夜淵の窓辺-2
「それじゃあ、……かんぱーい?」
「かんぱーい」
いえーい、と譲が棒読みで歓声をあげる。わたしがお風呂に入っているあいだに譲が冷蔵庫に入れていてくれた酎ハイを開けて、勢いよく飲む。パイナップルの香りが鼻にぬけた。枝豆のさやから豆を押し出して、口の中に入れる。焼目をつけているので、香ばしい。
どうせ飲むだけなので、電気は消して、縁側に出ている。星と月が明るい夜だから、手元くらいなら充分見える。山の上に出たら視界が広くてプラネタリウムなんか目じゃないくらいの星空を見れるのだけど、ここからでも充分きれいな星空を拝むことができる。
久しぶりにアルコールを摂取したので、少しだけくらっとした。アルコールに強いわけじゃないのだ。譲はさっきは強くないとか言っていたけど、わたしとは比べ物にならないくらい強い。少なくとも酔っぱらった姿を見たことはなかった。
喉が渇いていたので、もう一缶飲み干してしまいそうだ。縁側に置いた缶が、軽い音を立てる。オクラをつまんでいた譲がちらっとこちらを見る。
「ペースはやい」
「だってのど乾いたから」
思いっきり仰向いて、最後の一口を飲み干す。同じメーカーの、今度は桃の味を選んで、口に運ぶ。甘くておいしい。
「あー……アルコールがしみるねえ」
「あんまり早いと潰れるだろ。おつまみ食べるか水飲むかして」
「大丈夫だって。ん、おいしーね、この酎ハイ。今度買おうかなあ」
「お前、そんなに強くないんだから」
譲が箸でつまんだトマトをこっちに差し出してきたので、口に入れてもらう。こっちも譲がちゃんと冷蔵庫に入れておいてくれたので、冷えている。旬の野菜だから、甘さがぎゅっと詰まった味がする。オリーブオイルが口の端から垂れたので、親指でぬぐう。
「ありがとう。トマトもおいしいよ。譲も食べて」
「ん」
「お酒はー?」
「まだあるよ」
ふっと優しく笑われたので、反応に困ってうつむく。優しくされるのは、苦手。
「芳乃は……」
「ん、」
「酔ったら口調が軽くなる」
「そう?」
「うん」
そうかもしれないね、と小さくつぶやく。顔がなんとなく熱くなった。酔いが回ったせい。濡れ淵に置いた手が、こつんと譲の手とあたった。
「芳乃は、実家に帰って、どうだった」
「どうだったって、まあ、ふつう」
「本当?」
「……いや、まあ、いろいろあったけど。もう終わったことだもん。ふつうだよ」
「うん」
ふっと息を吐く。甘い桃のにおいがする。今にも落っこちそうな星を見上げる。今日は月明りが明るいから、あんまり見えないけど。
「いやなことは、たくさんだったけどね。わたしの家は、こうなんだもの。仕方ないよねって……べつに、嫌だとは思っていないよ。これは、動かしがたい事実だからさあ。――諦めがついた」
自分の声は渇いていた。
「ぜんぶどうしようもないことだから。わたし、心のどこかで、お母さんたちが、わたしに笑ってくれると思ってたみたい。温かい実家が欲しいと思ってたみたい。わたしには、ないんだなあって思って、それが、べつに、哀しくもなければ、苦しくもなかった」
「いいことって、言っていいの」
「うん。悪くないね」
手の甲を譲が撫でる。嘘をついていたらバレるはずだ。指を開いて、譲の指と絡める。利き手を奪っちゃうので、甘え続けるのは無理なのだけど。
譲が呼気だけで笑った。どうしたの、と声に出す代わりに指にかすかに力を入れる。
「いや、うん、なんでもない。なんでもないわけじゃないか。昔、同じような会話をしたんだよ。覚えてる?」
「え? いつごろ?」
「高校のころ。カラは、どうして、小説を書くのって、海で、聞いて」
「うん……」
「わたしの脳内だけで、わたしの自由を行使するのには、小説が一番だって、言ってて、じゃあカラは頭の外側は自由じゃないんだって、僕は言って」
