第46話 そして僕たちの日々は続く

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 ウォータースライダーの頂上から見下ろすと、今更ながら足が震えた。


「い、行きますよ」

「お、おう……」


 2人乗りのチューブに乗った僕たちは係員さんに押されてトンネルの中を滑り落ちる。


「うわぁああ!」

「きゃああああ!」


 急な下り坂で一気加速し、全身の筋肉が硬直した。

 トンネルの床には水が流れており、カーブを曲がると水しぶきが飛び散る。

 それが顔にかかると、一時呼吸が出来なくなった。


「ぬぁああー!」

「ふぉおおおぉー!」


 右へ左へと揺れ、速度はどんどん上がっていく。

 フワッと身体が浮き、更に恐怖感が増した。


 何がなんだか分からないうちにズボンっとゴールのプールへと到着した。


「きゃあ!」

「花菜さん!」


 花菜さんがチューブから落ちてしまい、慌てて飛び込んで抱き止める。


「大丈夫?」

「あ、ありがとうございます」


 助けるためとはいえ、反射的に抱き締めてしまった。


「ちょっと。いつまで抱きついてるわけ?」


 プールサイドにいる愛瑠に冷ややかにツッこまれ、慌てて離れる。


「こんなところでいちゃつかないでよね、まったく」

「ベ、別にいちゃついてた訳じゃないから」

「どうだか? それに転校生がプールに落ちるのもなんだか不自然だったし。わざとなんじゃないの?」

「そんなことしません!」


 花菜さんは顔を赤らめて反論する。

 この二人は相変わらずだ。


 夏休みも半ばに差し掛かった今日、僕と花菜さん、愛瑠、大曽根さんの四人で大型プール施設に遊びに来ていた。


 二人には僕たちが付き合い始めたことを告げたけど、驚くほどさらっと「あ、そう」と流されてしまった。

 伝えるのに緊張していたのがバカらしくなるほどだ。


 付き合いはじめてどうなるのかと思ったが、夏休みになっても僕たちの関係に変わりはなかった。

 しょっちゅうみんなで集まり、プールに行ったり、カラオケをしたり、だらだらと部屋でゲームしたり。


 愛瑠も大曽根さんさんも何事もなかったかのように僕たちと接してくれている。


「ねーねー。次は流れるプールに行こう」


 大曽根さんが嬉しそうに指差して急かしてくる。

 流れるプールなんか入ったら水着まで流されてしまうんじゃないかと思わさせられる際どい水着を着ていた。


「痛っ!」


 足に痛みが走って踞る。

 どうやら花菜さんが踏んできたようだ。


「いやらしい目で大曽根さんを見てましたね?」

「み、見てないって」

「なに? 蒼馬、うちに見惚れてたわけ? もっとじっくり見せてあげようか?」


 大曽根さんはふざけながらズイッと胸を僕に近付けてくる。


「ちょ、私の彼氏を誘惑するのやめてください!」

「おー、カノジョさん、こえー」


 大曽根さんはケタケタと笑ってからかっていた。


 ちなみに僕と花菜さんの関係もそれほど大きく変わっていない。


 毎日大人なキスをしないとダメとか言っていたくせに、そんな空気になりそうになるとサッと立ち上がって逃げてしまう。


 まあそんなところも花菜さんらしくて可愛いんだけれど。

 でもちょっと不本意だ。

 もう少し強引にでも迫った方がいいのかもしれない。


「よし、流れるプールで競争だからね、転校生」

「いいですよ。私が勝ったら『転校生』じゃなくて『花菜』って呼んでください」

「ボクに勝つつもり? 一応元水泳部なんですけど?」


 愛瑠は不敵にニヤリと笑う。


「そんなのやってみないと分かりません」

「じゃあボクが勝ったら」


 愛瑠はチラッと僕を見て、それから花菜さんの目を見た。

 なにを言い出すのか、ハラハラする。


「お昼は転校生の奢りね」

「いいですよ。じゃあ勝負です」


 二人がプールに入り、一斉に泳ぎ出す。

 流れるプールはかなり人が多いので純粋に泳ぐのが早いだけでは勝てないかもしれない。

 花菜さんは人を掻き分けて夢中で泳いでいた。

 愛瑠はわざとゆっくり泳ぎながらその姿を見て笑っていた。


「頑張れ、花菜さん!」


 聞こえないとは思うけど僕は声援を送る。

 天窓から射し込む光が水面をキラキラと反射させていた。





 許嫁としてやってきた美少女は明らかに政略結婚なので、結婚しないで済むように助けてあげたい 〈了〉



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 最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました!

 紆余曲折ありましたが、二人は無事恋人同士になれたようです。


 でもこれからまだまだ越えていかなければならない壁もあることでしょう。

 愛瑠の反撃や柚芽ちゃんの襲来とかも。


 でもいまの蒼馬ならきっと大丈夫です!

 花菜さんの愛を信じて、迷わずに進めることでしょう。


 いまはちょうどカクヨム公式でレビューキャンペーンイベントをしているので、完結記念ということでよかったらレビューしてみてくださいね!




 さて次回作は謎のダブルヒロイン作品となる予定です。

 これまでとはまた違ったラブコメになると思います!


 いつも応援してくださる皆様のお陰で私は走り続けられます。

 これからも応援よろしくお願いします!



 2021年9月

 鹿ノ倉いるか

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許嫁としてやってきた美少女転校生は明らかに政略結婚なので、結婚しないで済むように助けてあげたい 鹿ノ倉いるか @kanokura

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