第147話 大聖堂で戦う僕

 エニマは憤怒の表情でルアンナに向かって魔法を放つがルアンナが魔障壁を展開し軽々と防ぐ。


「幻覚魔法が来るぞ! 気をつけろ!」


「どう気をつければいいのですか!?」


「そんなの知るか!」


 もう無茶苦茶だよこの人……念のため目の前に魔障壁を展開するがなかなか魔法が飛んでくる気配がない……いや、正確には何かしているようだが何も効果が表れていないように感じる。


「なんで効かないの……? うん? 君の体内魔力……もしかしたら……いや……それでもおかしい! 」


 エニマはブツブツと何かを言っているがよく分からない。


 ……どうやら幻覚魔法を放っているが僕に効かないらしい。


「何か……しているの?」


 エニマがなにかをしているようだが何の影響もないためエニマに問いかける。


「そういえばチェイス君は魔力感受性が極端に低かったな。エニマのような幻覚系の魔法使いにとってチェイス君は天敵だな」


 何がそんなに面白いのかルアンナは大笑いしながら僕に幻覚魔法が聞かない理由を分析している。


「あの……決してエニマさんに魅力がないから効かないってことじゃないので安心してください……」


 ルアンナが更に笑い声を大きくした。


「チェイス君そんなにはっきり言うのは失礼だぞ。さすがに若いチェイス君にババアの色気は通じないか。あー笑いすぎて腹が痛い」


 戦闘中だというのに全く緊迫感を感じない状況になってしまった……


 エニマは今にも泣きだしそうな表情で俯いている。さっきからコロコロと表情が変わって見ているととても面白い。


「いえ、本当にそんなことないですって! エニマさんとっても女の子らしくてかわいいですし、魅力的ですよ!」


「ほ、本当に? 私かわいい?」


「ババアがかわいこぶっても気持ち悪いだけだと思うぞ……」


「あなたは黙ってて! チェイスさまとお話しているの!」


 ルアンナは呆れたようにエニマのことを鼻で笑って話すのを止めた。


(なぜかよく分からないがかなり気に入られたんじゃないか? 年齢的にはババアだが見た目は悪くないからハーレム候補として……)


(いや、本当にそういうのはいいから! なんか嫌な予感がするから早くこの場から立ち去ろう!)


「チェイスさまー、もしよろしければ二人でお話しませんかー? ルタ様が騒動を治めるまでもう少しかかると思いますしー」


 エニマの声が再び甘ったるいゆっくりとした口調に変わった……これは本当にまずい気がする……


「せ、せっかくだけどルタも僕に帰ってもらいたいって思っているみたいだし……またの機会にでも……」


「うーん……そうですねー、確かにルタ様もそう言っていましたしー……じゃあ今度チェイスさまの国に遊びに行きますのでそのとき遊んでくださいねー」


 少し油断した隙にエニマの姿が消えていた……




 エニマはいつの間にか僕に近づいていたようで僕の左手に胸を当てるように抱きついてくる。恐らく身体強化魔法を使って僕に近づいたのだろう……


 左手に当たる柔らかい感触がとても気持ちいいが、これ、戦闘だったら殺されていたような気がする……


ルアンナはもう警戒していないのか一人で笑い声をあげている……


「そ、そうですね! もしユートピアに来られたら歓迎します! で、では今日はこの辺りで……」


 僕の腕に絡めるエニマの手から抜け出し、ルアンナの近くにかけよる。


「なかなか面白いものを見せてもらったぞ。さて、欲しいものは持ったし帰ることにするか。ルタによろしく伝えておいてくれ、次に会ったときは容赦しないとな!」


 エニマが名残惜しそうに僕から離れる。


「はーい、ルタ様に伝えておきますねー。では、チェイスさまーまたお会いしましょうねー」


 宝物庫を出ていく僕らをエニマは満面の笑みで手を振りながら見送ってくれた。


 大聖堂を囲んでいる城壁を出ると、あたり一面、騎士や冒険者たちの死体が転がっていた。周辺から戦闘の音が聞こえないことから戦場は既に別の場所に移ってしまった後だろう。


