第149話 エリーの夢とはめられた僕
「神剣アーニマールの解析が一応終わったよ。まだまだ分からないことだらけだけど……」
クリスに神剣を預けてから三日程経つ。クリスの目の下に大きなクマができているところを見るとほとんど寝ないで解析をしたのではないだろうか……
「ずいぶん早かったね。それで、どうだったの?」
「材質についてはドワーフのギルさんに見てもらったけど全く分からないみたい。ただ、魔力の吸収率が魔金以上、硬さは魔鉄以上、性能はギルさんが開発したオリハルコンをはるかにしのぐらしいよ。ギルさんは本物のオリハルコンとの性能の差がありすぎるってショックを受けていたみたい。今の技術だと打ち直しや修復も難しいんだって」
「本物のオリハルコンを量産できればって思ったけど今の技術じゃまだまだ難しそうだね。神剣の魔力を切り裂いたり、封印できる能力の仕組みは分かった?」
「僕も神剣を見てみたんだけど、分かったのは魔法陣が使われているってことくらいかな。詳しくは分からないけどかなり複雑で巨大な魔法陣が使われているみたいなんだよね」
「複雑な魔法陣ってのは分かるけど巨大な魔法陣ってどういうこと?」
「あくまで想像だけど、とっても薄い金属板に魔法陣を書いてそれを何度も折りたたんで剣に仕上げていると思うんだ。そんなことをすれば魔法陣同士が干渉したり、鍛治で魔法陣がつぶれたりして、どう考えても実現できるはずがないんだけどね……あとこれも想像だけど、恐らく数百メートル四方の金属版に麦粒程の大きさの魔法陣を大量に書きこんでいるはずだから……僕が作る魔法陣の何億倍、下手すれば何兆倍もの情報量をこの神剣が持っていることになる。考えれば考えるほどあり得なくて恐ろしいよ」
「つまり、あり得ない情報量を詰め込んだあり得ない製法で作られた剣ってこと? てことは再現するのは難しいよね……」
「今の技術力なら何万年あったとしても再現は不可能だよ。本当に作れるとしたら神様くらいかもね」
さすが神剣というだけはある。ユートピアの総力をもって解析をしても分からないことが分かっただけであったが、クリスやドワーフたちが解析したのであれば納得するしかない。
「とりあえず神剣についてはどうしようもなさそうだし保留だね。あとは魔導砲や魔導バリアの設置は順調だし、アンドロイドの開発だね。そっちも難航しているみたいだけど……」
「どうしても詰め込める情報量を増やせなくて行き詰っていたけど神剣の情報化構造がヒントになりそうだし、色々と試してみるよ……」
クリスはだいぶお疲れのようで言葉の歯切れが悪い。
「クリスもつかれているみたいだしゆっくり休んでたまにはエリーと遊びにでも行ったら?」
「そうしたいところだけどエリーも忙しいみたいだし、子爵様と二人で出歩けるような場所もないしね。それよりいい加減眠いから少し寝てくるよ」
クリスはそういって部屋を後にした。
確かにエリーの安全確保の問題もありエリーと二人だけで出かけることはエイブラムが許さないだろう。街中に散歩に行くわけにもいかないし……
クリスの報告が終わった後は、珍しくやることもなかったのでエリーのところに行くことにした。僕の屋敷と子爵の城は歩いて五分程度の距離だ。
「エリー遊びに来たよ。今忙しいかな?」
エリーは執務室で忙しそうに仕事をしていたが、僕が声をかけた瞬間ペンを机の上に置いた。幸いなことに今エイブラムは出かけているらしい。
「大丈夫ですよ。ご主人様が遊びに来られるのは珍しいですね」
エリーはニコニコしながら答える。
「今日は珍しく暇だったから遊びに来たんだ。今は何の仕事をしているの?」
「来年度から設立予定の領立学園の資料に目を通していました。もう学園自体の建設は進んでいるのですけど教師の手配がなかなか進まなくて困っていまして」
「そういえばそんなこと言っていたね。何の科目の先生が足りないの?」
領内への学園設立についてはエリーの肝いりで始まった事業で設立に向けてずっと頑張っていたみたいだ。
「魔法と魔道具の教師があと一人ずついればどうにかなりそうなのですが……魔法使いも魔道具職人も他にも儲かる仕事はたくさんあるからか、なかなか応募がありませんで……」
