第5話

 昇った日は今日もまた、白く街を照らしている。


 行き交う人混みは陽光に霞み、灰色に滲んで見える。それにまじって、ぽつぽつと黒い点が飛んでいた。

 カラス達はいつもどおり街を旋空し、時折舞い降りては人々を眺めている。昨夜の出来事を忘れてしまったかのように。

 しかし、彼らの青光りする瞳は、人以外の何物かを探し続けていた。


 貯水池の近くに立つ鉄塔の天辺に黒衣の女は佇んでいる。

 街からは絶え間なくあらゆる風と音が流れてくる。もし異質な何かが紛れ込めば、きっとここに伝わってくることだろう。

 しかし今は何も変わらない。昨日までと一つも変わらない。




 乾ききったアスファルトを車が走り去り、埃の中から小さな赤い粒が転がり出た。粒は風に運ばれ側溝に落ちた。


 ひび割れた泥の上に落ち着いたそれは、やがて来るであろう雨を待っている。

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路地裏の咆哮~zakuro vs crow~ 小泉毬藻 @nunu_k

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