第148話 ペガサスの繁殖を頑張る僕

 オリジンから西に百km程の地にペガサスの楽園がある。広大な平地には草木が咲き乱れ、エサは豊富で外敵はいない。空を見上げればペガサスが飛び交い、湖を見ればペガサスが羽を休め、どこを見渡しても貴重な魔獣であるペガサスの姿が確認できる。


 まあ、ペガサスの楽園と呼んでいるのは僕たち人間だけであるが……


「ここもだいぶ形になってきただよぉ。そろそろ何匹か出荷してみようと思うがぁどうだぁ? しかしぃ、ペガサス牧場とはチェイスはの考えはいつもぶっ飛んでるだぁ」


 独特の訛りで話すのは、このペガサスの楽園ではなく、ペガサス牧場の経営を任せている商人のライスだ。


「気性も荒くないし、繁殖も簡単で、何より肉が美味しいですからね。これで移動手段としても使えれば完璧だったのですけどね……とりあえず五匹くらい出荷してみましょうか」


 以前、ペガサス騎士団を作りたくて捕獲をしてきたが、捕獲後にペガサスに乗って飛ぶことは不可能だと判明した。エイブラムに無断で仕事を休みペガサス捕獲に行ったためそのときは死ぬほどエイブラムに絞られたが、予想外にペガサス肉が美味しく、繁殖が容易にできることが判明したため、ペガサス牧場建設に着手したのだ。


 ペガサス牧場の経営は面識のあった商人のライスに、牧場の護衛やペガサスの捕獲を同じく面識のあった冒険者のロックに依頼している。


「五匹だなぁ。すぐに出荷の手配をしておくだぁ。丸々と太ったペガサスを出荷してやるから楽しみにしとくだよぉ」


 ライスは商人としての才覚はさっぱりだが、ペガサスの飼育に関しては予想外の才覚を発揮している。もともと動物好きであったし、商人より牧場経営の方が向いているのかもしれない。


「そういえば魔導バリアの調子はどうですか? 見たところちゃんと作動しているみたいですけど」


 ペガサス牧場はペガサスの飼育場としてだけでなく、魔導バリアの実験場にもなっている。何しろペガサスは空を飛びまわるため、普通の城壁では脱走を防止することができない。そのため魔導バリアを使用してペガサスの脱走を防いでいるのだ。


「何も問題はなさそうだぁ。ペガサスも魔力の壁が見えているのかぁ、ぶつかることもないしなぁ。牧場内はエサや魔力が豊富だしぃ、外敵もいないからなぁ。わざわざ逃げ出そうとするペガサスもいないんろうなぁ」


 ペガサスはなかなか見つからないことや飛行することを考慮してランクDの魔獣となっているが、強さは普通の馬に毛が生えた程度だ。繁殖力が強く成長も早いことから上位魔獣のエサになることが多いそうだ。


「それもそうですね。じゃあ、ペガサス肉を楽しみにしていますのでよろしくお願いしますね。うまくいけばペガサス牧場もどんどん増やしていきますから」


 ペガサスは一回に四、五匹を生み、魔力が豊富な場所では一年程度で繁殖が可能になるまで成長することから、どんどん増やすことが可能だ。自然界では餌として間引かれるためそこまで数は増えることはないが飼育下ではゴブリン並みの勢いで増えてしまう。また草食の魔獣で魔力が豊富な場所では多くのエサを必要としないところも飼育向きだ。


「そうなればぁ、ますます儲かるなぁ。二つ目、三つ目の牧場も是非おらぁに経営させてくれぇ」


「いいですけど、二つ目以降の牧場の建設費用や土地代はライスさんに出してもらいますからしっかり貯めておいてくださいよ」


「ってことはぁ、おらぁが牧場の持ち主になれるってことかぁ。それはやる気がでるだなぁ。沢山働いて沢山稼ぐだよぉ!」


 今回の牧場建設費用は領地の予算から出しており、通常の税とは別に、売上の一部を税として受け取ることで回収を予定している。牧場経営はライスに任せているし、頑張れば頑張るだけライスの儲けは大きくなるが牧場自体は領地のものでライスは雇われの経営者でしかない。


 ライスが今後牧場経営を自らの手で始められるようになれば、ライスは経営者として儲けられるし、領地としても食肉の安定供給につながるため、両者両得の状況になる。


「僻地なので土地代は安いですけど、建設費や魔導バリア設置費用は高いですよ。ある程度は融資もできますので、今後牧場建設を考えるときは声をかけてくださいね」


 ちなみにこの牧場と同じ規模の牧場を作ろうと思えば金貨数千枚は軽く飛んでいくことになる。人生何度も遊んで暮らせるだけの金額になるが儲けはその分期待できるだろう。



 今回オリジンに運んでもらったペガサスは一頭金貨二十枚という魔獣としては破格の安さで販売した。生産が安定すればもっと安値で販売することもできるだろうし、そうなればユートピア領の食糧事情は格段に改善する。


 ふらっと町に出歩けばあちこちでペガサス肉料理が出てくる領地などなかなかないだろう。ペガサス肉が食糧、特産、観光など様々な分野でプラスの影響を与えるのだ。








「以上がペガサス牧場の視察報告ですが、使えないと思っていたペガサスがこんな形で領地経営の役に立つなんて予想外でしょう!」


「確かにペガサス牧場については今後のユートピアの発展に寄与するだろうし、よくやっていると誉めてやろう。それで、わざわざこんなプレゼンをするからには何か要望があるのだろう? 言ってみろ」


さすがエイブラム。僕の狙いが一瞬でばれてしまった。


「はい。実は第二の魔獣牧場としてゴブリン牧場を考えていまして。繁殖や成長速度はペガサス以上、エサは残飯でもなんでもいいですし、骨を煮込んだスープは栄養豊富でとっても美味しいんです。使い物にならない肉片やだしを取った後の骨はエサとして再利用できますしいいことづくめ! 他にも……」


「待て待て待て! チェイスが何でも食うのは知っているが、まさかゴブリンまで食うのか……?」


エイブラムは若干引いた表情で僕を見ている。いつもは笑顔のエリーも表情を強張らせている……


「ゴブリンを煮込んだスープに小麦で作った麺を入れて食べるととっても美味しいんですよ。今日は参考までにスープを持ってきましたので召し上がってみてください」


 スープを入れた鍋を取り出し、魔法で温めてお皿に注いだ。エイブラムもエリーもとても嫌そうな顔をしている気がするが……気のせいだろうか? 


「チェイスの気持ちはうれしいが……こればかりは……すまん……」


「ご主人様がどうしてもというなら飲みますが……私もできればご遠慮したいです……」


 ゴブリンスープからはとてもいい匂いが漂ってきているのに二人ともとても気分が悪そうだ。エリーに至っては今にも吐きそうな顔をしている。


 結局二人ともゴブリンスープには手をつけず、僕のゴブリン農場計画は失敗に終わった。

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