確かにユートピアは空前の建設ラッシュと好景気で魔法使いと魔道具職人の需要はとんでもないことになっている。もともと教師は名誉職みたいなもので引退した騎士や冒険者がやることが多く、そこまで賃金が高いわけでもないため、わざわざ教師職に応募する者は少ないのだろう。
「魔法の教師は何人か当てがあるからお願いしてみるよ……魔道具となるとやっぱりクリスかな?」
魔法の教師であれば冒険者のリラなど何人かは当てがある。
「クリスは忙しいですからなかなか頼みづらくて……」
ん? 確かエリーはクリスのことは様づけで呼んでいたと思うが……
「もしかしてクリスの呼び方変わった?」
「あ、ごめんなさい。クリスって呼んでくれって言われまして……やっとこの呼び方にも慣れてきたところです」
確かにクリス様じゃ距離感を感じるもんね……少しは二人の距離が近づいたのだろう。
「僕のことも呼び捨てで呼んでくれると嬉しいんだけどな。クリスには僕から教師の件頼んでみようか?」
「ご主人様はご主人様です! 教師の件はよろしければお願いします」
やはりだめだったか……ご主人様と呼ばれることが嫌という訳ではないが、できればもっと普通の呼び方をして欲しい。
「任せておいてよ。エリーのお願いとなるとクリスは間違いなく受けると思うけどね。そういえばエリーは学園には通わないの?」
「私がですか? 全く考えていませんでしたが……」
「エリーには国立学園に通ってもらいたかったけど僕の都合でユートピアに来てもらったからね……できれば今からでも学校に通ってもらいたいんだ」
クリスが教師になりエリーが学園に通えば二人が話せる時間も増えるだろう。なかなか良い考えのような気がする。
「ご主人様がそう言われるなら考えてみますが……執務も忙しいですしエイブラム様が何と言われるか……」
「大丈夫! エイブラム様には僕が話しておくから!」
エリーにそう告げ勇み足で執務室を後にしたが果たしてエリーが学校に通うことをエイブラムが許してくれるのだろうか……
若干心配になりながらも城の廊下を歩いていると、都合が良いのか悪いのかエイブラムとすれ違った
「呼ばれもしないのに城に来るのは珍しいな。何かあったのか?」
「ええ、今度できる学園についてエリーと話をしていました。ところでご相談なのですが、エリーを学園に通わせることはできませんかね? 本当は国立学園に通わせたかったのですが僕の都合でこっちに呼んでそのまま子爵にしちゃいましたからエリーはまだ学校に通ったことがないんですよ」
「いいのではないか? 同年代の奴らと過ごす時間も大事だし良い経験になるだろう。だがエリーミアが通うとなると警備を強化せんといかんな……」
「意外とあっさり認めてくれるんですね。執務があるからダメだ! って言われると思ったのですが」
「お前は俺のことを何だと思っているんだ? 貴族としての勉強も大事だができるだけ同年代の仲間も作って欲しいとも思っている。エリーミアの人生は俺たちヒュム以上に長いからな。信頼できる仲間が多いに越したことはない」
「エイブラム様! そんなにエリーのことを考えてくれていたなんて……僕は感動しました!」
予想外のエイブラムの発言に思わず感極まってしまった。
「エリーミアは妹みたいなものだからな。幸せになって欲しいさ。というわけで、チェイス、お前も学園の教師の仕事を受けろ。ちょうど魔法教育も充実させようと思っていたから丁度いい。どうせクリスにも魔道具の教師を依頼するつもりなのだろう? チェイスとクリスの二人が学園にいれば警備は問題ないな」
「えっっと……僕は建設工事が忙しいですし……魔獣狩りの仕事もありますので……」
ただでさえ少ない休日をこれ以上削られるわけにはいかない! 本当に狩りをする時間がなくなってしまう。
「かわいいエリーミアのためだ。お願いできるよな?」
「はい……」
まんまとエイブラムにはめられたような気がする……
言うまでもないかもしれないが、クリスはエリーのお願いだというと快く教師の仕事を受けてくれた。
結局僕とクリスの二人が来年から領立学園の教師になることになってしまった……
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