「敵味方関係なくかなり被害がでているようですね。せっかくの綺麗な街並みもボロボロですね……」


「どうせこの後ほとんどはルタにめちゃくちゃにされてしまう。死ぬのかが早いか遅いか程度の違いしかないだろうな。早く町を出て帰るぞ」


 ここでルタを倒せないことに心残りを感じながらも僕とルアンナは聖都を後にした。








 現在ユグド教国での出来事や調査結果の報告を城で行っているところだが……


「とまあ、色々なことがあったが、夢魔族のババアがとにかくチェイス君のことを気に入ってな。あの様子だと近々ユグド教国の使者としてやってくるぞ。チェイス君に色目を使うババアの顔は何度思い出しても笑えるな」


「ご主人様はモテますからね。さすがはご主人様です」


「やっぱり遠くに行くときは私も一緒に行かなきゃ何があるか分からないね……」 


 ルアンナが思い出し笑いをしながら魔法騎士団長エニマのことを話す。子爵のエリーは訳の分からないことを言っているし、婚約者のシエルは若干呆れた様子で心配しているようだ。


「エニマに好かれたのは僕のせいじゃないからね! 魔法が効かなかったことに対してフォローしたくらいだよ!?」


「基本的に夢魔族の魔法で落とせない男はいないからな。よっぽど衝撃だったんじゃないか? チェイス君が優しくフォローしたのが更に追い打ちになったんだろうな。本当に天然の女ったらしだな」


 ルアンナがまた大笑いしながら話す。


「もうその話はいいですよ! 問題はプオールが復活したことでしょ!」


「それは確かに問題だが一領地でどうにかできる問題ではないからな。そのうちエニマがユグド教国の使者として来るだろうし、詳しい話はその時に聞けばいいんじゃないか? 奴は何もしらなそうだったがな」


「伝説にまでなっている魔神プオールの復活ですよ!? そんなに適当でいいのですか?」


「仮にルタがプオールだとしても、今のルタ程度であれば問題なく殺せるしさほどの問題はないだろ。もしかしたら魔力や肉体も復活していると心配したが、ルタがプオールであればそれはないからさほどの心配はないだろ」


(確かに今のルタならチェイスとルアンナがいれば問題なく倒せるからな。それに倒したとしてもルタの本体は精神体だからまた別の肉体に乗り移るかもしれんしどうしようもないからな)


「それもそうですけど……念のため肉体が封印されている魔の森に行って肉体を破壊したり、できることはあると思いますが……」


「肉体が復活すれば多少やりづらくはなるがそこまでの影響はない。プオールが脅威だったのはその圧倒的な魔力量だからな。賢者の石については探しようがないしどうすることもできないからな」


「ということで決まりだな。今後ユグド教国がどのような仕掛けをしてくるかわからんが現状は国力の増強が不可欠だ。チェイスは今まで通り建設工事を頑張ってくれ」


 エイブラムにうまくまとめられた気がするが僕としては心配が尽きない。……決して建設工事から逃げたいから反論しているわけではない。


「そういえば神剣アーニマールだっけ? 持って帰って来たなら見せてもらいたいんだけど。材料も気になるし、魔法陣が組み込まれているはずだから研究してみたいんだよね」


「分かった。あとでクリスの研究室に持っていくよ。また神剣が作れれば封印することもできるけど、そこまでは難しいよね」


「多分そこまでは無理だろうけど……できる限り研究してみるよ」


(そういえば色々あって忘れていたが、エイジア王国の王都で占い師のばあさんが言っていた『神の島』のことだが、ルアンナなら場所を知っているんじゃないか?)


(ああ、完全に忘れてたね。確か勇者ギルバートが神剣を手に入れたところだったし……ルアンナなら知っているかもね)


「そういえば先生は『神の島』の場所をご存知ですか? 以前龍脈を使った占い師に会ったことがありまして、厄災はもう始まっている、『神の島』のことを覚えておけって言われたのですよ」


「神剣は私と会う前に既に手に入れていたからよく分からん。そのあたりの話はギルバートから聞いたこともないからな。占い師のばあさんには覚えておけと言われただけだろ? それも今気にすることではないと思うぞ」


「確かにそうですが……」


「さあ、この話は終わりだ。魔導砲や魔導バリアの配備など話し合うことは山ほどあるからな! せっかく全員集まったんだ。今日はそのあたりの話も詰めていくぞ」


 いつの間にかユートピア領の主要メンバーに加えられたルアンナ含め、今後の領土運営について話し合うことになってしまった。エイブラムはリリーと婚約してからますます仕事熱心になってしまい困ったものだ……

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