「自由じゃないって、わたし、答えた」
「うん」
「自由じゃないのは、嫌だなあってみかんが、言って、わたし……」
ざあ、と木立が揺れた。潮騒とは違って、鼓膜を優しく撫でるだけの、穏やかな音が。
「カラは、それでも、頭の中が自由なら悪くないって、言った。でもカラの声は震えてたんだよ。気付いてた?」
「……ううん」
「僕は、そうするしかないんだなあって思って、黙ってた。頭の中で自由があれば、それで満足するしかないんだろうと思ったけど、そんなことを思うのはどうしてって思ったけど、そこまで踏み入れる勇気がなかったから」
なんにも言えなくて、ちいさくうなずくしかなかった。うんと寒い冬の日だった。
頭の中で空想を広げるのは、小さなころから好きだった。聞いてくれる人はいなくて、家の中で口に出そうものならすぐさま母の罵倒が飛んでくるので、すべて頭の中に留めていた。
物語を書いてみたい、と思ったのは、小学校のころだったけど、文字にすることは一度もできなかった。わたしの部屋は父母やお手伝いの人がいつ入ってくるかわからないし、親が不必要だと判断した物は勝手に捨てられることもあった。だからわたしは大切なものを作らない癖をつけたし、自分の心の一番大切なことは口に出さないようにしていた。
家を出て、高校の近くの文房具屋でルーズリーフを買って、ずっと頭の中にあった物語を文字にしたときは本当に楽しかった。何回も徹夜して、授業中に眠ってしまうこともたくさんあった。成績を落とすわけにはいかないとわかっていたけど、やめられなかった。
わたしの、頭の中で生み出したものを、誰かに見てほしくて、聞いてほしかった。それは叶わないことだったから、せめて考えることをやめないことにして、守り続けることが、わたしの生きていく理由だった。
わたしが唯一守ることができた、わたしの尊厳だった。
「あの時はなんて呼んでたっけ。カラはって、呼んでたから、2年生の冬か。あの日は寒かったけど、今日は夏だし、芳乃は、本心で悪くないって思ってるし、対照的だと思って。思っただけ」
「うん」
「あの時は、芳乃に触れるなんて、思いもよらなかったなあ」
譲の声が意地悪くなったので、反射的に手を離そうとしたらぎゅうっと握りこめられてしまった。手を握るなんて、急に恥ずかしくなってきた。肩を揺らして笑っている。
「離すかよ、ばあか」
「もういいです大丈夫です。利き手使えないから不便でしょ」
「べつに。手でつまめばいいから」
抵抗するのをあきらめて大人しくする。手が大きくてどうにもならない。
「譲がいいんだったら、わたしだっていいですぅ。手をつなぐくらい勝手にしてちょうだい」
「なんだよ、嫌なの」
「それを聞くのは意地悪」
けたけたと譲が笑う。
「芳乃は素直だなあ」
「だってあなた、嘘ついたらすっごい面倒に拗ねるでしょ。わざわざ嘘は言いません」
「拗ねるなんてしたことあるっけ」
「あるよ。譲は拗ねたら、べつに、べつに、って言うし、目を合わせないもん。つらいんだよ」
「ええ、ごめん。そんなことしてたのか。本当にごめん」
体を捻って、枝豆を片手で押し出す。ぷくぷく丸いのを苦労して捕まえて、口の中に放り込む。
「ごめん。そんなに気にしないで。滅多にしないよ。あなた、優しいから」
「……ずっと聞きたかったんだけど」
さっきトマトをもらったので、枝豆のさやを譲の口元に押し付ける。軽く咥えたのを確認してから、豆を押す。かすかに湿った感触が指先にあたった。
「話しの腰折ってごめん。なあに」
「ううん、ありがとう。ずっと聞きたかったのは、芳乃はなんで僕のこと優しいって思うのかが、僕はわかんなくて」
「えー……」
それを説明しろと、してほしいとねだられるのは。べつにいいけれど。理由を突っ込んで聞くのは、譲は滅多にしないので。
