ビエーブは眉を顰める。
「銃?あんな形状のもの見たことありませんけど?」
そうあれはこの世界存在しない銃。
じいちゃんがいた地球とかいう世界に存在していた物。
そしてじいちゃんが絶対にこの世界に存在させてはならないと言っていた物。
「何で……それをもってんだ…」
その銃のことを知っているのは極わずか限られた物しか知らないとじいちゃんは言っていた。
そんなことを考えている間にドラゴニュートは撃ち終えていた。
撃ち終えていたあとの銃口は焼けただれ使い物にならなくなっているようだ。
「やはりまだ1発が限界みたいですね」
爆煙の中ラヴィーのシルエットが浮かび上がる。
どうやらギリギリの所で避けていたようだ。
「なんだその武器は!舐めやがって」
ラヴィーはもう一度ドラゴニュートに突撃しようとする。
しかし
「少し動かないでください」
ドラゴニュートがそう言うとラヴィーの体は硬直する。
「あ?何だこれ!?」
ラヴィーは必死に抵抗する。
「ほうこの私がたったの10分程度しか縛れませんか。流石七聖帝と言ったところですね。しかし10分もあれば十分です。さっさと仕事を終わらせてしまいましょう。」
ドラゴニュートはそう言うと懐から魔法結晶を取り出しその中に入っている魔法を解き放つ。
そして
「
と唱える。
するとこの国いや世界を覆う程の巨大な魔法陣が展開される。
世界が真っ赤に染まるそんな予感がした。
その魔法陣からは驚くほど陽気な男の声が聞こえてきた。
「んんっ、世界中の紳士淑女と…………あとそれ以外のみなさんこんにちは!!えー、ワタクシ新たなる魔王に就任致しました〝ザッツ・ライフ〟と申します!!」
辺りは騒然とする。
「新しい魔王だって……」
「どいうことだ!?」
「魔王、魔王が復活したの!?」
一気にパニックは広がる。
そんな中その新魔王からの言葉はまだ続く。
「えー、一応ね世間の皆さんにも存在を知って欲しいなァ的な目的でこんな感じに報告させて貰いました。あとなんかあるかな……………………あ!そうだったそうだった、ワタクシ新魔王はこの世界の弱者のために新たな国家を設立することをここに宣言しときまーす。じゃ、そいうことでまた戦争で〜バイバイ〜」
魔法陣は消え空は元通り青色を取り戻す。
地球の銃の存在、新たな魔王の誕生、そして魔王による新たな国家の設立。
時代の変化が始まっていた。
{あとがき}
これで第1章は完結となります。
ここまで読んで下さった皆様本当にありがとうございます!
第2章も書くつもりはあるのですが、3週間程あいだを空けたいと考えております。
その理由はなろうにてこの物語を再構築して投稿しようと考えているからです。
なろうの更新は14日から始めようと考えております。
なろうでは色んな描写をつけ加えたものが投稿できると思います。
3週間の間にこの作品の事を忘れてしまう方がほとんどだと思いますが、思い出した頃にフラッと立ち寄って頂ければ幸いです。
ありがとうございました。
なろうでは3yというユーザー名で活動しています。
仲間に魔力を奪われ、パーティーを追放され全てのステータスがFランクに落ちた元勇者だが世界最強の「魔力効率化」術式があるので自分を拾ってくれたFランクパーティーと共に成り上がる プリントを後ろに回して!! @sannnnyyy
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