第153話 生徒と戦う僕

 教室の中はざわつきが収まらないがジェフリー先生が講義を再開した。皆一般教養の講義など上の空と言った感じになってしまっている。


 講義が終わった後早速訓練場に向かった。案の定というか他の生徒も野次馬についてくるようだ。ジェフリー先生もオロオロしながら付いてくる。


 訓練場には魔鉄製の高い壁と魔導バリアを設置しているため多少強めの魔法を使っても周りに被害は出ない。全力で魔法を放てばどうなるか分からないが……


「ルールはどうする? 模擬演習じゃなくて的当てでも構わないけど?」


「いいえ、一対一での勝負をお願いします。ルールは時間無制限で相手の意識を奪うか降参させれば勝ちというのはどうでしょう?」


「それで構わないよ。じゃあジェフリー先生、開始の合図と審判をお願いします。審判は魔障壁の外からで構いませんので」


 訓練場の外にはAクラスの生徒だけでなく、いつの間にかB、Cクラスの生徒も集まっている。


 僕とライオネルが闘技場の端と端に立ったところでジェフリー先生が開始の合図を遂げた。


 まずは目の前に魔障壁を展開し相手の出方を伺う。ライオネルも同じ考えのようでライオネルの前に魔障壁が展開された。


 まだライオネルとの距離は、数百メートルはあるがこちらに近づいてくる様子はない。恐らくライオネルは純粋な魔法使いタイプなのだろう。


 声までは聞こえないがライオネルの口が動き出した。学年主席というくらいだから無詠唱魔法程度使えると思ったがそうではないらしい。


(とりあえずライオネルの魔法を一発受けてみて反撃で一発食らわせるか)


(一応学年主席だからちょっと心配だけど……)


 ライオネルの口の動きが終わった瞬間、炎の塊がこちらに向かってきた。この年齢で殺傷力のある魔法を放てることは天才と言っても過言ではないが正直期待外れだ。ライオネルの魔法は僕の魔障壁に当たると呆気なく消滅した。


 ライオネルの炎魔法へのお返しにと僕も炎魔法を放つ。僕の炎魔法『炎弾』は無詠唱かつ魔力のほとんどを熱に返還しているため、ライオネルは魔法が放たれたことに気づく様子もない。


 炎弾はライオネルの魔障壁にぶつかると弾け周囲に熱を拡散した。こちらまで熱気が伝わってくることから恐らくライオネル周辺はかなり温度が上昇しているだろう。ライオネルは熱さのためか顔をしかめている。


(少し実力の差を分からせてやるか。ライオネルが魔力圧縮している場所を俺が教えるから奴の魔法を全て対抗魔法で打ち消すぞ)


 魔法は圧縮した魔力をエネルギーに変えることで発動される。圧縮した魔力は非常に不安定な状態であり、使用者の魔法制御力を超えた衝撃を与えれば簡単に拡散してしまう。無詠唱魔法の場合は、発動までの速度が速いため打消しはほぼ不可能であるが、詠唱魔法であれば発動までに早くとも数秒かかるため簡単に魔力を拡散できてしまう。


 ライオネルは常に突き出した右手の前で魔力を圧縮しているらしく非常に狙いが付けやすい。ライオネルが何度も魔力を圧縮するがその度にライオネルが圧縮した魔力をかき消す。


 それが三回繰り返されたところでライオネルは歯がゆそうに僕の方を見る。ライオネルに打つ手はもうないだろう。


 訓練場の外から見る生徒たちには、僕とライオネルの間で何が起こっているのか全く分からないようで首をかしげている。


(じゃあ仕上げはド派手な魔法で決めるか。外の野次馬もド派手な戦いを期待していただろうからな。ここは『アースドレイク』を使うぞ)


(あの見掛け倒しの威力がほとんどないハッタリ魔法? 久しぶりだけどできるかな……)


(威力はないがカッコいい魔法だろ! こういう場でしか使えんからな)


『アースドレイク』は土で作ったドラゴンを相手にぶつけるだけの魔法で迫力はあるが威力はいまいちの見掛け倒しの魔法だ。周りから見たら土竜を召喚したように見えるかもしれないので野次馬は盛り上がるだろう。


 土竜の土像はそれなりに精巧に作っているつもりであるが、あまり長い間作観察されると作りの粗さがばれてしまう。そのため、この魔法のポイントは土の中でドラゴンの像を作り、地上に出すと同時にすぐ相手にぶつけることだ。


 ライオネルの魔法を妨害しつつ訓練場の真ん中地下でドラゴンの像を作り上げ、ドラゴンの像が組みあがると同時に地上に召喚する。更に、視界を少しでもさえぎるために砂ぼこりも巻き上げる。訓練場の外からは砂ぼこりの中に君臨するドラゴンに見えるだろう。


「ド、ドラゴンだ! ドラゴンが出たぞ!」


「早く騎士団を呼んでくれ!」


 訓練場の真ん中に突然ドラゴンが現れたことで外からは悲鳴が上がる。今回のドラゴンはなかなかの出来だったようだ。


 バレないうちにと、地上に出したドラゴンの像にすぐに運動エネルギーを与えライオネルに突撃させる。


 ドラゴンは形を崩壊させながらもライオネルの魔障壁にぶつかり、完全に形を崩したドラゴンは土に戻りライオネルを飲み込んだ。


「学園長先生が召喚したドラゴンだったのか?」


「ライオネル死んだんじゃないか……?」


 外野からはライオネルを心配する声が聞こえてくる。ちなみに召喚魔法は物語の中ではよく出てくるが現実では見たことがない。


 ライオネルは魔障壁を展開していたため、さほどのダメージはないかもしれないが、かなりの量の土に埋もれてしまったため早く助けないとまずい気がする。


 ライオネルの下に駆け寄り覆いかぶさっている土を魔法で除去していく。ライオネルは比較的浅い層に埋まっており、意識は失っているようだが呼吸はしているし命に別状はなさそうだ。


 すぐに学園の治療師が駆けつけてきて治癒魔法を使ったことでライオネルは目を覚ました。外にいた生徒や先生もいつの間にか僕らの周りに集まってきている。


「ライオネルいかがでしたか? ご主……学園長先生はお強いでしょう?」


 エリーがいつも通りの笑顔でライオネルに話しかける。ちなみにエリーには学校でご主人様と言わないように言いつけてある。


「完敗です。私の魔法はすべて対抗魔法で妨害され、最後の召喚魔法には全く抵抗もできませんでした」


 ライオネルに先ほどまでの覇気はなく完全に凹んでしまったようだ。


「学園長先生は無詠唱魔法の講義を開催しますのでライオネルも参加なさい。学園長先生のもとで習練すればユートピア領に貢献できる人材として育つはずです。あなたには期待していますので頑張ってください」


 エイブラムの教育のたまものだろうか、エリーが貴族らしいことを言っている。ライオネルも起き上がり膝をついてエリーの話を聞いている。


「はい。精進させていただきます。学園長先生の下で学べば私も先ほどの召喚魔法を使うことができるようになるのでしょうか?」


「無詠唱魔法を習得すれば使えるようになるかもしれないから……頑張って」


 召喚魔法ではなく、土の像をただぶつけているだけだと分かったらライオネルはがっかりするだろうか……


 この日、魔王がドラゴンをも使役するとの伝説が新たに加えられた。

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