「言っておくけど、この家に来て、あんな大騒ぎに巻き込まれて文句ひとつ言わない時点でずいぶん優しいよ。ふつうは文句か愚痴は言うよ」
「芳乃も智草さんたちも悪いわけじゃないんだから、言うわけないだろ」
「でも巻き込んだのはわたしたちだからね。文句言われる覚悟は、してたし……」
怒らないでね、と言ったら、小さな声になってしまった。
「これで、譲が一人で帰っても、もう一緒にいられないって言っても、大丈夫って思って、連れてきたのよ」
「……」
つないでいた指が、ぐるぐる絡まる。ちいさく爪を立てる。不信を許してとねだるのは、譲が嫌うことだけど。ふうん、と不満げに譲の声が低くなった。
「大丈夫って思ったんだ」
「大丈夫じゃないけど、ごめんねって一言で済ませないといけないと思って、覚悟は決めてたもの……」
「あっそう」
「怖かったんだもん」
「いいけどさ。……ごめん、そんなにしょんぼりするなよ」
「そういうところです。許してくれてありがとう。譲は、許すのがはやいね。謝られるの嫌いなくせに」
息を吸う。夏の夜の空気は甘い。蜜のようなにおいがする。
「謝るなって言うけど、ごめんねって言ったら、べつにいいよって許してくれるでしょう。重たいものは絶対わたしには持たせてくれない。外にいるときは手を引いてくれる。ご飯先に食べててって言っても、必ず待っててくれる。あなたは、わたしが困ってたら、ちょっと笑いながらどうしたのって聞いてくれる。その笑い方が、あなた、本当に優しく笑うのよ。果物をよく買ってきてくれる。コンビニで、新しいスイーツが出ても買ってきてくれる。紅茶が好きなのに、わたしのためにコーヒーを淹れてくれる。わたしが、夜泣いていたら、一度、部屋の前まで、来てくれる」
ドアの前で、かすかにきしんで、消える足音が。
「譲は優しいからって、甘えているのはわたし。いつも負担かけてごめん……」
「……ごめんじゃなくて」
「ありがとう」
「よろしい」
今度こそ羞恥で顔が熱くなった。お酒を飲んでてよかった。譲が手を離して、首筋を叩く。
「……あー、酒飲んでてよかった」
「照れてるの? 聞いてきたの、譲の方じゃない」
「そうだけど。顔あっつい。扇風機こっちに持ってきていい?」
「うん」
ぱっと譲が素早く立ち上がって、部屋の奥に向かった。結露した缶を頬にあてる。譲の好きなところをひとつひとつ数え上げろと言われたら、するけれども。夜でよかった。電気を消しててよかった。お酒を飲んでてよかった。
ぶうん、と背後で機械のうなり声がした。風が髪の毛を巻き上げたので、手首に下げていたゴムでお団子にする。首の回りにまとわりついていた髪の毛がなくなっただけでだいぶ涼しくなった気がする。
「水」
「え? ありがとう」
「僕も飲みたかったから。……僕ら、だいぶ酔ってるよ」
はは、と気の抜けた笑い声をふたりであげる。それはそう。違いない。
顔を合わせて本音を話せない、から、海にわたしたちはいたのだ。
「いいこと聞けたからいいけど。お前、部屋の前に来ていたの、本当に気付いていたの。気付いているなら開けてくれてもいいだろ」
「夜中だから迷惑でしょ。起こしちゃっている時点で迷惑もなにもって感じだけど。むしろなんで譲は気付くの。そんなに壁薄い?」
「泣き声が聞こえているわけじゃないよ。泣いてなかったら、小説書いているから、気付かないだろ。気付いているのに開けなかったら、泣いているだろ」
冷えた水を飲む。体調やら病院の結果やら、執筆に詰まったりで精神状態がぐずつくのは、わたしにとってはよくあることだ。気付かれないように泣いているつもりなのに。ぎしりと部屋の前がきしむ。嗚咽をこぼさないように泣くのは慣れているのに。
「本当に大丈夫じゃなかったら、開けてるよ」
「わかってる。僕だって勝手に開けるくらいの勇気はある。でも、例えば、本当にちょっとしたことが、ふとよみがえって、泣いてしまったら、ひとりじゃないことだけが支えになるんじゃないかって、僕は思ってて」
ひとりじゃないことだけが。それを言えなかった、過去が。今でも夜になると足首をつかむ。
「気付いても、気付かなくても、僕が必要でも、必要じゃなくても、どっちでもいい。芳乃が人前で泣くのは、好きじゃないって知ってるし。でも、同じ家に住んでいるのに、僕が選択肢のひとつにもあがらないのは癪だから。気付いて扉を開けてくれるのは一番うれしいけど、開けてくれなくても、気付いてくれればいいし。気付かなくても、僕は芳乃が泣いていることを知っている。なんにもしないよりは、ちょっと部屋の前に行って、様子をうかがえたら、それでまあ」
「そんなことのために?」
「芳乃の選択肢に入れるのは僕だけだろ」
「ん、」
「僕だけにして」
僕だけにしろ。執着的な言い方だった。譲のそんな言葉遣いは、初めてだった。
譲が大きくお酒をあおる。ふうとため息が聞こえた。
「僕だけにしてくれてたら、今のところは満足してる」
「満足?」
「うん。だいぶ。芳乃がそんな風に人を近くに置いたのは、初めてだろうから。僕だけだろう」
「そうね……」
嘆息。お酒を飲み終わったので、新しい缶を開ける。たしかにペースがはやいかもしれない。
大事なものは、頭の中だけにとどめておくしかないと思っていたのに。
「弱味が増えた気分ね」
「お互い様」
「はは。そうね、あなたは、好きなものはなかなか教えてくれないものね。特に一番好きなものは」
本。詩。歌。音楽。色。季節。果物。ボールペンのメーカー。自販機で売っている飲み物。おにぎりのおかず。好きなものはなあにと聞いたら、曖昧な笑顔に曖昧な返事。一番好きなものを教えてくれるのに、半年はかかった。
好きなものより、嫌いなものが合う人を探しなさいと訳知り顔で大人は言うけれど。好きなものを言う方がハードルが高い。
「そう?」
「一番好きなものは、教えてくれないでしょう。べつにいいけど」
「そうかな……」
両手が自由になったので、箸を使ってオクラをつまむ。星が綺麗だった。夏の大三角と、それに挟まれた天の川が、木立に囲まれた空間からちょうど見える。譲が小さく息をついた。
「そうかもしれないけど。好きなものは、言いたくない、かもしれない。そうだな、初めて気づいたかもしれない。好きなものは、一番好きなものは、言いたくない」
「うん」
「ロクなことがない……」
譲が苦笑する。
「僕が好きな色は、ネイビーだったけど、母さんは嫌いな色だった」
「ネイビーが嫌いなの? 綺麗な色なのに」
「寂しい色だから嫌いだってさ。でも、僕は、この色が好きって言っちゃったんだな、これが。しかも意地張っちゃってさ」
「どうなったの」
「ヒスってお父さんが帰ってくるまで泣き叫んでいた。べつに、母さんは、僕の意見を否定したかったわけじゃないと思うよ。僕がお母さんはこの色好きじゃないんだねって言えば、それでおしまいだったんだろうけど、否定されたのが嫌で、そんなこと言わないでって何度も僕が言い返したから」
ぷつっと涙が一粒流れた。譲ではなく、わたしの目から。ああ、酔ってしまっている、と思いながら頬をそっとはらう。あまりにも突拍子なく涙が出てしまったので、びっくりする。気付かれないといいのだけど。誤魔化すためにお酒を口に運ぶ。
譲の声は冷静だった。彼にとってはもう遠い過去の話しなんだろう。今更傷口だと名づけるつもりはない、と声色が物語っている。
「もう言わなくていい、と思った。べつに誰かに認めてもらわなくても、僕の好きなものは僕の好きなものでなんにも変わらないんだから。嫌いなものはいくつかあるけど、そんなこと誰かに言うより適当に合わせる方が楽だった。勝手にしろ、って。まあそうなんだよな。僕はずっと傷つけたくないものを隠し続けていて、それ以外はぜんぶどうでもよかったんだろうなあ」
譲が、自分の心の奥底を話すときの声は、必要以上に乾いて、さみしい。真冬を思い出すくらいには。冬の海風が頬を痛いほどはたいてくるのを思い出すくらいには。
傷ついた過去を思い出すのは、たしかに治療ではあるけど、なによりも苦しいことかもしれなかった。ふだんはなんてことないような顔をして生きているのは、過去を片隅に追いやって、目をそらし続けているからに違いないのだ。
「ずっと僕は逃げ続けているんだ。……芳乃こそ、よく帰ろうと思えるよなって。お母さんにも、一歩も引いてなかったし」
「譲がいたからね。お兄ちゃんも、義姉さんもいたし。わたしがぐだぐだしてたら、せっかく味方してくれてる人たちも困るでしょ」
あなたがいたからね、と繰り返す。
それだけは、忘れてほしくないし、勘違いしてほしくなかった。
「わたしだって、ずっと逃げ続けていたんだから。家から出て、華道なんて半分捨てて、両親と連絡するのもお兄ちゃんに任せっきりにして。ここに帰ってきたのも、2年ぶりくらいだよ」
「うん……」
「さっきは、譲がいなくなっても、平気みたいなことわたし言ったけど」
ぽとっと涙が落ちた。胸がいっぱいいっぱい。
「ぜんぜん平気じゃないよ。そのくらい譲は支えになってるよ。それは本当」
こんなこと、普段は絶対言わないけど。重荷になりかねない言葉だってわかっている。わたしに付き合いきれないと譲が思ったときに、別れになるときに、引きずる言葉になるのは嫌だった。
メンタルクリニックで、患者本人も家族も参ってしまうのを何度も見てきた。交流しているわけじゃないけど、日に日にやつれていく顔や、きちんとしていた服装が雑になっていくのを見ていたら。ひとりの方がいいと思ってしまうものだった。
「でもね、あのね、」
「僕の重荷になりたくないだろ。わかってるよ」
ぐっと頬をこすられた。う、と声が漏れる。
「もう休んだら」
「んー……」
大きな手に涙をぬぐわれるままにして、目を閉じる。頭がふわふわする。
「譲が寝るまで起きてたいなあ」
「僕も寝るよ。立てる?」
譲が立ち上がって、わたしの背後に回る。休んだ方がいいらしい。手を取られる。わたしが先に寝たら意味ないのに。
「片付けも僕が適当にしておくから」
「悪いよ」
「準備してもらったんだから当たり前だろ。立って。ゆっくり」
「はあい」
立ち上がったら足元がふらついた。思ったより酔いが回っている。譲の顔を真正面から見上げる。普段通りの顔だった。わたしより頭一つと半分背が高い。目元のほりが深くて、黒い瞳と相まって、すこし冷たく感じる顔立ちだ。
つかまり立ちをする赤ちゃんの歩行練習のように両手を引かれる。いい年しているのに、と思えば小さく笑い声が出た。蚊帳をかきわけて、布団に転がる。夜気で冷えている。薄い掛布団を体にかけられて、髪の毛をほどかれて、顔をそっと撫でられる。ずっと暗い中にいたけど、さすがに逆光になった譲の表情まではわからなかった。
「酔ったなあ」
「おいしかったあ」
「そりゃあよかったけど。おつまみも手の込んだものばっかりだったし」
「義姉さん料理上手だからね」
仰向けだと苦しいので、体を捻って横向きにする。甲斐甲斐しく掛布団がかけ直された。顔にかかった髪の毛を丁寧に払われる。
「ほら、目閉じて」
どろどろ意識がとけていく。言われるまでもなく目を開けれなくなってしまった。おやすみ、と譲がささやいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます